第122話 ボス部屋のはずです
蜘蛛から人化した歳若い女性について、洞窟のような場所から草原のある場所など、まるで外に出たように錯覚する階をいくつか降りた。
「すげえなここ」
周りを見て感心しながら進む宗徳。そんな宗徳の顔を廉哉は隣から覗き込む。
「宗徳さん。あまり驚きませんね? ダンジョン知ってたんですか?」
廉哉の予想よりも、宗徳の反応は大人しかったのだ。もっと『外じゃないはずなのにっ』とか大興奮すると思っていた。
「あ〜、なんか、ライトクエストのビルに似てるんだよな〜。あそこも、階によっては草原とかあるんだ。下りたことないけどな。慣れないと遭難するって言われたし」
ビルの中で遭難とか嫌だよなと呟く宗徳。これに、廉哉はヒクリと頬を一度痙攣させる。
「……そうなんですね……なんか、そう考えるとなんだかあそこの不思議さも納得できました……」
そう。ライトクエストのビル自体がダンジョンのようなものだ。広さも階によって違うし、天井がなく空がある所もある。そして、人外も多いとなれば、ダンジョンの要素はかなり揃っているといえた。
階層長と呼ぶのも、まさかこれに
「そういえば、何階層毎かにダンジョンならボス部屋があるはずですよね?」
《コのサキ》
宗徳は数えていないが、廉哉はボス部屋のことを意識していたので、今何階層に居るのかを数えていた。今は二十階層である。
ここへ来る間に、襲ってきた魔獣や魔物は、全て女性に確認を取ってから倒している。中には女性と同じくここに住んでいる者もいたのだ。
お陰で宗徳はアイテムドロップを理解した。その時の感想がこれだ。
『なんかくじ引きみたいで楽しいな!』
ついて来ている周りの子蜘蛛達がそれを拾って来るという有難い遊びにも付き合っての感想だった。
「二十階層で一つ目のボス部屋ですか……もっと刻んでくると思いましたけど……ここ、何階層あるんですか?」
《……六十よりシタアル》
「ん?」
なんだか言い方が微妙だなと廉哉は首を傾げた。なんだか嫌な予感がする。
「……因みに、神さまが居るのは?」
《六十とそのシタのほう?》
「……」
廉哉には意味が分からなかった。
「なんだ? 二つにでも分かれたか?」
「っ!」
《そう。シタにいるヌシサマ……こわい》
「う〜ん。六十階に居るのが善の神様で、その下の方に居るのが悪の神様って感じかもな〜」
愛した人によって追われたことの恨みもあるだろう。その恨みを持った部分と怒りを治めた部分が分かれてしまったのかもしれない。
「なら、さっさと下にも挨拶に行かんとな」
「……っ」
宗徳は当然のように、そちらにも会いに行くと決めていた。廉哉は動揺する。
「ぼ、僕が行って大丈夫でしょうか……」
「ん〜、とりあえずは先に会える方と話をしてみてからだな。だが、そう気負うなよ。お前のやったことは多分正しい」
「っ……はい」
《きゅきゅっ》
宗徳が頭をそっと撫でていった。徨流も頷いたことで、廉哉は少しだけ自信を持つ。
そして、突き当たりに大きな扉が見えた。
「へえ。これがボス部屋ってやつか? 立派だなあ。入り口の扉も凄かったが」
「……ここは何が居るんでしょう……」
緊張する廉哉。
「っ、ちょっ、もう開けるんですか!?」
「ん?」
《ン》
何と戦わなくてはならないのかと緊張していたのは廉哉だけ。普通に女性と宗徳は、歩いて来た速度のままに扉を開けていた。
「っ……開けちゃったし……」
そして、そのまま中へ入っていく。宗徳と女性に取り残されたら嫌だと廉哉は意を決してそこに足を踏み入れた。
「へ……」
扉の部分を抜けると、暗く何もないように見えた視界が唐突に色を持つ。景色が変わった。
「……家? え? ボス部屋でしょう?」
間違いなくボス部屋。しかし、そこには家が並んでいた。上を見上げると、壁一面に通路があり、小さな扉が幾つも並んでいた。アパートのような感じなのだろうか。パッと数えただけでも六階はある。
「へえ。ここ、あんたらの町か」
《アナイしたいけド、サキにいく》
「おう」
付いてきていた子蜘蛛達が、どこかへ向かって行った。壁をよじ登って行く。多分、家に行くのだろう。
「子どもら見てくれる奴いるのか?」
《ン。ダレかがミル》
「そりゃ安心だ。近所付き合いしっかりしてると、子育ては楽だって言うからなっ」
「……」
廉哉から表情が消えた。もう何も考えまいとする顔だ。
階段を見つけて降りていく。そして、進むことまた二十階層。そこは四十階層奥の扉の前。
また躊躇なく開けたため、廉哉はもう何も言わなかった。
「ほお。畑か?」
《ヤサイよくそだつ》
「なんか歩いてるけど?」
《イキがいいショウコ》
「へえ」
「……」
すごく嫌な光景だった。広大な畑。それを管理しているらしい人々。ここに居る者達は、ほとんどが人化している。布一枚巻いた原始人のような服を着ていた。
「服あるじゃんか」
《イエにある》
「置いて来たんか。俺らみたいに急な来客もあるかもしれんから、これからはちゃんと持って出迎えろよ?」
《ン。きをつケる》
「……」
廉哉の表情は、そこじゃない感を出していた。
だって、畑から手足の生えた野菜達が自分達で土から脱出しているのだ。
一様に出てくるとふうと額を拭い、駆け足の練習をその場でして、収穫籠に飛び込んでいく。
中には、何故かシャドーボクシングのようなものをしてから、畑を耕している者達へ手(指)を突きつけ、勝負を挑んでいく。
「ほりやぁ! まげねえべ!」
《シュッ、シュッ》
結構強いのもいるらしい。
「夕はんになるだぞ!」
《フっ(キラン)》
「いま、笑ったべさ!」
《クイクイ》
「ぞの挑戦うげるべぇぇぇ!」
《フイっ。ハ〜……》
「だめいぎ!? オラのクワさばぎ、うげでみよ!!」
《ハン》
楽しそうだ。
「あれ、良いな。うちの町でも育てようぜ。どんな味するんだろうな」
多分宗徳は、味よりもあの戦う感じに惹かれているのだろうと、正確に廉哉は理解しながらも答えた。
「……料理するの嫌がられませんかね……」
「そん時は俺がやる。別に獣と変わらんだろ。それにホレ。籠の中に入ったヤツは潔さそうだぞ」
「……」
ご丁寧に腹の上に手を組んで目を閉じている。これはこれで嫌だ。
《イキがイイノおいし》
「そんな気するわっ」
「……」
そんな会話を聴きながら、廉哉は一人、無我の境地に一歩踏み入れていた。ある意味でここはボス部屋で間違いないのだろうと納得した。
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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします!
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