閑話 葵の視点 長女は畑の上でカウセリング?
「さ、陽菜! 今日は私とキャベツの収穫だよ!」
「はぁ」
「仕事する前から疲れているのかな?! 頑張っていこう!!」
私は溜息を吐いた妹に無理矢理にでも元気を出させようとしていた。
天気は晴れ。絶好の仕事日和だ。そんな今日は土曜日で、明日の直売に向けて色々と準備をしなければならない。
もちろん、数日前にうちを辞めた和馬君の力を借りずに、だ。
「葵姉、明日は直売店を臨時休業しましょ。和馬がいないのよ」
「す、するわけないじゃん。そんな理由で」
和馬君がうちを辞めてから陽菜の調子は相変わらずこんな感じだ。陽菜だけじゃなく千沙も母さんもである。
そろそろ限界だった私も心を鬼にして落ち込んでいた三人に働くよう促した。なので今日のお仕事は陽菜と一緒に春キャベツの収穫を行う。
「じゃあさっそく春キャベツを収穫していこう!」
「和馬、今日は何をしているのかしら?」
「ちょっと。無視しないでよ」
「百合川とデート行って、夜にはホテル行って、最後にはイッて......」
な、生々しいね。そんなこと気にしたってしょうがないじゃん。
姉である私の話を聞かない陽菜にキャベツを収穫するための包丁を渡した。とりあえず道具を渡せば、忙しくなる今日のことを考えて陽菜も手伝ってくれると見込んだからである。
案の定、陽菜はその包丁を使って慣れた手付きでキャベツを収穫して、足下に置いてある
「......そう言えば、あいつとはキャベツ畑で出会ったんだっけ」
「え、その話長くなりそう?」
「ほら、当時は私も含めて家族4人でそれぞれプライベートで畑を管理する日課があったじゃない?」
陽菜は私の発言を無視して語り始めた。私は耳だけ傾けることにして作業をしていたが、陽菜が「聞きなさいよ」と言って中断させられた。
仕事したいんですけど......。
「私の畑はキャベツを育てていたのよね。出来が良かったから売り物にもなりそうってことで直売店でも売ってたけど、その時期は忙しくてあまり畑の管理がなっていなかったのよ」
「ああー、たしか私が和馬君に草むしりをお願いしたんだっけ」
「そうよ、それ」
中村家では和馬君を雇う前、季節毎にある行事を行っていた。千沙以外の4人が好きな野菜を各々が管理する畑で育てて、収穫時期になったらそれの出来を皆に自慢するというローカルイベントである。
イベントだけど勝敗も優劣も無い。ルールは一つだけで、“
和馬君を雇ってからは仕事の効率面が飛躍的に向上したため、彼には4人が管理する畑の垣根など無視して作業をしてもらった。そして次第にそのイベントは無くなっていった。
父さんの何気ない提案から始まったことだけど、個人的には楽しかったイベントなのでぜひ復活させたいと思っている。
「ふふ。知ってる? 和馬を雇ったってまだパパから知らされていなかった私はあいつをキャベツ泥棒と勘違いしたのよ」
「へぇ。そんなことがあったんだ」
「そんでもって胸も揉まれたわ」
「
初対面でうちの妹になにやってんの、あの変態......。
私はどこに揉まれる胸があるのだろうかと陽菜の控えめサイズの胸に目をやった。その視線に気づいたのか、陽菜が包丁の
あ、危ないな......。今のは私も悪いけど、私だって好きでこんなに大きくなったわけじゃないのに。そんなこと言ったら今度は峰ではなく刃の方で来そうだから言わないけど。
「それから和馬に色々と相談したら、ちゃんと考えてくれていて、終いには惹かれていって............葵姉、今から私が言うことは冗談でもなんでもないわ」
「え、あ、はい」
話途中で真面目な顔つきになった陽菜は私に何か言いたいことがあるらしい。
なんだろう。実は和馬が好きだった〜的な爆弾発言かな? でもそれはもう爆弾どころか不発もいいとこないくらいバレバレな内容なんだよね。
今度は真面目な顔つきから真っ赤な顔になった陽菜は口籠りながらも私に告げる。
「実は私、和馬が......す、好きなの」
「......。」
し、知ってたよ......。
そんなやっとの思いで今まで隠していた秘密を暴露するかのように言うものじゃないよ。
「へ、へぇー。それは意外だったなぁ」
でもこんな陽菜を見たらそんなこと言えない。私は空気を読んで踏み込んだことを聞いた。
「いつ頃から好きになったの?」
私が確信を持ったのは、たしか去年の夏休みに、和馬君と陽菜がナス畑で一緒に仕事をしていたときだ。和馬君が告白紛いなことを言って、それに陽菜が照れていた様子を目にして察したのである。
「きょ、去年の
違った。もっと前だった。
す、すごいな。そんなコロッといく子だったんだ陽菜って。コロッといきやすいとか失礼言ってごめんなさい。
「でも私のそんな恋ももう終りね」
「え、千沙ならともかく。陽菜は和馬君と高校が一緒じゃん」
「なんで千沙姉が出てくるのよ」
あ。
「ほ、ほら! 私たち姉妹の中なら陽菜が一番彼と会える機会があるじゃないってこと!」
「ああ、なるほど」
私が慌てて言い訳したことによって千沙の命を守ることに成功した。
この言い方だと完全に末っ子が和馬君関連でトチ狂った人間みたいに聞こえてしまうが、あながち間違ってもいないのでこの表現は正しいとも言える。
「和馬がうちにもう来ないと決めたのは、私と会いたくないってことでしょ」
「ま、まぁ、平たく言えばそんなところかも。かなり誇張しているけど」
「そんな嫌々なら学校で会えたとしてもあいつを困らせるだけじゃない。......愛が重かったのかしらね」
「......。」
今日の陽菜は贖罪がすごい。和馬君がうちを辞めたこの数日間でいったい何があったんだろう。
“私と会いたくない”だの、“愛が重い”だのと私に言われても否定しづらいというのが正直な感想である。
「数日前に私の下着姿の写真をあいつにL○NEで送りつけたら無視されたし」
待って。そっちの方がよっぽど爆弾発言じゃん。急にリバーブローを食らった気分だよ。
え、うちの末っ子ってそんな大胆なことしてるの? 数日前って彼女と付き合っている最中の和馬君に? 正気の沙汰とは思えないんですけど。
「ちゃんとシ○ってくれるといいのだけれど」
私は過激思考な陽菜に言葉が何も出なかった。自分の身体でシ○ってほしいってどういう自信の表れ? お姉ちゃん、ちょっとよくわからない。
そしてこの子には和馬君の彼女に遠慮とかそういうのが無いらしい。人として非常識さを叱るべきか、姉として恋を応援するべきか、なんとも悩ましい立ち位置の私である。
「やっぱり下着姿なんて中途半端なものじゃなくて全裸の方が良かったのかしら? でも私、ち、ちく......が埋まってるし......」
「こ、この話はやめようか!」
もうこれ以上妹の本性を知りたくない私は半ば強引にこの話題を終わらせることにした。
そしてとりあえず一言だけ言っておくことにした。
「その、なんというか......わかってもらえるといいね」
「......ええ。そう願ってるわ」
珍しく今までの行為に後悔している陽菜と一緒に、私はキャベツ畑で春キャベツを収穫していった。
和馬君なしでこれからを生活していくのに、不安な気持ちがあるのは陽菜だけじゃないと理解していながらも、気づかないフリをして黙々と作業を進めていくのであった。
―――――――――――――――
ども! おてんと です。
ここのとこ和馬の視点ではなくて申し訳ありません。許してください。次回はまた葵の視点となりますが、その次は和馬のターンになります。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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