1-10「公園の子供たち」

 不法投棄事件から一週間が過ぎた。今日はきちんと二度寝もして素晴らしい寝起きとなった。時刻は午前十時。一般的に、まだギリギリおはようと言える時間帯での起床である。


 スマートフォンを覗くと、部活に行っているはずの香織からメッセージが来ていた。どうも部活のことで助言をもらいたい、といった内容だった。自分自身も、香織のいる演劇部のOBでもある。たまに、そういう助言を与えるのも悪くはない。


 一時間前には既に来ていたメッセージに今頃返事をつけ、とりあえず出かける準備をして外に出た。ふと、一週間前のことが気になって公園に向かう。公園は、普段と何ら変わりのない姿を見せていた。老人たちはベンチに座って会話に花を咲かせ、子供たちは遊具や持ち寄った遊び道具で元気に遊んでいる。


 ひとつ、普段と違うところがあるとすれば、キャスケットを被った、見掛けは美男子に見える一人の女性が、公園のシンボルである大きな木の前にいた事だった。見覚えのあるその女性に、私は声を掛ける。


「やあ、君も来たのかい」

「いやまあ、あれから一週間経って、不意に思い出してしまいまして」


 あれから益子とやりとりをするようになった、というわけではない。あの後益子は自分の仕事をしに行くと言って途中で別れたきりだったので、まさに再び顔を合わせるのは一週間ぶりである。


「あれから仕事は順調ですか」

「まあぼちぼちだね。いやしかし、君がまさかあそこまで舌が回るとはね」

「いやまあ、いえ」

「ずばり君、その性格のせいで友達少ないだろう?」

「……否定も肯定も、しないでおきます」


 図星だったが、当たっていますとも言いたくないし、かといって違いますと嘘をつくのも何だったので、そう返事した。


「益子さんは、そういえばどうしてあの日ここにいたんですか」

「言っただろう? 仕事でたまたま寄っただけだって。そこでなにやら騒がしかったから、野次馬気分で見に行っただけさ」


 にしてはやけに協力的だったが? と言い返したかったが、何故かそれを言ってはまずい気がして、私は口を閉ざした。


「それで。あの家族はあれからどうなったのか。君は知っているのかい?」

「いえ。あの日も言った通り、私は不法投棄された理由が知りたかっただけで、その先はあの家族の問題ですから」

「……四谷くん。君のその性質は私によく似ている。だからこそ言っておこう。君は残念ながら敵を作りやすい。でもその分、君を理解してくれる人物も少なからずいる。そういう人は、大切にした方がいいよ」

「はい。肝に銘じておきます」

「うん。それじゃあ、私はこれで。君もまた、本当は別の所へ向かうつもりだったんだろう?」

「ああ、そうでした。ではこれで」

「うん。ではまた」

「ではまた」


 そう言ってお互いに背を向けて歩き出した。


 ……ではまた?


 何気ない一言が気になって振り返ったが、益子の姿はもうどこにもなかった。社交辞令的なものだろうと、私は解釈して、香織のいる、母校へ向かうことにした。途中、公園には四人の子供がボールで楽しそうに遊んでいる光景が見えた。

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