第302話 これから始まる新生活

 明くる日。窓から差し込む眩しい陽光にくすぐられて自然と目を覚ました俺は、思いっきり大きく欠伸をしてから隣ですやすやと寝息を立てているリリーの髪をそっと撫でる。緩いカーヴを描く金髪の毛先が、朝日を反射して虹色に輝いている。健康状態がすこぶる良いのか、リリーの髪は実にサラサラだ。たいへん触り心地が良い。

 そんな風に髪の毛で遊んでいたら、リリーが目を覚ました。


「……んー! はぁ。おはよう、ハル君」

「おはよう、リリー」


 起き上がったおかげで毛布が剥がれ落ち、リリーのきめ細やかで綺麗な肌が露わになる。柔らかそうな肉付きをしていながら、ほっそりとくびれた腰にたわわに実った豊かな双丘。その先端には桜色の美味しそうな突起がほんのりと色づいている。……うん、昨晩はご馳走様でした。


「まだちょっと腰が痛いわ……」

「そりゃあ、あれだけハッスルしたらそうなるよな」


 初夜ということもあって、何もかもを忘れて思いっきりベッドの上で大運動会に励んだ俺達だ。全身汗まみれの汁まみれではあったが、夏場ということもあって風邪を引く心配もない。水分補給だけはしっかりしつつ、結局明け方までがっつりしっぽりずっぽししていた。

 前世で読んだエロ漫画のワンシーンが如く、水滴の付いたコップの中の氷が「カラン」と音を立てていたのは本当に氷属性魔法の無駄遣いだったと思う。だがエロかったのでヨシ! いつかやってみたかったことを一つクリアした俺である。


「もう太陽が真上に昇ってるわね」

「すっかりお昼だなぁ」


 疲れ果てて眠りに落ちたのが薄っすら空が明るみだした頃だから、そりゃあ起きたら昼になっているのは当たり前っちゃあ当たり前なんだが、なんというか一日を無駄にしてしまった感がどうしても否めない。……まあ、昨晩はたいへんお楽しみだったわけで、それを思えば別にこういう日も悪くはないか、と思い直す俺。リリーはまだちょっと眠いのか、目をごしごしと擦ってうつらうつらしている。


「……とりあえずひとっ風呂浴びるか」

「そうね」


 いい加減に肌のベタつきも不快だし、寝汗その他諸々を流してすっきりするとしよう。


 ……。

 …………。

 ………………。


「はぁう、んあぁんっ、ハル君それだめぇ!」

「リリー……ッ、リリー!」


 結局、風呂でも全然休まりはしなかったのだった。



     ✳︎



「さて、ダラダライチャイチャしている間にお昼時を過ぎてしまったわけですが、これからどうしようか?」


 風呂場で第n回戦をぶちかまして余計に汗をかき、もう一度お湯に使ってさっぱりし直した俺達は、リビングにてサンドイッチを摘みながら本日の予定を決めるべく話し合っていた。


「これから遠くに出掛けるにはちょっと遅いわよね」

「帰りが遅くなってもいいなら話は別だけど、まあそんなに時間に余裕があるわけではないよね」

「ハル君がお風呂で欲情するからよ」

「浴場だけにな」

「もう!」


 心なしか部屋の気温が下がったような気がする。リリーが氷魔法でも使ったのかな?


「んー、ショッピングでもしましょ。ちょうど新しいお鍋が欲しかったし」

「そうだな。軽く買い物をするだけなら、今からでも全然余裕あるしな」


 皇都広しとはいえど、ここは皇都中心部にほど近い貴族街。同じく中心部に位置する繁華街までは然程離れてはいない。


「そうと決まれば早速」


 服装は半袖のワイシャツにチノパンと思いっきり普段着だが、別に外出できないような出立ちでは決してない。まあ流石に貴族には見えないだろうが、あんまりゴテゴテした服を着ても暑苦しくて面倒なだけだしな。このくらいで全然良いのだ。

 リリーはといえば、普段からドレス風のワンピースを常用しているので良いところのお嬢様っぽさがしっかり出ている。お嬢様っぽさもなにも、皇族を除けばこの国で一番身分の高いお嬢様……というかお姫様なのだが、まあそこは気にしてはいけない。可愛ければそれで良いのだ。


「じゃあ、行こうか」

「ええ。新生活に必要なものを買い揃えるのも、言ってみればデートよね」

「そうだな。これから始まる新しい生活について色々考えるのも楽しいだろうな」

「住む場所は変わらないけどね」

「それはそうだ」


 実にもっともなリリーの言葉に笑いながら、俺達は午後の街へと繰り出すのだった。





――――――――――――――――――――――――――

[あとがき]

 皆さまのおかげでついにこの作品も三〇〇話の大台に乗りました! 近々、三〇〇話記念閑話でも書ければ良いなと思います。それとは別に支援者さま限定公開近況ノートのほうもぼちぼち更新できればと思いますので(支援してくださった方、本当にありがとうございます!)今後ともよろしくお願いします!


                        常石及



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