蒼真の生い立ち
「その話、聞いたことがあるような気がします」
桃華がぽんと手を打つ。大地が嫌そうな顔をする。
「後世までそういった話が伝わっていくワケ? 嫌だわ」
「確か、桃太郎の続編としていくつか物語が残っていて、そのうちの一つだったはず」
桃華が考え込むように言う。
「確か、桃太郎に恨みを持った鬼が、自分の娘を送り込んで桃太郎を暗殺させようとするけど、桃太郎に恋した鬼の娘が桃太郎を殺せず、自害するって話だったような……」
「どろどろじゃねーか。なんで昔話って、どろどろとしてるのが多いんだよっ」
紅太がいやいやと首を横に振りまくる。桃之介は、紅太を無視して頷く。
「そう、その鬼の娘と初代桃太郎の間に生まれたのが、蒼真だ。彼は鬼のリーダーとして鬼ヶ島を取り仕切っていた。しかし初代桃太郎……――、父上が打ち出の小づちを失い、こちらの世界に興味をなくして向こうの世界に帰った後。こちらにやってきてな。打ち出の小づちを手に入れるため協力関係になることにしたのよ」
「そして、裏切られたと」
桃華の言葉に、桃之介は渋い顔をする。
「鬼も桃太郎も、どちらもこの世界の人間ではない。あいつは、初代桃太郎のいた現代を恨んでいるのかもしれん」
「蒼真は、俺の会社で勤めてた。こっちの世界と向こうの世界を行き来できるのなら、復讐なんてすぐできたんじゃないのかよ」
紅太が顔をしかめて言う。
「こちらとあちらの世界を行き来できても、初代桃太郎を探し出すのは大変だし、現代日本で何かしようとしても、一人では難しいでしょ」
「そのためにも、打ち出の小づちが必要だった、そういうことかもね」
桃華が言う。大地は頷く。
「打ち出の小づちを手に入れ、願いでこちらとあちらの世界をどうにかする。それが、あいつの目的か」
「それじゃ、このまま放っておいたら、下手をしたら世界が終わるということか」
桃之介が言う。そして桃華を見ると、言った。
「おぬし、名は何という」
「木崎桃華です」
桃華は今度こそ桃太郎ではなく本名を名乗った。すると、桃之介は言った。
「木崎桃華、初代桃太郎の父に代わり、力を貸そう。敵も味方も、現代も過去も、滅ぼされてしまっては関係なくなる。そなたらに鬼塚家も力を貸す。なんとしても、蒼真を止めてくれ」
桃華は、蒼真と出会った時のことを思いだしていた。そして彼に語った言葉も。
「私に任せるという事は、彼を『退治』しないということになります。それでもかまいませんか」
桃華の言葉に、桃之介は眉をひそめる。
「あいつを『退治』せずに、どうにかできるというのか。手ぬるい」
「こいつに任せるってことは、そういうことだぜ」
大地が笑って言う。大地は、桃華に言う。
「オレがお前と一緒に行こうと思ったのは、お前の考え方を嫌いになれなかったからでもある。最後まで付き合うぜ」
「仕方ない、俺たちもつきあってやるよ」
紅太が言うと、直季も頷く。萌木も頷いた。全員の目が、桃之介に向けられる。
「……必ず、止めると約束するのなら、認めよう」
桃之介の言葉に、桃華は決意を含んだ瞳で言った。
「もちろん、必ず止めて彼にとってもいいフィナーレにしてみせます」
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