第12話 「たしかにそれもありだねぇ」 納得するように頷きながら答えた。
ちゃんとされた相談には答えなければいけない。
放課後、
「誘うことばっかり考えてたけど、こういう時は誘われたいよね~」
ふと琴羽がこんなことを言う。
たしかに一理あるかもしれない。
もし俺だったら……。
こちらからデートに誘うのもいいが、向こうにも誘ってほしいと思う。
向こうのやりたいことに、こちらも誘ってほしい。
「さ、誘われ……」
藍那はまたもや両手で頬を挟み込んでいる。
琴羽が覗き込もうとするのも二度目だな。
「誘われるか……。そういえば今週のデートは?」
ふと気になって藍那に問いかける。
藍那は恥ずかしそうにもじもじしながら答えた。
「す、水族館に誘った……!」
「おっ! すごいねららちゃん!」
藍那が誘った。
なんとなくだが、変な感じがした。
誘いに乗っているということは、まんざらではないもしくはそれ以上……つまり、両想いであるといえる。
しかし、向こうからは誘ってこない。
なぜだか俺にはそこだけが違和感として残る。
考えてみれば、連絡先の交換もまだ、話してるのは部活のみという状況で告白の流れになっている。
あの状況で告白じゃないと思う男はいないだろう。
その告白も、なんかおかしいんじゃないか?
「無理に今誘わなくても、学園祭当日とかにでもいいと思うぞ」
「たしかにそれもありかも!」
どうしても今日誘って欲しいと思えなかった俺は、時間をぎりぎりまで伸ばすことにする。
琴羽も俺に乗ってくれた。これで藍那も頷きやすくなる。
「そ、それいいね! そうするっ!」
とりあえずはおっけーだな。
明日は火曜日か。とりあえず
※※※
「上野先輩について詳しく教えてくれだって?」
「そうだ」
俺は祐介の問いかけに頷く。
九月十四日の火曜日。
部活がある祐介の時間に合わせ、早めに家を出た俺は、無事に祐介に巡り合えた。
どこかしらには上野先輩と藍那もいたりするだろう。
「何を聞きたいんだ?」
「そうだな……。どんな人だとか、なんか噂とか」
「どんな人か……別に普通のいい人だと思うけどな。爽やかだし。噂とかも特には聞いたことがないが、モテるとは聞くな」
藍那が告白しようとした時の一度だけ見たことがあるが、たしかにイケメンだった。
バスケもうまいらしい。
バスケ部という完全にリア充サイドな部活動に所属してそのスペックならモテて当然か。
むかつくな。
「変な噂とかはないのか?」
「変な噂?」
「いや、ないならいいんだ」
この様子じゃこれ以上は情報を持っていなそうだ。
「あ、そうだ。上野先輩と仲良くしてる人とか、わかるか?」
「ああそれなら――」
※※※
次は圧倒的情報量を持ち、噂などもすぐにキャッチする情報屋に話を聞くことにした。
朝は何時に登校してるかわからないし、授業の合間の休み時間じゃ時間が短すぎる。
なので、やはり昼休みに向かうことにした。
ちなみに祐介からは、部活でよく話をしている人のことを聞いた。
もし、何かあったら話を聞かせてもらおうと思う。
「
「ああ琴羽。ごめんな」
「全然いいよ~」
そう言って琴羽は自分の席に戻って藍那と弁当を食べ始めた。
あの時以来、俺は藍那と琴羽と一緒に弁当を食べることが多くなっていた。
今日もその例に漏れない予定だったのだが、俺がいなくなったことにより今日も藍那と琴羽は二人で弁当を食べている。
そろそろ申し訳なくなってきたが、なんで一緒に食べてるのかよくわかっていない。
相談……もあんまり受けてない気がするし……。
ま、それはいいだろう。
俺は例の空き教室に向かい。辿り着くとすぐに扉を開いた。
「
「聞きたいことが山ほどなんだ。キューピッドは大変だよ……」
弁当を差し出しながら、さっそく聞いてみる。
「バスケ部の上野
「上野忠の……?」
俺が渡した弁当の包みを綺麗にほどきながら、千垣は少し考える。
「モテるって言うのは……知ってるよね……」
「祐介も言ってたな」
「
弁当を、目を輝かせながら眺める千垣はポケットからピンク色のカメラを取り出しながら俺に尋ねる。
今日の弁当は当番が俺だったから、俺が作ったものだ。
なんだか焼肉を食べたかったので、豪快に焼肉多めでお送りしている。
千垣はいつも通り弁当を写真に収め、手を合わせて「いただきます……」と言ってからそんな焼肉をもぐもぐとおいしそうに食べた。
「祐介は、上野先輩はモテるって言う話と、爽やかな人で人間性は普通だって言ってた」
「なるほどね……。それは間違いないと思うよ……」
卵焼きをぱくっと食べながら話を進める。
「後は前にも言ったと思うけど、藍那
「あーたしかに」
金曜日に俺の噂があるかどうか聞いた時、一緒に聞いたものだ。
最近、上野先輩と藍那は登下校を共にしているし、休日デートもしている。
見かける人は多いだろう。
それによって前よりも二人が付き合っているのではないか? という噂は加速している。
「ただ、最近妙な話を聞いてね……」
「妙な話……?」
俺は、まだ四分の一も食べ終わっていない弁当を食べながら聞き返す。
一方千垣は、綺麗に平らげた弁当を再び包みながら口を開いた。
「土日に女の子と出かけているって話をね……」
「ああ、それなら藍那が……土日……?」
「そう、土日……」
藍那と上野先輩が一緒に出掛けたのは、一昨日の日曜日と、その前の日曜日の二回だ。
それは藍那からも聞いているし、一回目のデート前日は俺も藍那と一緒にいた。琴羽と
「ま、まじで……?」
「まじで……」
それが本当ならおかしい。
日曜日に藍那とデートのはずなのに、その前日にほかの女の子と出かけてるとは、どういうことなのだろうか。
「ほかにはなんかあるか?」
「いや……。特にはないよ……」
「そうか……」
収穫はここまでか……。
ただ、友達としての情報を、もっといろいろ詳しく知れるかもしれない。
祐介に聞いていた、上野先輩と仲がいいというバスケ部の先輩に聞くという手が俺にはまだある。
もしかしたら、土曜日に誰と会っているかとかも知ってるかも……。
「ありがとう千垣。助かった」
「いいよ……。こちらこそお弁当ありがと……」
聞くことはなくなったが、まだ弁当を食べ終わってないので、わざわざ教室に戻る必要もない。
今日はもうここにいることにして、俺は千垣のギターを聴きながら、弁当を食べた。
※※※
放課後。
藍那と共に、学園祭実行委員会の集まりに向かう。
藍那は上野先輩と順調に進んでいるからか、足取りが軽い。
火曜日は用事がないらしく、いつも部活に行っているため、今日の集まりに出れるようだ。
部活には出れないが、帰りが一緒だとかでショックは受けてないのだろう。
「集まりが火曜日でよかったわ」
「部活はいいのか?」
「仕方ないじゃない。それに、帰りは一緒だし」
「それはいいこった」
待ち合わせとかだろうか。
そういうことができるのは羨ましいもんだな。
「ところで康太。結局今日は何を話し合うの?」
「さぁ? 昨日も言ったけど、進捗がどうとかそんなんじゃね?」
「……あんたもしかして、聞いてなかったの?」
「違う。何も言ってなかったんだ」
「……本当かしら」
「なんで俺はそんなに信用がないのか」
藍那に対して一度でも嘘をついただろうか。
そんなことをした覚えは毛頭ない。
「あたしのこと体育館裏に放置したから信用してないわ」
「それだけでそんなに信用落ちたのか!? ていうか、あれは仕方なくないか!?」
祐介に上野先輩の連絡先を聞こうとした時のこと。
俺は藍那を放置して祐介のところで話を聞いていた。
結局体育館裏に戻る途中で出会ったわけだし、いいと思うんだが。
「うそうそ。冗談だって」
「……本当か?」
「え、なんで信用ないの?」
「今の言動がまさに理由を明確に示していたと思うんだが……」
「ほら、それより着いたわよ」
ホント上機嫌だな……。
俺は集まりがある教室の扉を開く。
すでに何人かの生徒が集まっていて、
時間になると、鳩ケ谷先輩が全体に声を掛けた。
そのころにはいなかった生徒も揃っている。
「それでは、学園祭実行委員会の集会を始めます。本日は経過報告をお願いします。問題があれば修正させていただきます。と、その前に、受付等の時間について、不都合が出たクラスはありますか?」
どのクラスの生徒も挙手しない。
今のところは問題ないようだ。
何かあったとしても、俺たちは変わりたくないのだが。
「ないようですね。では、経過報告を三年一組から――」
こうして順番に経過報告を行った。
ところどころダメな点のあるクラスがあったが、俺たちは問題なかった。
ほかのところから巻き添えを喰らうようなこともなかった。
机や椅子なども、足りなければ屋上へ出る踊り場に山ほど余ってる。
使えないわけではないので、こちらもクラス間での貸し借りは不要だろう。
いざという時の俺たちのクラスも問題ないってわけだ。
そのまま今日は解散になった。
かなり順調に進んでいるように感じる。
次回の集まりは一応最後ということで、来週の火曜日。
九月の二十一日に決まった。三連休明けだ。
「康太、じゃあまた明日ね」
「おう」
終始上機嫌だった藍那は、笑顔で手を振って去って行った。
「俺も帰るか」
残っているような用もないので、俺は荷物を持って教室を出た。
結構早い時間に終わったので、運動部や一部の文化部はまだ活動をしている。
たぶんバスケ部もまだ活動中だろう。
グラウンドや体育館から生徒の声がよく聞こえた。
いつも通り駅を利用して、家に帰る。
「ただいま」
「おかえりぃ」
「康ちゃんおかえり! おつかれさま~」
心優と琴羽がエプロン姿で出迎えてくれる。
「心優ごめんな。今回も」
「気にしなくていいってぇ」
「琴羽もごめんな」
「みっちゃんも言ってるけど気にしなくていいってば。康ちゃんのそういうところ好きだけどさ~」
キッチンに戻った二人をしばらく眺める。
二人は本当の姉妹の様に笑顔で話しながら料理を作っている。
今日のメニューまではわからないが、匂いとちらっと見えた材料からして肉じゃがはありえると思う。
二人とも楽しそうでこちらも嬉しくなってくる。
早く着替えてこよう。
ささっと着替えた俺は、手伝いをしようとキッチンに戻ってきた。
「なんか手伝うよ」
「じゃあお兄ちゃん。それ、テーブルに持っていってくれるぅ?」
「わかった」
頼まれたのはサラダの入ったボウルだった。
「琴羽はなんかあるか?」
「大丈夫だよ~!」
「なんかあったら言ってくれ」
「りょ~か~い!」
そうは言ったものの、もう全品できそうなことくらい見たらわかる。
手伝えることと言えば、皿を出したりするくらいだろう。
言われる前に必要な皿を出してしまう。
琴羽の分ももちろん並べる。
そうしているうちに、心優と琴羽が料理を運んできた。
「ありがとぉお兄ちゃん」
「康ちゃんありがと~!」
「こちらこそありがとう」
メニューは俺の予想通り肉じゃががメインだった。
三人で手を合わせて、「いただきます」と言って食べ始める。
「う~んおいしぃ~♪」
「だね~!」
幸せそうに頬に手を当てつつ肉じゃがを食べる心優と、嬉しそうに心優を見つめながら肉じゃがを食べる琴羽。
今日も二人のおかげでとても助かった。
今度、土曜日辺りに何かプレゼントでも買ってこようかな。
夕飯を食べ終えると、心優が琴羽と風呂に入った。
心優が一緒に入ると言い出したらしい。
二人が使用中なので、俺は待機だ。
女の子が好きそうなものを適当に調べている。
アクセサリーなんかがいいのかなと思うが、どんなアクセサリーが好きかわからない。
う~んと唸りながら調べていると、声が掛けられた。
「康ちゃん……」
「ん?」
呼ばれた方を見ると、脱衣所からちょこんと顔を覗かせる琴羽がいた。
しっとりと濡れた髪から雫がぽとぽと落ちる。
扉に隠れていない腕と肩は白くてとても綺麗だ。
ほんのりと赤く染まった頬が――
って!
「ちょーい!」
「ご、ごめん……。タオル取ってくれない……?」
「た、タオル!?」
まさか持っていくの忘れたのか!?
ということは今、琴羽は何も着けていない生まれたままの……。
「はっくしゅん……」
「す、すぐに用意します!」
くしゃみが聞こえたので急いで準備する。
変なことをしない限り見えることはないだろうが、一応後ろ向きになって渡す。
俺の手からタオルが取られた。
「ありがと……。床濡らしちゃってごめん……」
「い、いいよ。ほら、風邪引くよ……」
「うん……」
さすがに幼馴染と言えどもう高校生だ。
俺には刺激が強すぎる。
すっかりプレゼントのことが頭から飛んだ俺は、風呂に入った時にのぼせそうになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます