第63話 依頼達成
「おらおらおらおらァ! 死にさらせぇえ!!」
どこぞの
「グルァアアアッ――……ッッ」
――スパッ
交錯すると同時に魔刀ライキリを振るい、その度に一匹、また一匹とワイバーンの首が胴体とお別れしていく。
「「ガァァアアアアアアッッッ」」
左右から番いと思しき2匹のワイバーン挟まれるが、空中に留まり、高速で一回転することで2匹の首を連続して斬り落とす。
「よっと」
先ほどの1匹の分も含め、死体が地面に落ちて潰れてしまう前に空中でキャッチしてインベントリへと移していく。こうしてワイバーンを狩り続けることで、俺のインベントリには既に8匹のワイバーンの死体が収まっていた。
「……そろそろ休憩するかな」
辺りを見回しても、もうワイバーンの影は見当たらない。運良く発見した8匹の群れを襲ってみたが、どうやらそれ以外に潜伏していた個体はいなさそうだった。
高度を下げて、地上にいるリリーとメイのところまで帰投する。
「ただいま〜。大猟だったよ」
「こっちからも見えてたわ。呆れるくらいに無茶苦茶ね」
「まさに飛ぶワイバーンを落とす勢いでありますな」
飛ぶ鳥ではなくワイバーンというところがこの世界らしいと言えばらしいが、まあ似たような言い回しはこの世界にも存在していたようだ。俺は異世界の諺をこの身で体現してみせたという訳だ。
「予想生息個体数が10匹前後ですから、3匹ほど多く狩った訳ですね」
俺の倒したもの以外にも、リリーとメイが単独で1匹ずつ、そして協力して3匹のワイバーンを討伐している。なので13匹のワイバーンを俺達一行は倒していることになる。
……しかし彼女達も華々しいデビューを飾ったなぁ。Aランクの魔物を二人で合わせて5匹という、Sランク冒険者の俺と比べても遜色ない戦績を叩き出したのだ。恐るべき
「しっかし冒険者ギルドも軍の駐屯地も無いような辺境にワイバーンが13匹も出没するとはなぁ」
「災難ね」
もう少し南方に行けば、魔の森からやってくる魔物のスタンピード対策で冒険者ギルドや軍の駐屯地があるのだが。
「流石にもういないわよね?」
「うん。限界まで探知してみたけど、これといった反応は無いかな」
リリーが訊いてくるが、俺の「ソナー」の限界半径である半径10キロ圏内にはCランク以上の反応は見受けられない。というかDランク以下の雑魚モンスターしか残っていないみたいだ。ある程度の強者はワイバーンどもに軒並み淘汰されてしまったらしい。
「こりゃ生態系が元に戻るのに時間がかかるかもな」
何故ワイバーンが13匹も、本来の生息域から外れて出現したのかはわからないが、その影響は村人達以外にも大きく出ていそうだった。
✳︎
「おおおっ、もう討伐がお済みになられたのですかっ!?」
村長宅に戻って討伐完了の報告をすると、村長が目を見開いて驚愕する。信じてくれているとは思うが、一応証拠として13匹分のワイバーンをインベントリから出して並べると、村長以下村人達が顎が外れそうなほど口を開いて固まっていた。
「……そ、それではこちらが依頼達成証明になります」
あれからしばらくして硬直から復活した村長が、直筆サインと村の代表であることを示す押印をギルドから預かっていた用紙に記して渡してくる。
「はい、どうも」
これで依頼は完了だ。報酬はハイトブルクに帰ってからギルドで貰うことになる。
ちなみにこの依頼、特定災害依頼に指定されているため、報酬は村からではなく国および領主から出されることになっている。いわゆる災害補償の一環で、村人達の負担はほぼ無いのだ。
仮にこの特定災害依頼の制度が無かった場合、貧しい村が魔物に襲われたりしたら依頼を出せずに全滅は必至だ。国や領主としても、辺境は開拓のために重要な地域の一つ。ある程度の支援が充実していないと、いつまで経っても領地が発展しないからお上も必死なのだ。
「なんだかマッチポンプみたいであります」
報酬を出す領主の息子が依頼を受けて、報酬を受け取る。傍から見れば、冒険者ギルドを通してファーレンハイト家の中で金がぐるぐる循環しているだけである。
「まあ報酬の50%は国からだから財政的にはプラスだよ」
これもまた金の無い辺境の領地だと、報酬が充分に出せなかったりする。なので負担軽減のために国からも50%の援助があるのだ。
「こうしてファーレンハイト辺境伯領がどんどん潤っていく訳でありますな」
「ハル君がいればハイトブルクの経済は安心ね」
「俺抜きでも経済が回るようじゃないと健全とは言えないけどなー」
まあ、ハイトブルクは皇国北方最大の地方中枢都市だ。オヤジの領地経営も順調だし、「没落領主の内政チート」みたいな展開には今後もならないだろう。なので俺は安心して冒険者として活動できるという訳だ。
「さて、それじゃもう遅いし晩御飯にしましょ」
「それでしたら、ぜひ我々にご馳走させてくださいませ。些細なものではございますが、村で収穫した新鮮な野菜を使った煮込み鍋でございます」
「「「おおお!」」」
村長の家族が運んできた鍋の中身は、何らかの鳥と思しき肉と数々の野菜がふんだんに入った村の郷土料理だった。
「この地を切り拓いた時より親しまれている、村の味にございます。祭りや、何かめでたいことがあった時によく食べるのです。……どうぞ」
村長の娘さんらしきお姉さんが、落ち着いたデザインの木の器に目一杯鍋をよそってくれる。
「ありがとう」
器を受け取って一口いただくと、野菜や鳥肉の自然な出汁と、塩やハーブなどの素朴な調味料で味付けされたスープの味が口いっぱいに広がって幸せな気分になる。
「……美味しい」
普段、実家で食べるような豪勢な食事も良いが、こういう質素でいて、かつ豊かな食事もまた良いものだな。村長的にはご馳走かもしれないが、俺にとっては田舎に帰った時に祖父母の家で食べる味噌汁のようなイメージだ。地味だが、温かい。
「本当だ、味に深みがあるわね」
「我が家の料理は男料理ですからね。こういう薄味のものもアリですな」
公爵令嬢としてこれまで最高級の食事を口にしてきたリリーをして、「深みがある」と言わしめる鍋のスープ。そして濃口で育ったメイの舌をも唸らせる出汁の味わい。
こんな辺境の地でこれほどクオリティの高い食事にありつけるとは思ってもみなかった。
「村長さん。美味しいよ」
「ありがとうございます」
後でレシピ教えてもらおう……とか思いながら、俺達は和気あいあいと夕餉の時間を楽しむのだった。
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