第036話 湧き出る黒い霧は

何だか分からない洞窟の中を歩き回る宗徳。どうも迷路のように多くの通路が入り組んでいる場所のようだ。


方向感覚には自信のある宗徳は、歩き回った中で、だいたいの広さを予想する。


「丁度、湖と同じくらいだな」


湖は、およそサッカーが出来るくらいの競技場と同じくらいだろう。それと同じだけの空間。天井はどこも黒い霧が溜まった湖の底のようだ。


どれだけ入り組んだ場所であっても天井は同じ湖の底でしかない。一方、未だ通路の方で出入り口を見つける事はできなかった。


「まぁ、迷ったら水ん中に戻ればいいんだもんな。そろそろどうなってっか、集中するか」


同じ所に戻ってこなくてはならないと考えながら、自分が今どこにいるのかを考えるのは疲れる。だが、最悪迷ったならば、天井に飛び込んで湖の底に戻れば、問題はない。落ちた場所に戻らなくてはいけないことはないというのは、歩き回り出してすぐに気付いたことだ。


何のことはない。宗徳は天井に飛び込んでみたのだ。すると、問題なく湖の底に戻る事ができた。そして、この場所へ落ちた時と同じように風で通り道を湖の底に開ければいい。


どれくらいの時間が経っただろう。体感では十分ほどだが、実際は三十分が経っていた。そうして、これだけの時間を使ってこの空間の全体像を把握した。


「あ~っと、あそこだけが通れねぇけど、空白なのはあそこだけか」


中央辺りだけは、どうしても辿り着けなかった。


「クソっ、完璧な脳内地図が完成できねぇじゃねぇか」


職人肌である宗徳としては、始めた作業は完璧に、最後までやり遂げたいのだ。


「久々なのに、簡単に地図に出来そうだな。やっぱ、若い方が頭の回転はいいな」


若さが羨ましいと思う反面、出来た事の喜びもあり、複雑な表情を浮かべる宗徳。


因みに宗徳は気付いていないが、これは『マッピング』という能力だ。この世界ではかなり重宝される能力だった。


「さぁってっと……この壁の向こうには湖から行くしかねぇよ……なっ!」


そうして、力一杯飛び上がって湖の中に戻る。どれだけ天井が高くても、宗徳の今の身体能力なら問題なくジャンプするだけで届くのだ。


その際、黒い霧に体が触れる事のないように風の膜を自身の周りに展開するのは当然だ。


もう宗徳は息をするように自然に魔術を使えるようになっていた。順応力は高い。


そこだと思う場所に風の道を通らせようと魔術を発動する。しかし、なぜか道が通らない。


(んん? っと待てよ? こっから湧いてねぇか?)


黒い霧が湧き出ている場所こそ、唯一入れない中央の空間の真上だった。


(もう一回やってみっか)


何かがあるにしろ、風で黒い霧を除ければ見えるはずだともう一度試してみる。だが、どうもその風が弾かれるようなのだ。


(なんかヤベぇのがあるのか?)


少しばかり考え込んでから、宗徳は次の行動を決める。どうしても気になる。何があるのか見てみたい。その思いが強くなる。


(よしっ、こうなりゃ、体当たりだっ)


風の膜を強化し、宗徳はそこに突っ込んだ。


(特攻あるのみぃぃぃっ)


テンションがかなり上がっていた。


そして、何か強い抵抗が弾けて抜ける。そこにあったのは小さな鳥居だった。だが、黒い。赤い鳥居ではなく黒い鳥居だ。小さいと言っても人が一人くぐるには充分な大きさだった。


(……不気味だな……けど、こっから出てるな……くぐってみるか)


宗徳は自分の体の周りにある膜の外側にもう一つ広い範囲を覆う膜を張る。


湖の底は、鳥居の周辺だけ土があった。ちゃんとした底だ。だから、歩いて鳥居へ向かう事が出来た。


鳥居を観察しながらゆっくりと近付いていく。


「霧は……鳥居自体から出てんのか……」


鳥居の真ん中の空間からではなく、鳥居の柱自体から湧き出てきている。煙のように濃いそれは、炎は見えないが、まるで燃えているようにも見えた。


そして、それを見上げながら宗徳は鳥居をくぐったのだ。


**********


読んでくださりありがとうございます◎


鳥居の先には?

次話どうぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る