第65話
「あと、何匹だ?」
大鎌を地面に突き刺した礼二は、嬉しそうにつぶやいた。相変わらず周りを駆け巡っている獣人たちからは、畏敬の念が少しだけ混じった殺気がひしひしと伝わってくる。
(面倒だな・・・・・・)
軽く手足をふり、血流をよくした礼二はいきなり膝の力を抜いた。当然、上体はバランスを崩してしまう。
(膝を抜き、体重によって生まれた力を踵にぶつけ、上体を前方に突き出す!)
父親の教えを忠実にこなした礼二の体は、周りの獣人たちから見ると、瞬間移動でもしたかのようだった。
初動を脱力から始めることで予備動作をなくし、上体がブレないがために視界からいきなり消えることが可能になっていた。
グギョッ!
コンパクトな動きで繰り出された礼二の拳が、的確に獣人の眼球をとらえた。痛みと脳へのダメージで倒れこむ獣人を盾にして、礼二は茂みの中を走り出す。
「く、くそが!」
「は、早く殺せ! 森の中は我らのテリトリーだ!」
「そうだな」
必死に指示を飛ばしていた指揮官らしき男の背後に、礼二は音もなく現れた。瞬間、男から冷や汗が噴き出した。
「だが、素手の戦闘は俺の専売特許なんでね」
(バカかが!)
男は、礼二が話しているうちに仕留めようと、裏拳を繰り出した。当たれば頭蓋骨を粉砕するほどの威力を持ったその拳は、なぜか空を切っている。
裏拳の勢いで振り向いた男の優れた動体視力は、礼二が拳打の間合いから外れていることを認識させた。
(な、なんで、それじゃあ、お前も攻撃ができな、いっ⁉)
無感情な礼二の表情を男が認めた瞬間、股間に締め付けられるような痛みが電撃のごとく走った。
「ぐっ⁉、ぐごああああ!!」
思わずうずくまった男の後頭部に、容赦のない踵が迫ってくる。
バキッ!
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「・・・・・・・はあ、終わりか」
礼二が指揮官の頭部と男の象徴を潰してから約1時間後、森には静寂が戻ってきていた。両手両足が返り血で染まった礼二に近づこうとする天使はいない。
「ミリナ」
「は、はい!」
「なんか体拭くものくれ。体がベトベトする」
「はい!」
ビーチフラッグ並みの必死さで荷物に走り寄ったミリナは、大きめのタオルを礼二に差し出した。
(・・・・・そんなに俺、怖いのかな)
当たり前だろう。いきなり茂みに入っていったかと思うと、全身返り血まみれで出てきた人間を怖がらないほうがおかしい。
(さて、次は何が出てくんのかな)
※次回更新 7月5日 日曜日 0:00
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