正月記念閑話 イリス・シュタインフェルトの誘惑
これは俺がリリーにプロポーズをする少し前の話。まだヒロインズに手を出さないと心に誓っていた時の話である。
✳︎
「ハルト、私を襲って」
「がおー?」
「違う。そういう意味じゃない。性的に襲ってほしい」
「んなこと言われてもな。結婚してるならともかく、一応俺達まだ学生だぞ」
「ハルトなら責任は取れる。何も問題はない。だからさあ、私を襲って」
たいへん魅力的な提案ではあるんだが、
「まあ責任くらい、いくらでも取ってやるけどもさ。……正式に婚約を発表するまでは婚前交渉ってのは貴族的には外聞が悪いし、シュタインフェルト家の再興って意味でも正式にファーレンハイト家と結納の儀を交わしてからのほうが都合がいいんじゃないのか? 自分で言うのも変だけど、うちって大貴族だよ。縁談相手とか寄り親としての家格は充分だと思うんだよな」
万が一、実家が没落して世の中にこの身一つで放り出されることになっても、まったく食うに困らないどころかそれなり以上に裕福な生活をさせてやれるという自信はある。……あるんだが、現状の俺はファーレンハイト辺境伯家という皇国でも指折りの大貴族の嫡男にして長男にして後継ぎであるわけで。この立場がある限りは、やはりまずは許婚にして正妻であるリリーにプロポーズをした後、正式に婚約を発表、それからようやくイリスに……としたほうが色々と無難なのだ。
ちなみにメイに関してだが、彼女は完全に一般人、というか立場的にはファーレンハイト家の統治する街の領民なので、婚約やら何やらをすっ飛ばしていきなり襲……おいたしても貴族にあるあるの
とはいえ、そんな初めてなんてあんまりにもあんまりだし、メイは俺の大切な幼馴染なんだから、色々と段階というものは大事にしたい。実際、俺とメイとの間には身分差なんて無いも同然なわけだし、お互いにとって一番望ましい形で結ばれたいと思うのはたとえ現代日本の感覚を持っていなかったとしても至極当然のことだろう。
そういうわけで、俺は若い欲望を持て余しつつも、セクハラをちょっぴりどころかガッツリかましつつも、火照る身体を慰めながら独り寂しい夜を過ごし、たまにリリーやメイやイリスと一緒の布団で過ごし、寒さの夏はオロオロ歩き、エロスの夜はムラムラ扱き、三人に「ドスケベー!」と呼ばれ、犯されもせず、犯しもせず、なんとか三人に手を出さないでやってきたのだ。
我ながら凄まじい精神力だと思う。言っておくが、このエネルギー溢れる若い身体から湧き上がる
だが今の俺は、その程度の発散ではたちまち理性が蒸発、欲望は暴走してしまうだろう。それこそ覚えたての中学生みたいに毎日何発かは毒を抜いておかないといけないくらいには、今の肉体はエネルギーに満ち溢れている。
そして、それを抑えるだけの精神力がどこからやってくるのかといえば、それはひとえに幼少期からの厳しい修行と、日頃の努力による俺の類稀なる倫理観のなせる業なのだ。
つまり俺はかなり、というか、もうありえんくらいに努力して今のこの甘酸っぱく若々しい青い微妙な距離感を保っているのだ。
それをだ。それをこの女はたった一言、無責任な一言で無駄にしようと言うのか! まったく以て度し難い! 断じて許すまじ!
「そんなにヒドイいたずらをご所望とあらばなぁ! こんなっ! こんなドスケベな身体はこうしてやる!」
「ひゃあああああっ♡」
イリスの、スレンダーだが出るところは割としっかり出ている大人なボディ正面上部(婉曲表現)を鷲掴みにしてやると、イリスはなんだか妙にキーの高い嬌声を上げてこちらに体重を預けてきた。
うん。メイやリリーほど大きくはないけど、張りに関しては一番だな。揉み応えのある乳だ!
「なんで嬉しそうなんだよ」
「ハルトがようやく覚悟を決めて襲ってくれたから」
こっちを振り返って真顔でそう返すイリス。ただ、無表情に見えて、少しだけ目尻が下がっているのがわかる。これは幸せを感じている時の表情だ。なんだかすっかり俺もイリス博士になってしまった感が否めないな。別に悪い気はしないどころか、むしろ誇りに思うくらいではあるんだが。
「覚悟なんてとっくの昔に決まってますとも。決まってるけど、物事には順序ってものがあってね?」
「ひとの胸を触りながら言う台詞ではないと思う」
「触らせてんのはどこの誰かなぁっ⁉︎」
まあ突っ込まれたところで揉むのはやめないけどな!
「なんか、二人っきりの任務の時を思い出すね」
「まあ、潜伏任務の時も、待機中の時はそれほど緊迫感も無かったからな」
俺とイリスの第二〇一分隊。現在は発展的に解消されて戦術魔法小隊――――いや、つい最近昇進して中隊規模に拡大したので戦術魔法中隊か――――に統合されているが、昔は二人で敵地や情勢の不穏な領地での潜伏任務に就いたりしたものだ。
当初は若干頼りなかったものの、今では俺が背中を任せられる数少ない人間に成長しているイリス。戦闘を共にすれば連携、
そんな二人が、危険な任務を共に乗り越える度にお互いのことをより意識するようになるのは、まあ順当というか、至極当然の流れといっていいだろう。
明確に好意を抱いたきっかけは、かなり初期のあの任務にあるとハッキリ断言できるが、それでもその好意が二人の間でゆっくり大きく育ち、確かな愛の形に変わっていったのは間違いなく二人で過ごした特魔師団での日々だ。
「……もうちょっとだけ、待っててくれよ。必ず幸せにしてみせるからさ」
「……うん。待ってる」
イリスの青いショートボブをかき分け、耳元でそう伝える。今の俺にはこれくらいしか言えないけど、この気持ちはイリスにもしっかり届いた筈だ。
「……ハルト」
「何?」
「胸を触りながらじゃなかったら、もっとかっこよかったよ」
「だから触らせてんのはどこの誰だっての!」
なんというか、どこまでいっても俺とイリスは俺とイリスなんだなぁ、と感じさせられる一件なのだった。
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[あとがき]
皆さま、あけましておめでとうございます!
作者の常石及です。
いやぁ、気がつけばこの小説も、もうそろそろ二年目に突入しようとしているんですね。書き始めの時はあまり伸びてくれなくて断筆も考えたくらいでしたが、今ではこれだけたくさんの読者さまに読んでもらえて幸福の極みです。
正月記念閑話とは銘打ちましたが、もう正月休みも終わってしまった人がほとんどなのではないでしょうか。最近めっきり遅筆になってしまった作者でございます(申し訳ない……)。
話は変わりまして今回の閑話についてですが、イリスとの絡みは書いていて楽しいですね。イリスといると、いつもよりもハルトが素直になってくれるような気がします。
ちなみに作中に出てきた「あの任務」ですが、詳細は書籍版の二巻巻末特典をご覧ください(ダイレクトマーケティング)。美和野らぐ先生の超絶美麗神イラストで送る、えっちで可愛いイリスが見られますよ。書店かAmazonにて取り寄せ注文よろしくお願いします!
さて、宣伝はここまでにしておいて、そろそろあとがきを締めようかと思います。令和四年も昨年同様本作を、そして常石の他の作品達(いずれカクヨムにて公開予定です)をよろしくお願いします! それでは。
常石及
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