第134話 修行の集大成

「若人ども、集合じゃ!」


 そんな感じで一年間の成果を振り返っていると、マリーさんの号令がかかった。修行中だった俺達は彼女の元に集合する。


「さて、今日はちと大事な話がある」


 勿体ぶるようにして、マリーさんが話し始める。


「実は今日で、お主らが修行を開始してからちょうど一年になる。一年前のちょうどこの日、エーベルハルト、リリー、イリスの三人が魔の森を突破してここにやってきたのじゃ」

「もうそんなに経つのね」

「濃密な時間だった。ということは私はもう14歳」

「そうじゃ。そしてイリスと同い年の人間はあと数ヶ月で15の誕生日を迎えることになる」


 マリーさんがそう言うと、オスカーが「あっ」と声を上げて呟いた。


「ってことは受験か」

「そういうことじゃ」


 なるほど、なぜマリーさんがこのタイミングで声を掛けてきたのかがわかった。俺よりも一つ上の代の人達。つまりイリス、ヨハン、オスカーの三人が、皇都の学院に進学する歳になったのだ。

 ちなみに二つ年上のヘムルートやリーゼロッテ、三つ年上のクラウディア、四つ年上のギルベルトに五つ年上のレオンなどは既に皇都の四大学院の学生だったりする。彼らは特別留学のような形でここに来て修行をしていたのだ。各学院には単位互換制度のようなものがあるらしく、マリーさんの元で修行をしたせいで留年……なんてことにはならないらしい。流石に国の命令でここにやってきている以上、理不尽な結果にはならないよう配慮はされていたようだった。

 そして修行開始当時、皇立魔法学院の三年生だったレオンさんは今年で四年生。イリス達の代が入学するのと同時に卒業することになる。最後の一年間を学院で過ごせないのは少し可哀想かなとも思ったが、鍛冶師の家出身で皇国軍のエリート達にコネや伝手の全くないレオンさんにとって、この修行は棚から降って落ちてきたぼたもちのようなものだったそうだ。まったく残念がっていないどころか、むしろ嬉しそうであった。


 そんなことはさておき。ここでマリーさんがこの話を切り出したということは、この長い修行がもう終わるということを意味している。そしてマリーさんのことだ。修了検定ではないが、何かしらの課題を出すに違いない。


「さて、お主らもおおよそのところは察しがついていることじゃろうと思うが……お主らには、この一年間の修行の成果を最大限出し切って、勝ち抜き制のトーナメント戦を行ってもらう! その際、妾が使える魔法の中でもトップクラスに負担の大きい『精神聖域』の結界を張る。近い実力同士の人間で戦い、今の自分がどれだけ戦えるかについてよく知り、そして仲間達の技を吸収するのじゃ。それが、妾がお主らに与える最後の試練じゃ」

「本気の戦いか……」


 場がざわつく。言われてみれば、このメンバーでチームを組んで演習をしたり、あるいは模擬戦をしたことはあるが、文字通りで戦ったことはない。

 しかし、それは何も不思議なことではない。俺達はまだ修行中の未熟な身なのだ。何か間違いがあったら、いくらマリーさん監督の元でも命の危険がある。俺とヨハン、俺とクリストフが試合をした時のように両者の間に実力差があればそういうことが起こる危険はあまりないが、実力が拮抗しているなら間違いが起こる可能性はとても高い。


 マリーさんであっても負担の大きい無属性結界魔法の『精神聖域』。その結界の中では、ありとあらゆる物理的ダメージが精神ダメージへと変換されるため、よほどのことがない限り相手を殺害する心配が無い。生兵法は大怪我の元とよく言われるが、この結界の中であれば正真正銘の本気で戦えるという訳である。

 当然、彼女の使える無属性魔法の全てを受け継いだ俺も使える。だがあの魔法は異常に難易度が高く、膨大な下準備も必要なのだ。簡単に使える魔法では決してない。今回の様に、最終試練という大きな意義があるからこその使い時なのだ。


「組み分けは完全にランダムじゃ。どのような敵が現れても対処できるようにせねばならんからの。……ああ、あとエーベルハルト。お主は結界の準備を手伝え」

「えええっ!! あれ結構魔力を消費するんだけど!?」

「どうせすぐ回復するじゃろ、手伝え。でないと妾一人では全試合分の結界の維持は流石に無理じゃ」

「うーん、なんだか釈然としないものを感じる……」


 俺一人が試合前に負担を強いられるだなんて、なんだか不公平ではあるまいか。

 ただまあ、それだけ俺がマリーさんに評価されているのだと思えばまだ納得もできない話ではないかな。


 こうして俺達は修行の成果を試すための、トーナメント戦を行うことになったのだった。

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