第355話 ラブストーリーは突然だね

ども! おてんと です。


後半は悠莉ちゃん視点です。許してください。


――――――――――――


 「百合川さんの印象は“普通”かなぁ。むしろちょっと地味なくらい」

 「おっぱいは地味どころか爆裂しているけどね」

 「別れた方が百合川さんのためになると思う......」


 やだ。


 現在、変態野郎は桃花ちゃんと一緒に学校に向かっている最中だ。いつもより早く高橋家を出た俺らだが、桃花ちゃんの希望でなぜか少し遠回りして登校していた。


今はその遠回りな散歩を終えて、ようやっと電車に乗り、学校の最寄り駅まで向かっているところである。


 ど田舎だからか、通勤ラッシュとまではいかなくても朝のこの時間から車内の席に座れるのは散歩してきた俺らの足にしばしの休息を与えてくれる。乗車している人は別に少なくないんだがな。


 そのため学校に早く着くこともなく、ただただいつもの日常に美少女とのお散歩が追加されただけとなった。


 俺、彼女いるのに何してんだろ......。悠莉ちゃんに見られたらやべぇのに。


 「そうかぁ。やっぱ地味......というより控えめな感じなんだ」

 「お兄さんは大人しそうな、清楚な感じの子が好きなんでしょ?」


 「ああ、うん、大好物には違いないんだけど」

 「“大好物”って言い方やめた方がいいよ」


 「そんな控えめな悠莉ちゃんとの距離感がわからなくて」

 「ああーなるほど」


 やべぇんだけど、悠莉ちゃんのことを少しでも知りたいという俺の邪な思いがこのような状況を作ってしまう。


 でもしょうがないことなんだ。悠莉ちゃんは「徐々に」って言って時間とともに俺との仲を深めようとしてくれてはいるけど、俺はその間が不安で不安でしょうがないのだ。


 だって俺が気づかずに、彼女に何か迷惑をかけたり、ストレスの原因になってしまったら距離が縮まるもんも縮まらない気がするんだよね。


 例えば意外にもアウトドア派の悠莉ちゃんだたとしたら、どこか遊びに出かければより仲良くなれるかもしれないけど、もし彼女がインドア派の場合、俺からのそんな誘いは迷惑以外のなにものでもない。


 とどの詰まり、悠莉ちゃんとの会話で何を口にしたら良いのか知りたいのだ。


 「あれ、お兄さんは百合川さんのこと“悠莉ちゃん”って呼んでいるよね」

 「ああ。本人には“百合川さん”って呼んでいるけど、他の人と話すときは彼女の下の名前で呼んでいる」


 「なんで使い分けているの」

 「いやだって下の名前で呼んで不快に思われたら嫌じゃん」


 「お兄さんたちは付き合っているんだよね?」

 「たぶん」

 「“たぶん”」


 そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。人生初の彼女なんだぞ。


 「でも私が彼女だったら彼氏からなんでもリードしてほしいなぁ」

 「“リード”って......例えば?」


 「手を繋いだりとか」

 「いやだから悠莉ちゃんはオラオラ系男子が苦手なんだって」


 「手を繋ぐだけでオラオラ系に入る?」

 「でもこの前は悠莉ちゃんの最寄り駅まで一緒に帰ったけど、最初の頃なんて誘っても“行けたら行く”で一緒にいられなかったし」

 「ねぇ、お兄さんたちは本当に付き合ってるの?」


 失礼な。最初の頃と比べるとかなり親密な関係になったと言っても過言じゃない。


 だってこの前連絡先交換したし、定期的に連絡もしている。まぁ、内容も“中村さんから何かありましたか?”の近況報告くらいだけど。


 それでも連絡取り合ってるからな! うん!


 これを桃花ちゃんに言ったらいじられるから言わないけど。


 「あ、そうだ。桃花ちゃんだから言うけどさ、陽菜が俺にある写真を送ってきたんだよ」

 「ああ、“下着姿”のやつ?」


 知ってたんかい。


 「なんであんな写真を......」

 「私が『送ったらお兄さんに振り向いてもらえるかも』って言ったからかな?」


 おめぇか。おめぇが陽菜にあんなことさせたのかよ。


 いや、結果的に連絡先交換が叶ったけどさ。要因が最悪だな。


 「そ、そうそれ。ちょうど悠莉ちゃんと居るときで彼女に見られたんだよ、その写真」

 「ああー、あのとき百合川さん教室にいなかったからね」

 「くそ。おかげで俺が浮気していると思われたじゃないか」

 「あはは」


 “あはは”じゃない。引っ叩くぞ。


 「うーん。陽菜に強く言うと何されるかわからないし、でもこのまま放っておくのも――」

 『右側のドアが開きます。ご注意ください』


 俺が言いかけたところでそんなアナウンスが車内に流れた。そして幾人か乗車し、ドアを再び閉じた電車は動き出した。


 当然、学校の最寄駅までそれの繰り返しだが、


 「あ、先輩」

 「あ、悠――百合川さん」


 なんと今の駅で悠莉ちゃんが乗ってきたのだ。ああー、そう言えば彼女んちの最寄り駅だったか。


 「やっほー。百合川さん」

 「っ?! 米倉さん?!」

 「あ」


 思わず間抜けな声が俺の口から漏れる。悠莉ちゃんが俺の隣の席にいる桃花ちゃんに気づいて驚いたがもう遅かった。


 ヤバい。陽菜との件も相まって俺が桃花ちゃんと居るところを見られたら―――


 「こんのク――先輩! どういうことか説明してください!」


 ですよね。


 ヤキモチ焼いているのかわからないけど、とりあえずその青筋を抑えてください。



*******

〜悠莉の視点〜

*******



 「こんのク――」


 駄目だ。女の子が“クソ野郎”って言っちゃ駄目だ。それも桃花ちゃんの前で。


 「先輩! どういうことか説明してください!」


 桃花ちゃんと相席とかケツの皮剥がしてやりてぇな、こんちくしょうが!


 「い、いや、これはね――」

 「お兄さんが悠莉のこと知りたいって――」

 「うおい! この裏切り者がッ!!」

 「ぐへッ?!」


 ちょ、先に大声出した私も悪いけど、一応電車の中だから騒がしくするなよ!


 というか、桃花ちゃんの胸倉掴むな!!


 私はそんな先輩を止めるべく、先輩の肩を掴んで私の方に向き直させた。


 「それより説明してくださいよ!」

 「ち、近いよ、悠莉ちゃん」

 「寝たんですか?! 男女が一緒に出勤とうこうって大人の世界では“HOTEL出勤”という意味ですよね?!」

 「遠い! その思い込みは真実から遠いよ!」


 ちょ、え、マジ? 陽菜ちゃんからは下着姿の写真を送られて、桃花ちゃんとは一緒に登校って......。


 彼女である私がいるんだぞ?


 詫びでち○こ切れ!!


 「まぁまぁ落ち着いて。お兄さんとは最寄り駅が一緒だからたまたま一緒に学校に向かっているだけだよ」

 「“たまたま”なんて信じられると?! 中村さんの下着姿がこの男に送り付けられたんですよ?!」

 「ああ、私が陽菜に送らせたヤツね」


 あんたはなんちゅうこと陽菜ちゃんにさせてんじゃぁぁぁあぁああぁああ!!


 「ちょ、私、この人の彼女ですよ?!」

 「ゆ、百合川さん落ち着いて。とりあえず俺の隣の席が空いているから座ろ?」

 「くっ。米倉さんの隣が空いてますので、そっちに座ります」

 「......ぐすん」


 ヤリ○ン野郎が涙を流しているが、そんなことどうでもいいので私はこれを機に桃花ちゃんの隣の席に座ることにした。


 ああ〜、桃花ちゃん、良い匂ーい。もっと近くでクンカクンカしたいなぁ。


 また近くの席にいた他の乗車客が私たちから離れていったことに気づいた。騒がしい私たちへの嫌悪感からか、将又はたまた修羅場と化したこの車内から離れたいためか......。


 とりあえず私達が座っている席の両端は他に誰も座っっていない。


 「百合川さん、言っておくけど私とお兄さんはただの知り合いだから別に心配するようなこと無いよ?」

 「本当ですか? セフレ的な間柄じゃなく?」

 「ちょ、直球だね。あと公共の場だから、ここ」


 すみません。でも私の彼氏(仮)はヤリ○ンだし。


 そんな疑いの眼差しを送る私に対して、ヤリ○ン野郎はというと、


 「百合川さん! 俺はちゃんと童貞だよ!!」

 「お兄さん。公共の場だから、ここ」


 はっ。嘘つくな。“ヤリ”○ン“と童貞”は相反するものなんだよ。


 しっかしこいつには困ったものだなぁ。陽菜ちゃんとの関係もまだ疑い深いし、今もこうして桃花ちゃんとの関係も怪しく思えてしまう。


 たしか中村さんも米倉さんも先輩と同じ中学校出身なんだっけ? だから桃花ちゃんの言った通り、お互い知り合い同士たまたま、そうたまたま学校に向かっているだけなのかもしれない。


 私がこうして冷静さを取り戻せたのも


 なにが問題無いかって言うと......


 「......。」

 「? 私の顔に何か付いてる?」


 “縮れ毛”の有無である。


 これがもし仮に、桃花ちゃんの口元に縮れ毛があれば私は筆箱に閉まっているコンパクトサイズの鋏でヤリ○ン野郎のヤリ○ン野郎をちょん切っていたことだろう。


 だって隣にいる女の口元に縮れ毛が付いていたら事後の証拠だから。ようなもんだから(意味深)。


 まぁ、こいつが息子の周りの毛を全剃りしていなければの話だがな。


 「はぁ......。もういいです。先輩、明日は私と一緒に登校しましょう」

 「え! いいの?!」


 私の急な提案に先輩は驚いて大声を出した。


 だって仕方ないじゃん。私が交際しているのは陽菜ちゃんと桃花ちゃんを危険な野獣から守るためなんだから。


 私は走行中の電車の中にも関わらず、立ち上がった先輩にこくりと頷いて返事をした。


 「下校も一緒、登校も一緒とか幸せすぎて天国に行っちゃいそう......」

 「学校と自宅を交互に直行するだけです」

 「お、お兄さんと百合川さんは付き合っているんだよね?」


 もちろんです。別れる前提の、ですがね。


 私は下校だけではなく、登校もヤリ○ン野郎と一緒になることに、内心ため息を吐いたのであった。


 

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