第115話その皆に私も入ってるかな……?

「それで二つ目の反省点なんだけど、私たちの隙の多さも改善したいよね」

「どういうことでしょうか?」


 首をかしげながら冷夏が質問をした。

 先ほどもそうだが、モンスターへの対策は毎回している。隙が多いという言葉にピンとこなかったのだ。


「一言にまとめると、他の探索者に絡まれやすいってことかな」


 これはずっと、正人が感じていたことだ。


 二十代前半の正人と女子高生の三人というパーティー構成は珍しい。たいていは男性ばかりのパーティーになるのだ。


 また下の階層に行くほど探索者の年齢層は高くなる傾向があるので、正人たちは九階層にいるだけで目立ってしまう。さらに探索協会から注目されて、顔が売れてしまっているのだ。嫉妬の一つや二つぐらい簡単にされてしまう。


 女を侍らしやがって。

 若いくせに生意気だ。

 股を開いてこびを売ってるんだろ。

 運だけで生き残ったくせに。

 他の探索者に寄生しているだけ。


 探索者の間では、様々な誹謗中傷や悪意ある噂が流れている。

 雑誌に掲載されてから、一般受けは良くなった反面、同業者からは嫌われることもでてきた。もちろん好意的な探索者の方が多いが、人間は悪意をぶつけられた方が記憶に残りやすいので、本人からすると味方が多いといった実感はなかった。


「確かに、今日もナンパされちゃいましたしね……」


 里香がうんざりした声で言った。

 隣にいる冷夏やヒナタも似たような顔をしている。


 探索者なってから数えるのも面倒になるほど経験したこともあって、三人とも男性には嫌な思い出が多い。正人がいなかったら男性嫌いになっていたかもしれない。


 ちなみに、女性陣と違って正人はモテるようになった事実はなく、近寄ってくるのは男性の探索者ばかりだ。しかも里香たちを紹介してくれというお願いか、もしくは嫉妬からくる絡みばかりである。


 幸か不幸か里香たちのような経験はしていないのだ。

 もし、同じようにモテていたら、現在のパーティーは崩壊していたかもしれない。


「私たちみたいな新人は珍しく、鴨だと思われて狙われる可能性があるから、決して油断してはいけない。常に四人で行動して警戒し続けよう」


 他人を変えることは出来ない。周囲が攻撃してくるのであれば、自衛するしかないのだ。


「これからも、ずっとみんな一緒ってことだよねー! ヒナタは賛成だよー!」


 暗くなった空気を変えるために、ヒナタが里香と冷夏の腕を掴んで引っ付いた。

 体を動かし続けていたのだ汗臭いが、そんなことは気にならないようだ。

 楽しそうに笑いながら「ずっ友だよー」と言い続けている。二人は困りながらも笑っていて、ヒナタの行為を嫌そうにはしていなかった。


「その皆に私も入ってるかな……?」

「もちろん! 正人さんもだよ!!」


 掴んでいた里香と冷夏の腕を手放すと今度は正人を抱きしめようとする。


「ヒナタ!」

「それはダメ」


 先ほどまで笑っていた二人は声を揃えて、左右の手を取ってヒナタの行動を止めた。息のぴったりとあった動きに里香と冷夏はお互いの顔を見る。


「「…………」」


 この瞬間、里香は冷夏が正人のことをどう想っているのか、確信を得てしまった。そして冷夏は、芽生えたばかりの淡い気持ちがバレてしまったことにも気づく。


 先に出会ったのは私だ。喉からでかけた言葉を里香は飲み込む。


 剣呑な雰囲気を察したヒナタは目だけで正人に助けを求めるが、鈍い正人は気づかない。


「ヒナタさんは、もう少し落ちつこうか」


 子供をあやすように頭を撫でた。


 自由奔放なヒナタは正人にとって妹のような存在であり、無意識のうちに体が動いてしまったのだ。途中で自分がやっていることに気づいて、慌てて手を離して謝っている。里香と冷夏はその様子をじーっと見ていた。


 後ろを振り返ったヒナタは、無表情で見られていると気づいて頬を引きつらせる。


 普段なら二人ともこのように表に出すことはないのだが、今回はタイミングが悪かった。今は感情のコントロールが難しいのだ。


「二人とも、少し落ちつこうか」


 流石にここまでくれば正人もおかしいと気づく。ヒナタから離れて里香と冷夏の前に立つ。


「いったい、何があったんだ?」


 正直に言えるはずがない。

 二人は正人に話しかけられて冷静になったこともあり、協力して言い訳をする。


「ほら、この前言ったように、ヒナタちゃんって無防備だから」

「うん、うん。いい歳なのに男性に抱きつこうとする癖が抜けないから、里香ちゃんと一緒に注意しようと思ってたんです」


 雑誌撮影の時に似たようなことがあったと思い出した正人は、納得してしまった。


 あまりにもチョロくて驚いてしまうが、まさか二十年以上もモテなかった男性が、いきなり女子高生の二人に好意をもたれるだなんて想像できるはずがない。


 まだ二人の言い訳の方が現実味があった。


「だって、ヒナタさん。私も二人に同意かな。これから他の探索者にも気を付けなきゃいけないし、人に飛びつこうとする癖は直した方が良いよ」


 正人にすら注意されてしまい口を尖らせて拗ねるヒナタ。仕方なくといった返事をする。


「は~~い」


 そういった態度が子供っぽいと思いながらも、正人はそれ以上は言わなかった。もちろん里香や冷夏もだ。


 話し合いを続ける雰囲気ではなくなってしまったため、正人は三人に声をかける。


「それじゃ、もう寝るよ。お休み」


 それぞれから「お休みなさい」と返事をもらってから、正人は部屋に戻るとベッドに横になる。探索の疲れが襲いかかり、すぐに夢の中へと旅立っていった。



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