第143話 ギルベルト VS クラウディア、リリー VS エレオノーラ

 結局、『精神聖域』が優秀だったおかげで傷一つ無かったヨハンではあったが、相当深いダメージを負ったらしく、十数分ほど経ったが未だに気絶から目覚めてはいない。

 何とも後味の悪い試合であったが、それでも次の試合は行われる。


 第2回戦は、トーナメントを勝ち進んだ俺以外の八名によって行われるとのことだ。


 第1試合 ギルベルト VS クラウディア。

 第2試合 リリー VS エレオノーラ。

 第3試合 レオン VS イリス。

 第4試合 オスカー VS クリストフ。


 マリーさんがトーナメント表に赤で印を付けて、以上の順で行うことを説明する。


 ちなみに俺がどうなったのかといえば……。


「エーベルハルトはシードじゃ。途中で意味もなく脱落者を増やす必要もなかろう」


 とのことであった。まったく、評価してくれているのはありがたいが、扱いが随分と適当な気がする。



     ✳︎



 そうこうしている内に第1試合が始まった。第1試合はギルベルト対クラウディアだ。試合が始まってすぐにクラウディアは『土人形ゴーレム』を生成。ギルベルトに攻撃を叩き込む。

 しかしクラウディアにとって今回は相性が悪かったと言えよう。両手剣で敵を薙ぎ倒す騎士タイプのギルベルトは、その自慢の剣術とパワーを遺憾なく発揮して見事にクラウディアの『土人形ゴーレム』達を粉砕してしまった。


「降参ですわ」

「勝負あり! ギルベルトの勝利じゃ!」


 『土人形ゴーレム』を破壊されてしまってはクラウディアに戦う術は残されていない。彼女は自分から負けを認め、ギルベルトの勝利で試合は終了した。


「騎士タイプを相手にするなら、もっと強度の高い『土人形ゴーレム』が必要ですわね」

「あとは自分自身の戦闘力の強化かの」

「ええ。頑張りますわ」


 クラウディアの弱点は、得意の『土人形ゴーレム』がやられてしまったら全く無防備になってしまうことである。得意魔法はあってよいが、それが唯一の戦闘手段になってしまってはいけない。今後は彼女自身が戦闘能力を保有する必要があるだろう。



     ✳︎



 続いて第2試合。氷の魔法を操るリリー VS 爆炎の魔法をブッ放すエレオノーラだ。まさに対極に位置する魔法を使う二人だが、負けず嫌いというところでは似ているかもしれない。

 この試合、氷属性に時空間属性という珍しい魔法を持つリリーが勝つか。はたまた魔法戦においては一家言あるエレオノーラが勝つか。俺としては許婚のリリーに勝って欲しいが、正直なところを言えば、戦闘慣れをしているエレオノーラの方が有利だと思っている。

 この一年でリリーは相当成長したが、それでも何年分もの差を覆すのは簡単ではない。果たしてどちらが勝つのか、楽しみである。


「いくわよ。お覚悟はよろしくて?」

「こっちもいくわ! 噛んだ砂をすすぐ用意をしておきなさい!」


 お互いに啖呵を切る二人。せっかくリリーが上品に言ったのに、エレオノーラは何とも挑発的な台詞で返してきた。何というか、性格出るよなぁ。悪い子じゃないんだけどな……。エレオノーラは思考が戦闘と直結してるというか、非常に好戦的なのだ。言ってみれば闘牛だな。燃え上がる魔法と意志は、さながら目の前の敵を吹き飛ばすことしか頭にない闘牛である。もっとも、本人は牛とは比較にならないくらいに小柄な訳だけど。


「リリー、頑張れ!」

「!」


 演習場内に応援を投げかけると、リリーがこちらを振り向いてニッコリと笑ってくる。そして令嬢らしからぬ勇ましい笑顔で、グッとサムズアップして見せた。


「……そういや、リリーもまたお転婆娘だったな」


 公爵令嬢として完璧なお作法の陰に隠れて普段は表に出てはこないが、幼い頃から現在まで付き合いの長い俺は、リリーのお転婆娘としての側面をよーく知っているのだった。ふとした瞬間に表に出てくる彼女の本性を垣間見る度、俺はノスタルジックな気分に浸ってしまう訳だが、これも許婚の特権だな。幼馴染ってイイよね!


「始め!」

「はあああっ! 『凍てつく銀氷の精霊よアッシュ契約に従いて我が元に顕現せよきなさい!』」

「召喚神獣ね。なら私も……『炎精霊イフリート』ッ!!!」


 灰色の毛並みに青白い稲妻模様の走った灰氷狼フェンリルと、燃え上がる炎精霊イフリートが演習場の『精神聖域』内に召喚される。召喚神獣を持ち出したリリーに対抗して、エレオノーラもまた自分の神獣を召喚したようだ。

 炎精霊イフリート。火属性の神獣でも最上位格と目される強力な神獣である。


「『透き通る氷柱の嵐と成りて我が敵を蹂躙せよ。アイシクル・ストーム』!」

「負けないわよ! 『灼熱の業火』!」


 リリーはアッシュと協力して無数の氷柱の雨を、エレオノーラは炎精霊イフリートに自身の魔力を譲渡して燃え盛る巨大な火球を生み出す。そして両者はぶつかり合い、演習場には極寒と灼熱の大気が混ざり合って爆風が吹き荒れた。


「……っ、これ、試合が始まって以来の大熱戦じゃないか?」

「……ここまで威力の大きな魔法が扱えるのは流石としか言いようがない」


 俺とイリスは二人の試合を見ながらそんな感想を言い合う。イリスはここまで大規模な魔法は使えないし、俺にしても属性魔法を扱える訳ではないから、二人のように大規模な属性魔法を見るのはなかなか珍しかった。


「……でも、エレオノーラの方が優勢」

「みたいだな」


 しばらく撃ち合っていたようだが、ここへきて戦局がイリスの言う通りエレオノーラ優勢に傾いてくる。地力で言えば両者にそれほど差がある訳ではなさそうだが、やはり経験とセンスの差が現れたようだ。『東将』家の令嬢として幼い頃から戦闘に慣れ親しんできたエレオノーラ。彼女の戦闘センスは流石としか言いようがなかった。


「『爆裂熱風』!」

「うっ……!!」


 絶対に回避も迎撃もできないタイミングを狙って、エレオノーラの魔法がリリーを直撃する。そしてその魔法の威力は、無防備な人間が耐えうるレベルを遥かに超えていた。


「そこまで! 勝者、エレオノーラ!」

「リリー!」


 俺は演習場で倒れているリリーの元に駆け寄る。無事だとわかってはいても、やはり落ち着いて見ていられる状況ではない。


「う……、ハル君……。私は無事よ。……見苦しい、戦いを見せちゃったわね……」

「そんなことないよ。むしろあのエレオノーラを相手にここまで善戦したんだ。『東将』家の才女だぞ。誇っていいくらいさ」

「そう……。なら良かったわ」

「まあ、何にせよお疲れ様。仇は取るよ」

「私、死んでないんだけど……」


 試合とはいえ、リリーは俺の許婚だ。これは将来の夫として、きっちりと落とし前をつけさせてもらわねばなるまい。


 まあ、その前に俺はイリスかレオンのどちらか、そしてオスカーかクリストフのどちらかと戦うことになるのだが……。

 全員、決して気は抜けない相手だ。万全の体制でかかるとしよう。








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