第099話 食生活が心配です

宗徳は領主の三男だという少年もだが、他の面々の状態についても気になっていた。


「なあ、食事って普段どんなの食ってんだ?」


町の青年達にそう尋ねる。


「食事……ですか。パンか野菜くらいでしょうか」

「その野菜って、売ってるほっそいやつだよな? 人参がゴボウくらいの太さしかなかったぞ? 葉物は?」

「葉物野菜は……ほとんど出回りません」

「……お前らよく保ってんなあ……」


本当に何を食べているのかと心配になる。


唇はカサカサ。水分も足りていない。地上だというのに、壊血病かいけつびょうになっている者がいても不思議ではない。見たところ、まだ出血はなさそうだ。


「あ、でも葉っぱは、薬草を少し食べます」

「薬草?」

「はい……どの家でも鉢植えにしていて。昔の偉い人に言われたやつなんですけど。それを定期的に食べていれば、なんとか生きていられるんです」

「へえ……そういや、ここの教会の建物の中にそれっぽいのがあったな。あれか」


建物の中に作られた薬草栽培用の部屋。そこだけは、人の出入りが頻繁にあったようで、ちゃんと何かが生えていた。それが薬草であると知った宗徳はそのまま栽培しやすいように植え替えたのだ。


「あの薬草は、葉を千切ってもまた数日後には生えてくる強いものです。それで家族で少しずつ数日に一度はそれを食事と一緒に食べることになっています」

「なるほど……」


おそらくそれがなければ、この町は早々に廃墟となっていただろう。


それから宗徳は、薬草の味を思い出し、ニヤニヤと笑う。


「あれめちゃくちゃ苦いだろ」

「……はい……」


慣れられるような苦さではない。百草丸ひゃくそうがんよりももっと苦く、渋みも残るのだ。


「いくら体に良くてもあれはキツイよな~」

「はい……」


宗徳は頭の後ろで手を組んで背もたれに体重をかける。そして、天井を見ながら考えた。


「どうすっかなあ……」


廉哉に確認したところ、この町から調査すべき召喚された場所というのが馬車で半日ほど行った所だという話だ。宗徳たちの足でもそれほどかからない。


「なんにせよ拠点は必要か?」


いい感じに滞在できる場所も作ったのだ。居心地よくするのもいいだろう。


「よし! 炊き出しすんぞ」

「たきだしとはなんですか?」


貴族の少年が不思議そうに宗徳を真っ直ぐに見つめた。


「メシをタダで配るんだよ。あっちの大陸じゃ、教会で定期的にやってる町は多い」

「……施しですか……?」

「まあ、そんな感じか。本来なら領主からの支援金とか、町の人たちからの寄付金でなんとか賄うんだが、ここの現状だと無理だ。だが、先ず食べて体力を付けなけりゃ、できる仕事もできん。仕事ができなけりゃ稼げん。投資は大事だ」


これは、領主がやるべきではある。しかし、少年を見る限り問題のある人物で、その上にこの教会を取り上げようという考えを持つのだ。


期待はできなかった。


「ってことでいいか? 寿子」


入ってきたドアとは反対にある教会に続くドア。そこに、寿子が現れた。


「いいんじゃありませんか? そうと決まれば、カマドとか用意してください。寸胴鍋もいりますね」

「おう。場所は中庭……よか教会の前がいいか」

「そうですね」


教会の敷地内に大人を入れるのは、まだ子どもたちが怖がるだろうという判断だ。


呆然とする町の青年達に宗徳は確認する。


「なあ、この町のだいたいの人数はわかるか?」

「え、あ……いえ……」


代表として話し合いはしても、特に隣近所の付き合いが良いというわけではないのかもしれない。


ギリギリの生活をしていれば、自分たちの生活を守るだけで精一杯になる。他人と関わっている余裕がないのだ。


助けてもらうならば、助けなくてはならないのだから。


そこで、少し悩んだ様子を見せていた貴族の少年が口を挟んだ。


「ざっとですが、三百人ほどだったはずです……流れて来る人や亡くなる方がかなり多いので、確かではありませんが……」

「この町の規模で、三百人か……」


宗徳は机に焼きついた地図を見つめて、苦々しく奥歯を噛みしめる。


「少ねえな……」

「……っ」


地図に目を落とすと、建物はそれなりにあるのだ。この世界では、日本のように核家族化はしていない。二世帯、三世帯が一緒に住むのが当たり前だ。


それで三百人はちょっと少なすぎる計算だった。


少年は肩を落とし、青年達は俯く。本当に厳しい場所だった。


そんな青年達に宗徳が頼む。


「町のみんなを呼んでこい。できれば、地区ごとで時間差がいいが……そうだな。四つに分けるか」


一時間ごとに人が来るように割り振ってもらう。ついでに、手伝えそうな女性がいないかと聞けば、自分たちの妻と母をと言う。


「手伝えるやつはみんな手伝ってもらう。それと、火種と水の魔術をついでに覚えろ」

「え……魔術ですか? それは貴族様じゃないとできないって……」

「できんわけねえだろ。お前らだって魔力があるからこの世界で生きてられんだぞ? ここ、結構な重力あるからな」

「じゅう……なんです……?」


気にすんなと手を振り、最低限必要な魔術を覚えてもらうことを前提に、とりあえず一食分の食事を提供すると告げた。


「ほれ、さっさと呼んでこい」

「はっ、はい!!」


四人の青年達が出て行く。それを見送って、少年とその護衛二人へ目を向けた。


ちなみに寿子は食材を確認して献立を決めるため、もうこの場にはいない。


「お前らは、教会の中に入れてやる。中は結界も張ってあるし、俺の子ども達もいるから安全だ。坊ちゃんは中にいろ。そんで二人はカマドを作るのを手伝ってくれや」

「いいんですか?」

「中で子どもらの話相手にでもなっててくれ」

「……わかりました」


そうして、急遽きゅうきょ炊き出しの準備が始まった。


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読んでくださりありがとうございます◎


食べなくてはやっていけません。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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