第103話 今度はコレ!
夕食の準備を始める頃。
廉哉がミストと共に四十代に入ったばかりに見える快活そうな小柄な女性を連れて帰ってきた。
真っ先に宗徳へ帰還の報告をしたのは小さくなった徨流だった。
《くきゅふっ》
「おう、ありがとな徨流」
《きゅふ!》
お使い完了だと、満足気にいつものように宗徳の腕に巻き付いて落ち着いた。
そこに、廉哉が笑顔で近付いてくる。こちらもお使いが完了したと満足そうだ。
「ただ今戻りました。夕食、間に合いましたね」
「食べるのに間に合えばと思ったんだが、随分と早かったな。あっちで揉めんかったか?」
「はい。いつでもどこにでも行ける用意をしていらしたようで、ミストさんと少し話したらすぐでした」
廉哉の連れてきた女性。アルマの母だというユマは、後方でミストと共に町の人々に囲まれていた。どうやら、かなり顔の広い人だったようだ。
そんな様子を目を細めて見ながら廉哉へ尋ねる。
「なんか、すぐにでも逃げんといかんようなことでもあったのか?」
「あ……その、どうもケーリアの元王族らしいんです……それで思い出したんですけど……」
声を抑えて続けられる言葉に眉を寄せた。ケーリア国の王族といえば、廉哉を召喚したことにも関わっているはずだ。
「城にいた時に聞いたことがあったんです。勇者召喚に反対して城を出奔した王女の話を」
「……それは、勇者を否定してるってことか?」
「いえ。あくまでも召喚をやめるようにという話だったかと……」
「ならいいか」
廉哉に被害がなければいい。それなりに気を付けてはいようと思う。
「寿子にも言っとくか。お~い、中に連れて行ってやれよ~」
「あっ、はいっ。ユマさん、中で待ってますので」
「そうね……後で改めてご挨拶させていただきます」
そう言って、宗徳に丁寧に頭を下げて中へ入っていく。元王女というのにも頷けた。教会は、破壊しようとか子ども達を傷付けようとする者は弾く仕様だ。問題なく入っていくのを見て、とりあえずは警戒を解いた。
「レン、奥で休んでくるか?」
「いえ。何かするんですか?」
「家がないのが多いみたいでな。教会は子どもらが安心して居られるように、あんまり大人は入れたくねえんだ」
「なら……体育館みたいなのをあの辺に作りますか?」
廉哉が指さした方は、放置されたあばら家が数軒ある。壊す許可を取れていた範囲なので問題はないだろう。
「そうすっか」
何かあった時に集まれる場所にもなるだろう。それに、しっかりと骨組みを作れば体育館は作りやすそうだ。
「そんじゃ、夕食が出来るまでに作っちまうぞ~」
「はい!」
そうして、体育館はあっという間に出来上がった。城も建てられる宗徳や教会を建てたことで色々と目覚めた廉哉によって、完璧な仕上がりを見せた。
ついでにマットとかも作ってしまったのはご愛嬌だ。
しかし、そんな体育館の前で夕食のおあずけをくらいながら正座で怒られているのはなぜなのか。
「どうしてあなたはこういうことを思いつきですぐにやってしまうんですかっ」
「いや、だってやっぱ屋根がある方がいいだろ……」
「もちろん、その考えはいいんです。それでもさすがに驚くのはわかるでしょう」
寿子が怒っている理由も分かる。たった一時間ほどで広大な敷地を確保し、立派な体育館を作ったのだ。この異常さを町の人々が見てどう思うか。
「魔術がそれなりに使えるあちらでも驚かれたんですよ? こちらの方々が怖がるでしょう!」
人間技ではないと、恐怖を感じるほどのものだ。
「子ども達も居るんですよ? あの子達まで変な目で見られたらどうしてくれるんです!!」
「すまんです……」
自分はどう思われようと、今更どうってことはないが、子ども達はダメだ。あんな親の子どもと指差されたりしたら困る。更にはこの大陸にはいない獣人族。ただでさえ少数ながらも奇異の目を向けられているのだ。これはマズイ。
「まったく、ここは私が何とかしますから、あなたと廉君は明日にでもさっさと仕事に出かけてください。言っておきますけど、廉君を困らせるようなことも許しませんからね!」
「はい……」
体育館が出来て早々に廉哉は子ども達と教会の中に入っているので、一緒に怒られなくて良かった。
だが、ここで予想外のことが起きた。この光景を見た町の人々は、恐怖を覚えるどころか、同情していたのだ。
特に男たちは妻に怒られるのを思い出し、あれだけすごい事をできる人でも妻には敵わないんだなと親近感を抱いたようだ。
お預けを食らっていた夕食を食べていると、町の男たちが自然と周りに集まってきて肩を叩く。
「まあ……なんだ。ああいう嫁さんがいるから、兄ちゃんは人でいられるんだろうな」
「嫁さんに感謝だな」
「夫婦は、女が強い方が上手く行くもんだ」
「だな……」
これが寿子の計画の内だと察しながら、お酒があったら盛り上がっただろうなと思った。
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読んでくださりありがとうございます◎
怖がられなくて良かった。
また明日です。
よろしくお願いします◎
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