第220話 幼馴染
「ほえ……、広いであります」
「個室なのにこのサイズの露天風呂とは……。やるな」
市街地から少し外れて歩くこと数分。坂道の上にひっそりと建つ、秘湯めいた雰囲気を醸し出す旅館風の建物の中に俺達の姿はあった。
もちろん旅館風とはいっても、和風建築というわけではない。海辺のリゾートホテルともまた違った、温泉地特有のしっとりとした感じが嬉しい旅館だ。
そしてここの旅館には、すべての個室に露天風呂がついてくるのだ。町の観光案内所で一番落ち着ける宿はどこかと訊ねたらここを教えてくれたのだが、文句のつけようがないほどに穏やかで素晴らしいところである。当然、宿代のほうもなかなかのものではあったが、特魔師団員やら冒険者やら『ノーム・ジェネラル』の片割れやらで稼いだ金がたんまりとあったのでまったく
「夕食までしばらく時間もありますし、早速ひとっ風呂いくであります」
「そうだな。長旅で少し疲れたからな」
本当なら『飛翼』を使えばもっと早く現地入りはできたし、メイの発明した輸送機にでも乗れば快適な空の旅だって可能だった。だが、せっかくの旅行なのだ。移動の時間もまた楽しまなくては損というもの。
なので俺達は、陸路では四輪輸送車『バッファロー』号で時間を短縮しつつ、海路だけは定期的に出ている連絡船に乗ってここまでやってきたのだった。
「では、突撃であります!」
ぽいぽい、と服を脱ぎ捨ててあっという間に全裸になるメイ。たわわに実った豊潤な果実がたゆんたゆんと揺れて、俺の視線が釘付けになる。
「ハル殿も早く」
「おう」
タオルも何も巻かずにこちらを振り返るもんだから、その素晴らしいものが惜しげもなく晒されている。加えて、未だに生えてこないつるりとした下腹部が目に入ってきて、上と下のギャップに俺の理性は大ダメージだ。
メイ同様にすべての服を
「す、凄いであります……」
果たして露天風呂に対して言っているのか、それともチラチラと横目で見たり見なかったりしている俺の俺に対して言っているのかは定かではないが、メイの胸もかなり凄いと思う。
ちなみに俺はガン見だ。凝視していると言っても良い。いくら俺に裸を見られ慣れてるメイとはいえ、流石にまじまじと視線を逸らさずに真正面から見られるのは若干の羞恥心を感じるらしい。珍しく片手を身体の前で抱えるようにして、胸のサイズ的に少し大きめの――――しかし最高に美しい――――桜色を隠す。完全に隠しきっていないあたり、隠そうとする行為自体にも恥ずかしさを感じているようだ。普段は隠さないのにいきなり隠すというのも変だものな。うーむ、エロい!
「身体洗いっこしよう」
「はっ、はい!」
もはやド直球で下心マシマシの提案をする俺に、緊張しているっぽいメイがどもりつつ返事をする。まだ夕食前だが、なんというかすぐにお腹おっぱ……いっぱいになりそうな感じだ。
「あわあわであります」
「お前、結構髪綺麗だよな」
メイの髪を、この世界ではまだ上流階級の間でしか普及していない植物由来のジャンプーで洗ってやっていると、彼女の髪が想像以上にサラサラしていることに気がついた。リリーのような流れる美髪、という感じではないが、髪全体に元気がある。いつも元気いっぱいなメイらしい髪だ。
「お褒めにあずかり光栄であります」
振り返ってにっこり笑ってみせるメイ。そんなことしたら――――
「あ゛あ゛あ゛っ、目にジャンプーが入ったであります!」
「……予想を裏切らないな」
呆れている場合ではない。とりあえず大量の湯で泡を流し落としてやらないとな。
そんなこんなで交互に洗いっこを繰り返しつつ、その過程でメイの豊かなお胸の感触をがっしりと堪能させてもらい、満足どころか余計に劣情が悪化してきたあたりで
そもそも何故、温泉旅行をしようという話になったのか。それはメイにプロポーズするためだが、……では何故行き先が温泉だったのか。すっかり忘れていた。
そう、メイの胸は浮くのだ。
「んおおおおおおおおおんっ!」
「ハル殿!?」
たまにはメイと二人でしっとりとした穏やかな時間を過ごしたいというのに、どうして俺の身体はいうことを聞かないんだ! なまじ既に女を知ってしまっているだけに、目の前に女体があるということが余計に辛い。しかもその女体は手が届くのだ。相手は俺と男女の関係になることを望んでいる。リリーの時もそうだったが、今までお互いに晒していた裸と今目の前にあるこの裸ではまるで意味合いが違うのだ。
俺の理性はもう決壊寸前だった。
「メイ!」
「何でありま……ひゃっ!」
俺はメイをお姫様抱っこの状態で湯船から持ち上げると、そのまま身体も拭かずにベッドへと直行する。流石にずぶ濡れのままだと風邪をひくので、途中でバスタオルを二枚ひっ掴むのも忘れない。
ベッドにメイを優しく放り投げ、片手で自分の身体も拭きつつ、柔らかいタオルで全身を拭いてやる。
「うわっぷ、もが……むぐっ」
くしゃくしゃに揉まれてタオルに溺れるメイを抱き締め、強引に口づけをすると、メイもまた大人しくなって俺の背中に手を回してきた。風呂上がりの石鹸の香りとチョコレートのような甘い香りがほんのりと鼻腔に入ってきて、俺を幸せな気分にさせる。胸板に押しつけられる大きくて柔らかな感触が温かい。片方の手で背中を撫で、もう片方の手で頭を優しく抱える。身体は小さいのに、全身が沈み込むような包容力だ。
「ン……んっ、ぷはっ」
「はぁ、はぁ……」
長い時間を共に過ごして、遂に越えた一線だ。自然と息が切れるような長い長いキスになってしまう。
「ハル殿……、夢じゃないですよね」
「大丈夫、夢じゃないよ」
「ハル殿……っ」
「ン」
今度はメイのほうからキスをしてきた。舌と舌を絡ませるような大人のキスだ。幼い頃からいつも一緒にいた俺達だが、気がつけばこんなに大人になってしまっていた。だが、それで俺達が離れ離れになってしまうことは無い。これからも、死ぬまでずっとずっと一緒だ。
「私、今とても幸せであります」
「俺もだよ、メイ。……愛してる」
「私も、お慕いしているであります」
そっとメイを押し倒し、俺は彼女に覆い被さる。薄暗い暖色の灯りに照らされた二つのシルエットが、一つに重なる。
「ハル殿」
「メイ」
目が合い、自然と両手を恋人繋ぎで絡み合わせる。メイの身体は、凍てつく冬の大地を包み込み溶かす海の女神のような、温かく柔らかい優しさに満ちていた。
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