第70話


 「あ、あれ・・・・・・?」


 「力が入らな、い?」


 毒矢を受けた天使たちは、皆が動かない体にイラだっていた。自分たちの戦勝を台無しにしてくれた輩にやり返したくても、毒が回ったその体は気持ちに反して、動いてくれない。


 (・・・毒耐性もつけておくべきだったな)


 大鎌を担いで、礼二はゆっくりと歩き出した。うずくまっている天使たちの間をすり抜けながら、ただただ無感情に歩を進める。


 「お、おい! どこに行く!」


 「・・・・・・お前らには関係ないだろう。役立たずはそこで地面を見てろ」


 「なっ! お、お前!」


 「叫ぶ力があるんなら、立て。立って戦え」


 天使たちにその言葉を放つ頃には、新手の殺気を礼二は感じていた。


 (多すぎる。下手に大鎌を振るえば、うっかり天使たちを斬首しかねない)


 「はあ・・・・」


 盛大にため息をついた礼二は、非戦闘員のような軟弱な考えで、戦場で周りに気を使う自分に呆れながら、大鎌を地面に突き刺した。


 (これをフルで使うのも、久々だな)


 礼二はスーツを展開し、毒爪を出した。肩の部分の装甲を少しだけ削り、首の装甲を厚くし、ついでに鼻と口を覆った。


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 しばし、森を静寂が包み込んだ。天使たちは目の前で構えている礼二をぼんやりと眺めており、礼二は前方の茂みをにらんでだままだ。


 森の静寂とは裏腹に、礼二の肌は殺気を感知して、ざわめいていた。


 ザッ!


 それは、突然だった。ほんの少し茂みを揺らしたダークエルフたちは、真っ赤なナイフを構えて、飛び掛かってきた。


 礼二に向かってきたのが3人。3人の後続は後ろの天使たちを標的に定めていた。


 飛び掛かってくる刃を見つめながら、礼二もまた彼らに向かって飛び上がった。礼二の自殺行為ともいえる行動に、3人のダークエルフは目を見開いた。


 3人が暗殺の成功を確信した瞬間、あばら骨が折れて自分たちの肺がつぶれる音が脳に響きわたった。


 「ぶほっ!」


 「んぐっ」


 空中で三段蹴りを左右に向かって放った礼二は着地ざまに、1人の頭をつかんで引き寄せた。


 (シッ!)


 着地の勢いを利用して、腰を落とした礼二はかすかに息を入れて気合を入れなおし、つかんだ奴を盾にして、毒爪を後続の奴らに打ち込んだ。


 片手分、5本の毒爪が放たれたが、うち3本は避けられてしまった。


 (さすがは暗殺者。飛び道具には慣れてるのか)


 毒爪が当たった2人は、一瞬で全身から血を吹き出して絶命したが、襲撃者たちの勢いは止まらない。


 ※次回更新 8月9日 日曜日0:00

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