第101話 助けたい

宗徳にアルマを任せると言われた時はどうなるかと不安だった廉哉だが、何とか話ができそうだとほっとする。


話を聞いている間。悠遠ゆうえん達は教会内にいる子ども達の様子をチェックして回ると言って席を外した。年齢の割にしっかりした子達だと感心するしかない。


そんな中、アルマがぽつぽつと話し始めた。


「私の母は父に仕えるメイドだったそうです」

「だった? それ、もしかして……」


小さく頷くアルマに廉は顔をしかめた。


「ミスト達はどこかで元気にしていると言っていますが、私が二歳の時に亡くなったと父からは聞きました……」

「確認はしていないってこと?」

「はい……遺体を確認していないから、きっと無事だと言われました。でも、多分それは私を思っての嘘なのではないかと……」


ミストとは、今回護衛として付いてきた青年の一人だそうだ。メイドであったアルマの母親に世話になったのだという。


何人かの使用人達は、そんな事情でアルマを守っていた。しかし、雇われている使用人であることには変わりなく、主人に抗議をすることも出来ない。


「でも、本当に生きていたらどうする?」

「……え……?」

「ちょっと触るよ?」


廉哉はアルマが膝の上で固く握っていた手に触れる。そして、探索の魔術を使った。ただし、普通のものではない。血を識別し、検索することができるのだ。


近くにある反応はアルマの父や兄弟達。それを徐々に広げていき、探索を続けていく。母親と認識出来るくらい濃い反応を探る。


そして、その反応があった。


「っ、いた!」

「え? いったい何が……」

「アルマの母親。見つけたよ。ここよりもっと内陸の方だね……王都よりも向こうか……けど、ちゃんと生きているよ。生命反応にも異常なし……うん。問題ないね」

「……っ……本当に……本当に母上が……っ」


アルマは廉哉の言葉を信じた。魔術を使ったことを驚くよりもその報せに何よりも驚愕きょうがくし、喜んだ。


「ど、どうしようっ……まずミストにっ……」

「慌てなくていいよ。けど、アルマが行くよりも僕が迎えに行った方が良さそうだね。後で宗徳さんと相談するよ。アルマはここで少し養療ようりょうしててもらうことになると思う。ほら、ちょっと貧血になってる。座って」


興奮して一気に血が上ったのだろう。何より、食事も足りていないのだ。今は顔を真っ白にしていた。手を貸さなければ、倒れてしまう所だ。


「ご、ごめんなさい……」

「謝ることじゃないよ。落ち着いて」


これに気付いたのだろう。悠遠が外に走って行き、持って帰って来たのは野菜のスープだった。


「これ。できたみたい。おにいさんのぶんね」

「え、でも、他の子達に先に……」


周りを見回したアルマは、いつの間にか教会の入り口の方に子ども達が集まり、同じようなスープを飲んでいるのに気付いた。


「もうあの子達は食べてるよ。これはアルマの分。まだスープみたいなものしか食べたらダメだからね。体が慣れてから良いものを食べよう」

「っ……」


鑑定をかけたら、スープの材料は野菜だけではなかった。薬草も入っているようだ。そして、魚のアラから取ったダシ。恐らく、大人達には焼き魚も振舞っているだろう。


否、料理上手な寿子と調理道具をすぐに用意できてしまう宗徳のことだ。もしかしたら炊き込みご飯でも作っているかもしれない。


「レンにいには、あとでサカナのたきこみごはんのオニギリだって」

「っ、冷めてからでいいよ。お弁当にしてもらおうかな。アルマのお母さんを迎えに行ってくるから」

「つたえてくるっ」


悠遠は優しく頭の良い子だ。それがアルマのためだと知って嬉しそうに宗徳に伝えに行った。


「……本当に母上を……?」

「迎えに行くよ」


そう笑顔で宣言すれば、アルマは泣きそうな顔をして小さく呟くように口にした。


「ありがとう……っ」

「うん」


ここには居場所がないと思うこと。弱った精神と体。この大陸に居場所がないのならば、他の地へ行けばいいのだと思い至ることもできない状態。それは、かつて廉哉が追われてこの大陸をさまよっていた時に似ていた。


助けられるならば助けたい。あの時、廉哉はずっと誰かに助けてもらいたかった。手を差し伸べてもらいたかった。その気持ちを忘れていない廉哉だからこそ、アルマを救いたかったのだ。


そこに、宗徳がアルマの護衛二人を連れてやってくる。その後ろから悠遠が弟妹達と戻ってきていた。その手には葉っぱに包まれたおにぎりがある。


「レン、話は聞いた。よく見つけたな」


褒めるようなその笑みに廉哉は照れ臭そうに頷いた。


「ほ、本当にユマさんが生きてっ……」

「どこにいるんですかっ?」


護衛達は涙を浮かべて詰め寄ってくる。


「本当ですよ。ちゃんと生きています。ユマさんって言うんですね」

「はいっ」


嬉しそうに返事をしたのがミストという護衛らしい。


「けど、名前が分かってもレンだけだと困るかもしれんな……どっちか一人連れて行くか」

「その方が助かりますね」

「ならば俺がっ。お願いします!」


宗徳が品定めをするように、勢い良く頭を下げたミストを見つめること数秒。二回ほど頷いて許可した。


「いいだろう。レン、徨流に乗って夕食までには帰ってこい」

「わかりました」


自信満々で立ち上がり返事をする廉哉。そんな廉哉に、宗徳がお弁当だと言っておにぎりを子ども達に渡してもらう。しかし、そこでアルマが不思議そうに首を傾げた。


「母上がいるのは、王都の先なのですよね? ここからだと馬で駆けても王都まで半日はかかりますよ?」

「問題ねえよ。徨流なら余裕だ」

「そうですね」

「……?」


なおも首を傾げるアルマだが、この場から遠く離れた場所にいるユマを特定した廉哉ならば魔術で何とかなるのかもしれないと思い、納得する。


「無理しないでくださいね。よろしくお願いします。ミストも気を付けて」

「大丈夫だよ」

「必ず見つけて連れてきます!」


そうして、廉哉はミストを連れて教会を出て行った。


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読んでくださりありがとうございます◎


迎えに行きます。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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