4-5「違い」
私はおもむろに自分のスマートフォンから地図アプリを起動した。
「どうしたんだい。急に地図なんて開いて」と益子美紗が訊く。
「もしかしたらと思って。香織が誘拐された場所は、益子さんと初めて会った場所……ここみたいな都会な場所じゃなくて、もう少し辺鄙な場所。正確には友人との待ち合わせ場所に向かう途中だったようですけど」
「ふむ?」
「それを踏まえて……友久、その銀歯が拾うラジオっていうのは、例えば山ある電波塔に近づくとどうなる?」
「そりゃあ、聞こえは良くなると思うよ? いや、俺はその時山に近づいたことないから分からんけれど、送信元の電波塔と、受信元となる銀歯が近ければ、繋がりは良くなるでしょ?」
「とするとだ……」
そう言って地図アプリを縮小して、広い範囲を見られるようにする。出発地点は便宜上、あのゴミの不法投棄事件があった公園に設定し、ピンをつけた。そして、柴乃さんから預かっているスマホで香織に確認する。
「香織、お前誘拐されたとき何に乗せられた? まさか歩きじゃないだろ?」
「う、うん。黒のバン」
「攫われた時間帯は?」
「午前中」
「俺と友久が、土曜午前の二限講義を受けようとした時に、堂崎美琴から連絡が来て、その後に香織からの最初の連絡を受けてる。ということは……」
そこまで言って、益子美紗が声を出した。
「そうか、その公園から午前中のわずかな時間で行ける山か!」
「同じ学校の同級生である香織たちが、待ち合せるのに現地集合なんてあり得ない。どっか共通で分かる場所で集まるはずだから、この公園付近で考えても差し支えはないはずだ」
そう言いながら、どこかそんな場所がないか探していると……。
「その公園から行ける一番近い山は、一時間半程度で行ける
そう切り出したのは、これまで無言だった鳴瀬小夜子だった。
「え、そうなんですか?」
「あたし登山サークルだから山には詳しいのよ。宝天山の近くには大きな渓谷があって川下りもできるんだけど……。まあそれはともかく、あのあたりって本来私有地が多いんだけど、地主の協力の下、登山道として開放されている道が多いのよ」
「地主!」
「よくわからないけどさ、そんな短時間で簡単に行ける山なんてそうそうないし、その滑志田? っていう家の人が地主なら、そこなんじゃない? 正確性要するなら登記簿謄本必要だけど、緊急要するならこの時点で行ってみるのが吉ね」
「え……鳴瀬センパイすっげぇ詳しいっすね」
「だから登山サークルだって言ってるだろ」
「あー! 思い出した!」
そう言って次に声を張り上げたのは、意外にも犬養柴乃さんだった。
「思い出したって? 柴乃何を?」
「滑志田さん! ずっと聞いたことがあると思ってたんだけど……。ちっちゃい頃おばあちゃんたちに連れられて、この宝天山にある、滑志田さん所有の、ログハウスのようなところにに行ったことがあって……」
「もう確定じゃん?」と友久。
「そこでおばあちゃん、滑志田さんって方とカルタをしてたんです。お手紙に書かれていた文代さんだと、私のおばあちゃんと三十も歳が離れているので、当時カルタをした人は流石に違うとは思いますけど、同じ家の人である可能性は高いかと……」
柴乃さんの小さい頃と考えると、今から十年以上前だろう。それにしても、百近い年齢で亡くなった文代さんは当時にして九十近い。とても柴乃さんのお祖母さん、犬養一蝶氏と親密な関わりがあったとは思えないが、文代さんの子どもであれば、年齢が一致するかもしれない。
「可能性は高いな。行ってみる価値はある」そう言って席から益子美紗が立ちあがった。「問題はどうして香織ちゃんが誘拐されたかなんだが……」
「そこなんですよね……。どうして益子さんじゃなくて香織が……」
そう言ったところで、ふと気づく。それはあまりにも、私にとっては当たり前すぎて、今この瞬間まで考えもしなかったことだった。
「ま、益子さん。益子さんって身長はいくつですか?」
「は? なんでそれを? まあ、女性としては高めの一六五センチメートルだが……」
「一六五……!」
次に柴乃さんからスマートフォンを借り、香織にも身長を訊く。
「香織、お前健康診断で身長いくつだった?」
「え……? それ関係ある? 一六五センチメートルだったけど……」
「一六五……」
「ああ、そういえば香織ちゃん、私より背高かったですものね」と柴乃さん。「でも、身長だけで間違えたとは……」
「いや、身長が合っていたせいで間違えたんでしょう。それに、今日はさらに間違えやすい条件が整ってたようですし」
私がそう言うと、「条件?」と益子美紗が聞き返してきた。私は、そのシックで男性的な服を身にまとった益子美紗を見ながら答えた。
「はい。香織のいる小屋に行けばわかると思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます