第128話 その名に願いを込めて

黒いフクロウ姿の神の半身がいた八十階層から、また魔獣や魔物を倒しながら上を目指す。


「来た時と変わらねえな? 生みの親がいるのによ」


最初、神がいるということで、もしかしたらそれらは出てこないかと思っていた。


宗徳もさすがに本物ではないことは理解している。生み出した本がいるなら、その調整が出来るものだと思っていたのだ。


《くるるっ》

「ん? 手を離れたって……管理してねえってことか? それしたら消えたりしねえのか?」


このダンジョンはフクロウたちが作ったもののはずだろうと疑問を投げかける。


《ぐるる……》

「え? 特に何もしてない? で、コレか?」

《ぐるる》

「は? 『怒ってたから、たまたま』って……すげえな」


漏れ出した怒りや悲しみ、抑えきれなかった神の力によって、このダンジョンが出来てしまったというのだ。


「では、本当に心配はないんですね。ここに住んでいる方々が放り出されてしまうのではと思ったので」

《くるる》


白いフクロウが斜め後ろにいる廉哉へ顔をくるりと向けて鳴く。


「あ、あの……なんて……」

「『やっぱり優しい子だ』ってよ。まあ、俺の自慢の息子だしなっ」

「っ〜、っ……」


照れて真っ赤になる廉哉を、同じように振り向いた黒いフクロウも見つめているのに、宗徳は気付いていた。


黒いフクロウは、白いフクロウに比べて遠慮している。自分が良くない存在だと思い込んでいるのだ。そんな黒いフクロウの方へ宗徳は手を伸ばし、その体を優しく撫でた。


《っ……》


恥ずかしそうな感情が伝わってくる。宗徳はなんてことないように前を向いたまま、撫でる。少しすると、礼のようにスリスリと頬に顔を寄せてきた。


その柔らかな感触を楽しみながら、宗徳はふと上を見上げていた。


そこには、木の梁が見える。ここは、坑道のような造りになっていた。


そして、呟くようにそれを告げた。


「確か『レイ』だったか……」

「なんですか?」


廉哉が何を言ったのかと確認してくる。それに笑みを見せながら考えた言葉を口にする。


「木へんにうららか……綺麗の麗って字だ。確か、梁とか横木のことだったはずだ。れいと読む」

「えっと……すみません。漢字、あまり知らなくて」

「ああ。そうか。こうだ」


宗徳は魔法陣を描く要領で空中に『欐』と書いて見せた。


「すごく難しい字ですね……この部分が綺麗の麗なんですね」

「ああ。で、黒い方を『 黒欐こくれい 』。白い方を『 白欐はくれい 』ってのはどうだ?」

「それ、名前ですか?」

「おう。しっかり家を支えるには、柱だけじゃだめだ。梁がなきゃな。そんで、重ねて強くなるものだ。神さまだからって、一人で支える必要なんてねえんだよ。もっと人も使え。そんで、俺らも頼れ。そうゆう名前にした」

《っ……》

《っ……》


両肩に乗った二匹が、前を見て笑みをうかべながら歩み続ける宗徳の顔を見つめる。


そうして同時に、感極まったように翼を広げて宗徳の顔を両側から覆った。


「うおっ!?」


完全に前が見えなくなっているが、宗徳は驚きながらも構わず進む。


廉哉は照れているのだろうなと笑いながら、宗徳の背中を見つめた。


いつの間にか逃げるようにして徨流が廉哉の腕に絡まっており、そんな徨流と顔を合わせ、クスクスと笑った。


「宗徳さんって、すごいな……」

《きゅ〜》


いつだって、救い上げてくれる。だから廉哉は安心して傍に居られるのだ。


その後、蜘蛛の女性や住民達に声をかけながら宗徳は神を連れ出すことを告げる。


誰もが目を丸くした後、嬉しそうに神達にいってらっしゃいと見送ってくれた。


そんな対応に二匹は照れながら、嬉しそうに別れを告げていた。


そうして、外に出たのだ。


*********

読んでくださりありがとうございます◎

また二週空けさせていただきます。

よろしくお願いします◎

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る