第040話 戻りましょう
リヴァイアサンは、やはりどう見ても胴が長い龍……水龍や神龍にしか見えなかった。
鱗は水色よりも白い。真珠のような輝きがあった。見つめる目は美しく澄んだ黒。口髭もあり、それを見ると、どうしても長く生きたものと感じてしまう。お爺さんぽいのだ。
だが、同じように見上げて見つめていたイザリはあっさりと全てを見抜いた。
「随分と若いな」
「えっ、若い!? アレでっ!?」
《ゥゥ……》
不満げな声が聞こえた。それを裏付けるように、イザリが指摘する。
「ほれ見ろ、怒っているぞ」
「お、おう……すまん」
素直に謝っておく。すると、また声が響く。
《クゥゥ……》
「可愛い声だな」
不思議な響き方も相まって、そんな感想が出た。すると、嬉しそうに目を細めたのが見えた。
それを見て、瞼があるんだなと訳の分からない感心を抱く。そんな呑気な感想を抱いたのは宗徳だけではなかった。
「か、かわいい」
そういえば、後ろに治季がいたのだと今更気付いた。
「おじぃちゃんなのにおじぃちゃんじゃないのっ? 目がクリクリっ、赤ちゃんみたいっ」
「お、おい……治っ……」
一人、またテンションを上げていく治季に宗徳は、落ち着けと手を伸ばすが、気持ち的には引いているので届かない。
「ノリ、それは放っておけ。それより……」
イザリに言われて宗徳はリヴァイアサンを見る。その目が合うと、こちらへ来た理由が分かった。
「……帰るってか」
《グゥゥ》
そうだと一つ鳴くと、なぜか周りをゆっくりと見回す。その様は、この場所を見納めるようだった。
「……もう来る気はないってことか?」
「そのようだな。ノリも戻れ。こちらの法具は壊れてしまったからな。欠片は……」
「見つけておきますっ!!」
「うおっ、そうか……頼んだ」
いつの間にか近付いていた治季に驚きながらもそう答えておく。
「はいっ。見つけたら取りに来ますかっ?」
「そ、そうだなぁ……イズ様、その方が良いですか?」
「ああ。娘、見つけたら連絡してくれ。ノリが受け取りに来よう」
「はいっ、あっ、連絡先っ」
言われるままに腕輪の機能にある電話帳を見ながら、何気なく空間魔術を発動させ、紙とペンを出すとそこにメモって渡した。
その時、それらを全て見ていた治季が更にキラキラとした瞳を向けていた事に気付いてビクリと身を強張らせる。
「では、見つけましたら必ずっ」
「あ、ああ。無理すんなよ?」
「はいっ」
そうして池の方へ歩いていく。すると、リヴァイアサンが頭を下げる。
「乗れってか?」
《クゥ》
間違いないようだ。宗徳は風の膜を纏ったままだ。そのまま浮かび上がるのに苦労はない。
首の付け根辺りに乗ると、冷たいだろうと思っていた鱗が皮膚のように柔らかく温かかった。とても乗り心地もいい。
「硬くないのなっ」
宗徳が嬉しそうにそう言ったのが良かったのか、リヴァイアサンが喉を鳴らしたような振動が足に響いていた。
リヴァイアサンが向きを変えたのを感じ取り、宗徳がイザリに声をかける。
「それではイズ様。失礼します」
「向こうに行ったらあちらにある法具も回収してくれ」
「はい」
どこにそれらしいのがあったかなと考えながら答える。
「どれ、餞別に浄化してやろう」
イザリが杖を振ると、池が眩く光り、青々とした美しい水に変わる。宗徳はさすがだなと笑みを浮かべた。リヴァイアサンも喜んでいるようだ。
いよいよ池に向かおうと動き出した所で、思い出したように治季へ告げた。
「あっ、治季っ、俺は本当は七十過ぎのジジィだからなっ」
「……えぇぇぇっ!?」
その声に驚いたようにリヴァイアサンは池に突っ込む。
そして、一瞬目を閉じ、次に目を開けた時、そこにはあの黒い鳥居があった。
(帰ってきたか……あっさりしてんな)
そこで、リヴァイアサンは再び鳥居に近付いていく。黒い煙のようなものは少なくなっていた。あちらの水が綺麗になったからだろうか。
そんなことを考えていると、鳥居の上の辺りに水晶のような物が埋まっているのが見えた。
(もしかして、あれか?)
《クゥゥ》
どうやらそうらしいと知ると、宗徳はリヴァイアサンから離れてそれを取りにいく。手をかけるとコロンと取れた。すると、鳥居が砂となって崩れていく。
(おおっ)
黒い煙の中に消えたそれを確認することなく、法具を空間魔術で収納すると、湖面に向かう。
《クゥゥゥっ》
(なんだ? また乗れってか?)
なんとなく言いたいことがわかるようになった事を不思議に思いながらも、背に掴まると一気に湖面に飛び出すのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
帰還です。
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