第349話 うわぁお。大丈夫?

 「あ、謎サンドにナポリタンが入ってます」

 「ダブル炭水化物......」

 「焼きそばパンみたいです......」 


 現在、紳士野郎は交際している彼女、百合川悠莉ちゃんと一緒に以前のように屋上で昼食を摂っている。


 またも神様が味方してくれたのか、屋上には俺ら以外誰も居ない。まぁ、さっきまで普通に雨降ってたしな。天が俺に味方し、晴れとはいかずとも曇りにまで天気を回復させてくれたのだ。


 雨が降っていたため地面が濡れていたので、俺たちは屋上にあるベンチの水滴を拭いてから使っている。


 「先輩の謎サンドは何が入ってました?」


 悠莉ちゃんが座高的に俺を上目遣いしながら聞いてくる。


 ああー、可愛い。抱きしめたい。揉みたい。


 セクハラは駄目って前から言ってるだろぉぉおぉおおぉぉおお!!


 揉みたいと思うなぁぁぁぁぁああぁぁああ!!!!


 クソ! 今朝オナ禁したからか?! セクハラの禁断症状がやべぇ。麻薬ヤクキメてる人ってこんな気分なのか......。


 「先輩?」

 「っ?! ご、ごめん。えっとね......」


 正気に戻った俺は改めて自分が購入した“謎サンド”に目をやった。この謎サンドとは我が校の購買部の売店で買った中身が日によって違うサンドイッチのことだ。


 悠莉ちゃんも謎サンドを選んだのだが、彼女のサンドイッチの中身にはナポリタンが入っていたらしい。不味くはないし、合うっちゃ合う気がするが、それでも博打なところがあるので謎サンドは口にするまで気が気でない。


 無論、そこを踏まえての謎サンドが人気メニューの理由となる。


 「あ、俺のは回鍋肉ホイコーロだ」

 「ほ、回鍋肉......」


 サンドイッチに回鍋肉入れんなよ......。何が入っているかわからないことをわかってて買った俺も俺だけどさ。


 「ふふ。変なサンドイッチですね」


 サンドイッチに回鍋肉入れて正解。彼女の笑顔が見れるんだったどんな珍しいものが入っていても褒めちゃう。


 「あ、そうだ。百合川さんにお願いがあったんだ」

 「?」


 俺はそういって胸ポケットからスマホを取り出して、彼女にL○NEを起動した画面を見せた。


 「遅くなってごめん。良かったら連絡先交換しない?」

 「っ?!」


 俺のその一言に酷く驚いた様子を見せる悠莉ちゃんである。そ、そんなに驚くことかな?


 彼女と付き合いだしてから早一週間。正直、進展らしい進展は何も無かった。これからゆっくりと仲良くなっていきたいというのが彼女の望みなので、俺はそれを踏まえて距離を一気に縮めすぎないよう気をつけている。


 でも連絡先くらいはいいだろう。お互い、いつでも連絡できる状態にしておくことは大切なことだと思うからだ。


 そんな思いで聞いた俺に対して、悠莉ちゃんはというと......


 「え、えっと......す、スマホ忘れちゃって」


 大丈夫。彼女は俺を避けてない。


 忘れただけ。悲観するな。偶々だ。


 「そ、そっか。あ、今日の放課後、良かったら一緒に帰らない?」

 「あ、その、放課後は..............................」


 ......。


 「............部活動体験する予定でして」


 間。


 この間よ。


 一瞬時が止まったのかと思ったわ。


 「「......。」」


 え、ちょ、避けてないよね? もしかしてもしかしなくても俺のこと避けてる?


 それとも距離縮めるの早すぎた? でも、連絡先くらい別に......。


 いや、これは俺の価値観か。彼女が待ってほしいというのなら1週間でも1ヶ月でも1年でも待とう。


 さすがに1ヶ月は俺が死にそうなるが......。とりあえず待とう。


 「せ、先輩?」

 「あ、いや、なんでもない。あはは。ちなみにどんな部活動の体験に行くの?」

 「え..................」


 ......。


 「........................将棋部、です」


 だから間。


 ちょ、そこは適当でもいいから部活の名前出してよ。


 時間止めれば止めるほど嘘だって勘繰っちゃうよ。


 「そ、そう。将棋好きなんだ」

 「は、はい。おそらく」


 駄目だ。この話題を続ければ続けるほど、彼女が嘘を吐いているとしか思えなくなる。“おそらく”ってなんだ。


 しかしそうか......。


 連絡先の交換もNG、放課後一緒に帰宅するのもNG。無論、キスも手を繋ぐこともNGの中のNGである。


 アイドルか。俺はアイドルと密かに交際しているのか。連絡先すら駄目はさすがに無いと思うが、それでもそんな気分だ。


 いや、実際アイドルみたいに可愛いよ。


 「その、すみません」

 「あ、あはは。なんで謝ってるのさ」


 謝るんだったらちょとくらい譲歩してほしいものだ。


 悠莉ちゃん、俺のこと本当に好きなのかな......。なんで告白してきたんだろう。そしてこんな勘繰ってしまう自分が情けない。人生初の彼女とどう接したらいいのかわからない。


 そんなことを考えていた俺に、


 「す、すみません! 私、教室戻りますね!」

 「え」


 悠莉ちゃんが昼食途中にこの場から去ろうと急に立ち上がった。


 「お昼ご馳走様でした! またお弁当作ってきますね!」

 「あ、ちょ――」

 『ピロン♪』


 と、こんな状況なのに空気が読めない俺のスマホは着信音を鳴らした。


 これにより、悠莉ちゃんは帰ろうとした足を一旦止め、俺のスマホが入っているであろう胸ポケットに目をやった。


 「ど、どうぞ」

 「あ、はい」


 あれ? 戻らないの?


 俺はとりあえずスマホを起動して受信した内容を確認した。


 「あ、陽菜からだ」

 「陽菜ちゃん?!」

 「うおッ?!」


 悠莉ちゃんはさっきまで帰ろうとしていたのに、俺が陽菜の名前を出した途端食いつくように急接近してきた。


 その際、立っていた彼女は座っている俺に対して手足を地面に着いて身を乗り出してきたので、未だかつて無いこの距離にドキドキしてしまう俺である。


 「ど、どうしたの?」

 「っ?! え、えっと、これは、その」


 我に返った彼女は今しがたした自分の奇行についてなんて説明しようか迷っている様だ。


 「こ、これはアレです。先輩が浮気してないか、チェックしようかと思いまして」

 「......。」


 放課後下校、連絡先交換、キス、手繋ぎ、どれもこれもNGだらけなのに、彼氏の浮気チェックだけはしたいらしい。


 浮気などしていないから別にスマホを見られようとかまわないけど......。


 付き合って間もない彼女から疑われるとか軽くショックだわ。


 「まぁ、別に何もないから見ていいけど」

 「ありがとうございます」


 もうこの子わかんない。


 とりあえず、俺は隣りにぴったりくっついて座る悠莉ちゃんを他所に、スマホの画面を見た。


 ......駄目だ。集中できん。こんなくっつく? 今までにないくらいくっついているよ? 残念なことに彼女の我儘サイズのおっぱいは押し付けられていないが、彼女の肩は俺の肩にぴったりとくっついている。


 残念がるな! 俺は紳士だろうーがッ!!


 「あの」

 「あ、ごめん」


 彼女は早くメッセージ見せろと催促するほど、陽菜と俺がどんなやりとりしているのか気になってしょうがないらしい。


 まぁ、そう思うのも仕方ないことか。陽菜は美少女だし、そんな子が彼氏とメッセージのやりとりをしていたら気になるよな。だから浮気チェックは仕方のないこと。


 むしろそれを確認したいくらい悠莉ちゃんは俺との交際を真面目に考えているんだ。


 そう捉えよう。


 俺はそう思い込んで陽菜からのメッセージを確認した。


 「っ?!」


 そして開いた口が塞がらないほど驚く。


 陽菜から送られてきたのは写真1枚だけ。たったそれだけだ。それだけで俺は――


 「ぐはぁぁぁぁあぁあぁあ!!」


 ......。


 勢いよすぎて地面にひたいを思いっきり打ち付けるくらい前屈みになってしまったのだ。


 そう、年頃の男の子が不可抗力とも言える前屈みになってしまうのは決まって一つしか理由が無い。


 「な、なんて写真を......」


 ―――だ。それ以外、男の子が前屈みになってしまう理由なんて無いのだ。


 陽菜から送られてきた写真は、背景はおそらく女子トイレの個室で撮ったものである。


 その個室の中に写っていた陽菜は―――なんと上半身下着姿だったのだ。


 いや、正確には制服の白シャツをはだけさせて、身に着けているブラジャーを見せつけるかのように......“ひっぱい”を見せつけるかのように、自分の顔を空いている片手で隠して撮って俺に送りつけてきたんだ!!


 下着は真っ黒な面積の少ないブラジャーである。


 いかにも貧乳にはブラなんて胸の支えになるもの要りませんと言わんばかりの、機能を発揮するよりも色気に特化したそんな下着だ。


 しかも凝視すれば若干透けて――


 「はッ?!」


 俺は何をしているんだ! 隣に悠莉ちゃんという彼女が居るだろ!


 悠莉ちゃんも俺と一緒にスマホの画面を見ていたので、当然彼女にどんな内容が陽菜から送られてきたかバレている。


 ま、マズい。誤解を解かねば。


 「ゆ、百合川さん、違うんだ!! これはアイツが勝手に――」

 『ブビッ』

 「“ぶび”?」


 “ブビッ”という、尋常ならざる音が悠莉ちゃんの方から聞こえたので、気になった俺は怖がりながらも彼女の顔を視界に入れた。


 彼女は――


 『ツー』

 「......え?」


 ――盛大に鼻血を垂れ流していたのであった。



――――――――――――――



ども! おてんと です。


お待たせしました(?)。次回は悠莉の視点です。


というより次から数回程、悠莉回となります。また最近の更新は大したセクハラができず、物足りなさを感じさせてしまい申し訳ありません。許してください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る