mission 10 荒廃した町の支援

第096話 思い込まされているようです

次の日。


善治には昨晩の内に寿子や子どもたちも一緒にあちらの大陸へ行くことの許可をもらった。


宗徳以外はコンテナハウスに入ってもらい、徨流がそれを吊り下げて飛んでいく。


昨日の町の手前で降りたのだが、そこで廉哉が提案した。


「みんな鼻が良いから、風の膜を張った方がいいかもしれません」

「そうだなっ。あの臭いはキツイ」


宗徳でも辛かったのだ。獣人である子ども達は鼻が良い。気分も悪くなるかもしれない。


何より、病気になりそうだ。


「そんなに臭いがあるんですか?」


寿子には想像できなかったらしい。


「すごいぞ~、下水の臭いと生ゴミ系の臭いとあと……あれは人の臭いだな。とにかく酷い臭いだ。そういや、よくレンは途中まで我慢できたな」

「長くこっちの大陸で過ごしていましたから。こういう臭いがするって覚悟があったので」


確かに、覚悟ができていれば多少は我慢できるが、きっと浅く息をして耐えていたのだろう。廉哉はそういう変に我慢する所があるようだ。


それにしても、人々は良く耐えられるものだと感心する。もう慣れてしまうのだろうか。


近所の友人に海外でそういう独特の臭いのする国へ行ったと聞いたことがある。気温が高いのに、お供え物として外に食べ物を置く習慣があるらしい。日本とは明らかに臭いが違うと言っていた。それに似ていると昨晩寝る前に思ったものだ。


彼らにとっては当たり前の臭いなのだろう。


「召喚された国もここと同じか?」


聞かずにはいられなかった。数日後には向かうことになるのだ。宗徳も覚悟をしたいというか、準備できればしたい。


「この町ほど酷くはないです。けど、今思うと下水の施設は拙かったかと……」

「浄化魔法とかは使わないの?」


寿子は、仲間の職員達と話をすることが多く、一般的な国の生活の様子などを聞いているようだ。


あの竜守城は水洗トイレに浄化施設など、宗徳達が一から作ったものを使用している。これを知った職員達から自然と対比として一般的な生活を教えてくれていたようだ。


「あちらほど庶民が魔法どころか魔術を使えないんです。というか、教えないみたいです。使えるのは、貴族かそれに仕える特別な存在だけという考えですね」


宗徳達のいる大陸の町や村では、生活魔法と呼ばれるものを親が必ず子どもに教えるようになっている。


小さな火種を作ることであったり、得意不得意はあるが、水を少しだけ出したり土壁を作ったりといったものだ。


もし分からなければ、教会がそれを教えてくれるらしい。生活魔法は、神から与えられた恩恵の一つであるという考えからだ。どうやら、こちらとは教義が違うらしい。神が違うようなので当然か。


「嫌な考え方だな。それだけでロクでもない国だって分かるぜ……」

「それは庶民には使えないのが当たり前だって常識として広がってしまっているのかしら」

「多分そうです。一度、なぜ使わないのかと聞いたことがあるんですが、何言ってんだって顔されましたね」


それが常識になってしまっているのならば、使おうともしないかもしれない。使い方が分からなければ、子どもの頃に試したとしても使えるものではないからだ。


そんな話をしている内に町へ着いた。


宗徳が先導し、奥まった道を進む。そうして、目の前に立派な教会が現れた。明らかに景色が別物だ。


「あなた……これは目立ちますよ……」

「いやあ、あんまりにも酷かったもんで、すげぇ調子に乗った」


自覚はある。


「リフォームというか、ほとんど一から作ったようなものになりましたもんね」


蹴り砕けてしまうような壁の残骸に、ひび割れた地面のせいで傾いたものも多かった。


整地し直し、壁も土壁だったので、崩してそれも土と混ぜた。良い材料だった。立て直しは魔術で一瞬だったので、外にいた者は何が起きたか分からなかっただろう。


作業中に事故があるといけないと思い、出入りができないようにしていたので、見には来なかったが。


「中はもっとすごいぞっ」

「はあ……悪い大人が攻めてきませんかね……」

「結界でばっちり弾くから問題ねえよ」

「それならいいんですけど……でも、集まってますね」

「あ、マジか。先にそっちの掃除だな」


早くこれを見せたくて宗徳は興奮していた。そのため、隠れて潜んでいる大人達を感知していても警戒していなかった。


「じゃあ、あなた。お願いしますね」

「おう」

「行きましょう、廉君」

「え? でも……」


当たり前のように寿子は子ども達を連れて中へ入ろうとする。


廉哉は自分も大人たちを追い払おうと思っていたらしい。だが、寿子や宗徳がそれを許す気はなかった。


「いいんです。ああいうのは大人同士のお話が必要ですからね。さあ、中を案内してください」

「あ、はい……」


これを背中で聞きながら、宗徳はニヤリと笑っていた。


「さて……オハナシするかねえ」


拳で語り合うのが良さそうだ。


**********

読んでくださりありがとうございます◎


オハナシです。

次話どうぞ!

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