Song.73 結果発表


 ドがつくほどの緊張が張り詰める。

 ドクドクと音を立てた心臓がうるさい。


『グランプリは――……羽宮高校、Walker! 出て来いっ!』


 その声で目が、胸が熱くなった。

 込み上げてくる何かが止まらない。


「ぅぅぅううっしゃあっー!」


 大輝が雄叫びを上げながら前に出る。


「キョウちゃんっ! やったよっ、僕たち……ここでっ!」


 震えた声のまま瑞樹も続く。


「おま、泣いてんのかよ。初めてみたな、その顔は」

「え?」


 俺は泣いてたのか。

 鋼太郎に言われて気が付いた。

 慌てて目元をこすれば、手が濡れる。


「ほら、前。進んで」


 鋼太郎と悠真に背中を押されて、俺たち全員一歩、前に出た。


 全身で受けとめる拍手。

 こんな場所で泣き顔さらすなんて、恥ずかしい。

 これ以上涙が出ぬように、鼻をすすって顔を上げた。


『おめでとうございます! 何か一言いただけます? えっと、……リーダーさん』


 ハヤシダの振りに、スタッフがマイクを持ってきた。それを使って何か言ってくれとのようだが、こんなとき誰が答えるか。

 部長は悠真だし、俺はこんな状態だし。もたもたしていたら、大輝がマイクを手に取る。

 てっきりそのまま言ってくれるのかと思いきや、インタビュアーのようにマイクを俺に向けやがった。


「ほら、キョウちゃん」


 言わねば終わらない。

 大輝がふざけたようにウインクをしてくるものだから、もう集まった視線とか緊張とかすっ飛んだ。


「ずっとここで弾くのが夢でした。それを叶えられて嬉しいです。聴いてくださった方、応援してくれた方……ありがとうございましたっ」


 マイクを通して言い、頭を下げればメンバーもみんな頭を下げた。


『いやぁ、彼ら、すごかったですねぇ。まさに青春を示し、心に刺さる曲、そしてライブであることを忘れない魅せ方。集まったコメントにはそのようなことが数多く書かれていました』


 よかった。安心した。

 俺らの曲はちゃんと届いていた。

 ほかのバンドがみんな棒立ちで弾く中、俺たちだけがステージ上で暴れていたから。


 次々に言われる言葉でホッとしていたら、マイクを回収しに来たスタッフがコソコソと俺たちに向けて言ってきた。


「みなさんには最後にもう一度披露していただきますので、いったんあちらへ移動をお願いします」


 ん? まさか?

 え、またやるのか?

 もろもろ含めて、俺だけ演奏、三回目になるんだけど。


「やった。また唄えるぅ! ほーら、キョウちゃん早く」

「ち、まっ……」


 まだ結果発表は終わってない。

 なのに俺たちはステージの端、司会の隣まで移動を促される。

 大輝の足取りが軽く、俺ら全員をひっぱっているのはいいがみんな「嘘だろ」というような顔をしているというのに。


『Walkerのみなさんはこちらへ。それでは準グランプリの発表に参りましょう。準グランプリは――』


 あっさりと俺たちから話を変え、次の発表へ。注目もすぐに逸れた。

 長く続くドラムロールののちに、再び司会が口を開く。


すめらぎ学院、Log! 同点で八城やつしろ高校、Adelie! 前代未聞、ぴったり同じ得票数でした! 前にどうぞ!』


 二バンドが一歩前に出た。

 てんやわんやしてて覚えてないけど、Adelieの曲聞いとけばよかった。そのうちネットで公開されるだろうか。そうしたら聞いておこう。

 それより、Logだ。

 あの腹立たしい奴らに勝てたことが嬉しい。


『まずはLogの方から。一言いただきましょうか』

「はーい。俺ら、負けちゃって悔しいけど、これからはもっと上目指せるってことやし、まだまだ続けるだけやんな。せやろ、お兄様。弟に負けちゃってどうなん? 悔しいん?」


 一言だけをもらおうとしていたのに、Logの中で一番騒がしい奴がマイクを取って言う。

 その軽い調子でお兄ちゃん呼びされて話を振られているのは、悠真の兄貴だった。


「ええ。悔しいですね。でも、弟が認められて嬉しいですよ」


 言いながら悠真の方をみて、「ね?」と笑みを向けられていた。

 同時に司会も客席も、どういうことかと言わんばかりに目線を追って悠真を見ている。


『優勝したWalkerのキーボードである彼と、Logの彼は兄弟なんだそうですよ。兄弟そろって素晴らしい活躍でしたね! おめでとうっ!』


 不本意なところで褒められ、悠真はそそくさと大輝や鋼太郎の背中に隠れた。

 その後も続くLogへの選評、そしてAdelieのコメント選評。

 すっかり注目が俺たちから逸れていく。


『そして、今回の審査員特別賞は……ハードなロックを見せてくれた、湖飛北こときた高校、Unithm!』


 ああ、あのガラの悪い……なんで考えてたら誰かに袖を引かれた。


「あっち。呼ばれてる。早く行くんだよ」

「おう」


 悠真が指を指した先は舞台袖。

 スタッフが数人そこで待っていた。

 静かにそこに行けば、この後すぐ始まるライブの説明をされた。


 ほんの一瞬だけスタッフに預けたベースがまた手元にやってくる。

 瑞樹や鋼太郎は控室に楽器を置いていたので、慌てて走って取りに行ったらしい。

 戻ってきたときには息を切らしていた。


「うっしゃ! みんな集まったし、またもやライブ! 張り切っていこうぜ!」

「「「「「おうっ!」」」」」


 楽器片手に自然と円陣を作り、大輝の声に合わせて円の中心に足を踏み出す。

 まだステージ上ではコメントを続けているというのに、それなりのボリュームを出したものだから、スタッフに人差し指を立てられ「静かに」と注意されれば、みんな苦笑いをしていた。


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