第123話 そこは宇宙でした?
神が居るという六十階層に来た。
「すげえな……白銀の扉とか……」
「綺麗です……」
巨大な白銀に輝くボス部屋の扉を見上げて、二人で感嘆のため息を吐いた。
「一体、何で出来てんだ?」
「宗徳さん、こんな時こそ鑑定ですよ」
「ああっ。なるほど。よし!」
【ミスリル】
「ミスリルって出たぞ。ミスリルってなんだよ」
「……すごく貴重な金属系とでも思っておけばいいかと」
「なるほど」
鑑定しても分からんものは分からんということが分かった。
「銀っぽいやつでいいな」
「いいと思います」
廉哉だってよく分からない。ただ、価値は高いというのだけが分かるだけだ。それでいいと思っている。
「で、ここに神が居るんだな。これも反応してる」
宗徳が腰に提げている刀。その柄に青い組み紐で繋がって付いている黒曜石のような拳大の石を見る。神に反応すると言われていたそれは、このダンジョンに近付いた時は熱を持つだけだったが、今は見た目にも変化が出ていた。
「うわあ……色が変わりましたね」
「だよな? 真っ黒だったのが、あれだ。明るい海の色になった」
中に光が灯ったように、時折揺らめく。海の中から太陽の差し込む海面を見るような、そんな色に変わっていた。
「ただの石だとは思っていなかったが、すげえ綺麗だよな」
「はい。不思議な石ですね」
扉に近付いて、改めてその美しさを見つめる。上の方まで見上げてから気づいた。ここまで案内してくれたクモの女性は離れた所で立ち止まっていたのだ。
「ん? あ、案内はここまでか?」
「ソウ。ミコのしかくがナイとよくナイ」
「そのミコはここに居ないのか?」
わざわざ迎えに来てくれて、ここまで案内してくれたのだ。神の指示ではなかったのだろうか。
「お告げとか、託宣? とか聞いて、迎えにきてくれたんじゃないのか?」
「ここにクル。コエきこえル。きイた。ダから」
ここに来たら扉の外でも声が聞こえたらしい。
「誰でもか?」
「タぶん?」
「なるほど。お前さんがたまたまここにいた時に聞こえただけか」
「そのトオり。コドモたちとサンぽしてタ」
散歩と聞いて、ここまでの道のりを思い出して通路を振り返る。
「結構厄介なのもいたぞ?」
「お子さんたち、怪我したりとか……」
「スルのもアリ。さいゴのひトリになるのマつカラ」
宗徳も廉哉も言葉がなかった。
「……それ、本気か?」
「ほんキ。つよイコになル」
「……」
「そうか」
「そうダ」
宗徳はそういう種族なんだなと、無理やり納得したが、廉哉は衝撃を受けているようだった。
「さてと、そんなら、行くか」
「え、あ、はい」
廉哉の意識を無理やり戻す。
「で? この扉重いのか?」
「……ミスリルは軽いって聞きますけど……分かりません。触った事ないですし」
聞いた話らしい。けれど、伝説の金属だ。本当かどうか分からない。
「まあ、取り敢えず……押し……取手あるし、引くかもか?」
押してみたのだが、びくともしなかった。しかし、目線のやや下に小さな突起を見つけてそれを掴んで引いてみた。
「お、やっぱ引きっ……ちっさいドアだった……」
手応えでやっぱ軽いと思ったら、人一人通れるくらいのドアが開いた。扉にドアとかどうなんだとなんだか裏切られた気分だ。
この微妙な気持ちに気付いたらしい廉哉が慰めようとしてくれた。
「……ありますよねっ。ほら、大きな門の横にある通用口みたいなっ」
「そうだな……よし、これは新しい形だと覚えておこう」
「いいと思います」
なんなら、今度門を造る機会があれば扉はこうしてやる。どっちも開けられるようにしたら楽しいだろう。
「中入るぞ」
「はい。き、気を付けてくださいね?」
「大丈夫だ。変な気配じゃねえ」
宗徳は、なぜか大丈夫だと分かった。俗に言う『危険察知』のスキルが働いているためだ。日本で既に直感的に分かるようになっていた宗徳は、こちらへ来た事でスキルとして確実なものに変わっている。それにまだ周りも本人も気付いてはいない。
中へ入ると、そこはとても美しい空間だった。沢山の輝く鉱石が壁一面に生えるように出ており、天井には淡く光石が散りばめられていた。
「こりゃあ……星空か……宇宙だな」
《きゅ〜……》
まるで何一つ遮るもののない岡の上で満天の星空を見るような、そんな息を呑むほど美しい光景がここにはあった。徨流も見惚れている。
「レン、入ってこい」
「は、はい……っ、すごい……」
そうして廉哉も、ほおと口を半ば開けた状態で入ってきた。
すると、ゆっくりとドアが閉じる。
「おおっ。ドアがどこだったか分からんくなったなっ」
「……ですね……」
普通ならば閉じ込められたと焦るところ。だが、宗徳に焦りはない。
「プラネタリウムか……寿子と行ったな……徹が怖がって泣いたんだったか。レンは行ったことはあるか?」
「ないです……小学校の時に遠足であったんですけど、熱を出して行けなかったんです」
「なら今度行くか」
「っ、はい!」
笑顔になった廉哉。それを待っていたかのように、それは上から現れた。
真っ白な翼を広げて、部屋の中央にあった止まり木に舞い降りてきたのだ。
《くるるる》
「ん? ああ、はじめまして。俺は宗徳。こっちが息子になった廉哉です」
宗徳は当たり前のように真っ白なフクロウに挨拶して話し出す。
《るる?》
「そう、息子にしたんで」
《るるん♪》
「ありがとう。自慢の息子だ。以前、世話になったようで」
《くるる……》
「いやいや、迷惑だなんて。無事で良かった。レヴィアが心配していたんでね」
《くるっ……》
そうして、宗徳が話すところを、廉哉は呆気に取られたまま見つめていた。
「……なんで分かるんだろう……」
これだけは本当に不思議だと、廉哉は静かにため息を吐くのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
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