第312話 親が居ない日に好き勝手するのは当たり前
「高橋、邪魔しまーす」
「お疲れ様......って、もう20時じゃない」
「千沙、お先ありがと。次入ってきて」
「ええ、お風呂入ってきます」
あ、待って、俺も行く。や、いえ、やめます。
だから陽菜、そんな目で俺を睨まないで。なんですぐ俺の行動に気づくの。
現在、明日の直売店の支度の大半を終えた俺たちは、今度は南の家に戻って夕飯の準備に取り掛かろうとしていた。
無論、先程まで外や屋内で作業をして、少なからず身体全体汚れていたので、千沙以外の全員は入浴を済ませている。俺は東の家でシャワーを浴び、葵さんや陽菜はいつものように南の家で済ませたようだ。つまり後は千沙だけである。
「珍しいな、お前が他人を優先させるなんて」
「怒りますよ? 先程は袋詰めしかしませんでしたけど、労いの気持ちも込めて姉さんたちに譲ります」
「本音は?」
「私が先に入っちゃうとその後、二人がお風呂上がってくるまで待たないといけないじゃないですか。その間、夕飯の準備をしなかった私に『何しての?』とか思われたら困ります」
いや、お前が先に入っていようといまいと夕飯は作らせねーよ?
料理に関しては、“何もしない”が千沙にできる最大のお手伝いだからね。
「久しぶりに葵姉とお風呂入ったわ〜」
「ね。意外とこの歳になってもスペースあるとは思わなかったよ」
なんと。効率良く入浴を済ませるために陽菜と葵さんが一緒にお風呂に入ったのか。
入浴を済ませた二人は部屋着という薄着に加え、火照った様子はどこか色気を醸し出していた。またお風呂上がり直後特有の女性ものの洗髪剤やらコンディショナーやらで良い香りが漂ってきた。
中村家ご夫妻が居ない今ならもう襲って良いんじゃないかって思ってしまう自分が居るな。
まぁ、こんなこともあろうかとさっきの入浴で2発無駄撃ちしてきたがな。
HAHAHAHAHAHAHA!!!
「私も入れたかもしれませんね」
「さ、さすがに3人は無理よ」
ふむ、
口ではなんやかんや言っても和馬さんはダブルスタンダードだ。
どっちも揉みたいの一答である。だって陽菜がロリのくせに巨乳って違和感しかないでしょ。逆も然り。何事にも“適正”はあるってことさ。
「あんたなに想像してんのよ! この変態ッ!」
「え?」
「うわぁ」
「最低です」
陽菜が俺を叱り、葵さんと千沙は失望したと言わんばかりに呆れ顔で俺を見る。
あ。
駄目じゃないか、息子よ......。さっきケアしてあげたでしょ。
「ちょっ、見ないでくださいよ!」
「こっちのセリフよ!」
「ほんっと和馬君って隙あればすぐおっ勃てるよね」
「さっき風呂場でヌきましたよね? なんですぐ勃つんですか?」
俺も聞きたい。なんで女性の前で前屈みにならないといけないのか問い質したい。
って、おい!!
「「「なんで知ってんだよ(のよ)(の)?!」」」
「え、兄さんがお風呂に入っているときに、私も東の家に居ましたから」
「あ、千沙姉がヌいたんじゃないのね」
「陽菜......」
「だからなんでわかんのッ?!」
「イヤホンもせずに動画流してたら風呂場なんてよく響きますよ」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
そうだった! 千沙が居ないと思って油断してたわッ!
こいつ、あっちの家に居たのかよ。てっきり
「たしか......『うっ!......ふぅー。念のためもっかいイっとくか』って―――」
「やめろぉぉぉおおぉぉおぉぉお!!」
「お、おぉ」
「たとえ東の家に誰も居ないとしてもイヤホンくらいしなさいよ......」
ほんっとそれ! 今後気をつけるわ。
妹にAV動画鑑賞してたのバレるってどんなプレイだよ。
「あの喘ぎ声からして洋モノ―――」
「わかった! お兄ちゃんが悪かったから! なんか今度買ってあげるからもうやめて!」
「「......。」」
「わかりました。あとで欲しい物を考えておきます」
くそうくそう。
千沙は兄の醜態を特に気にせず、むしろ欲しい物を買ってもらえるという喜びで上機嫌だ。
お前は鬼か。この禰◯子がッ!!
他姉妹と違って気にしないのであればそれはそれでありがたいが、スルーされるのも異性としてちょっとどうなんだろうって感じ。
「さて、ゆっくり浸かってきますか」
「うぅ......」
「お、男なんだから泣くんじゃないわよ」
「い、以前、友達から聞いたんだけど、男性がそういうことするのって、ストレスが溜まったときに多いらしいね。その、連日仕事ばっかでごめん」
そういうのいらない。ほっとけ。
こうして妹に滅多打ちにされた兄はソファーに寝そべり、心身ともに疲労が蓄積されていったことを嘆くのであった。
そんな俺に対して、葵さんと陽菜はエプロンを身に着けるが、今一活気があるようには見えない。
「どうしました?」
「夕飯、夕飯、うーん、夕飯を作らないといけないんだけど、ちょっとね......」
「ええ。例えるなら新婚夫婦が良い献立を思いつかずに困ったときの気分だわ」
どんな例え? なんで新婚?
陽菜が言いたいことは、夕飯のメニューが思いつかないってことか。
「わ、私は違うよ?」
「あ、違うんですか。もしかして疲れているから料理する気が湧かないと? なら自分が――」
「いやいやいや! そうじゃなくてね! イカく――じゃなくて、とにかく和馬君はソファーで寛いで待ってて!」
今、絶対、「イカ臭い手で料理すんな」って言おうとしたよな。ちゃんと洗ったのに......。
これが我が手に存在しなくとも忌み嫌われる雑菌、“ざーじる”である。
シャンプーやボディーウォッシュと同じ見た目なのにね。違うのは、成分とニオイと粘り気くらいだし。
「ほら、両親が居ないじゃん?」
「なるほど。『ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?』的なアレですね。誘ってるんですね。わかります」
「わかってません。両親が居ないなら、普段と違う晩ご飯が用意できるかなって」
「なるほど。女体盛りですね。刺し身はありませんが、食事なんて二の次です。必要なのは女性の裸体と
「全然わかってません。つまりね、今までは両親が身体に悪いからって食べさせてくれなかったものが食べられる良い機会なんじゃないかなって」
「なるほど。それはもうザー◯ンですね。しかしアレは一見身体に悪そうに思えて、実のところタンパク質やアミノ酸が含まれています。ささ、どう――じょッ?!」
葵さんの主張を全く聞かなかったからか、陽菜が俺の脇腹に肘鉄を食らわしてきた。
冗談だよ、冗談。
「葵姉が言いたいことは、ピザやバーガーみたいなジャンクフードのデリバリーサービスを利用したいってこと?」
「そ! 偶にはよくない?!」
へぇー。葵さんでも年相応にジャンクフードの宅配を頼んで食べたいと思うんだ。
まぁ、雇い主ならともかく、あの真由美さんがそういうサービスを利用しなさそうだもんな。両親が居ない今晩は留守番する長女の独壇場だ。
「私は別にいいけど......。あんたは?」
「え、俺?」
俺の手じゃ料理を手伝わせてくれなさそうだし、料理を作れなんて言えない。三姉妹の意見に従うだけだ。
正直、葵さんたちと違って、一人暮らしみたいな生活を送っている俺はいつでもジャンクフードを食べられるので、普通に美少女が作った料理が食べたいな。全くもって贅沢な話である。
でも普段、葵さんにはお世話になっているから彼女の意見を尊重しないと。
「葵さんに賛成......かな?」
「あら、私たちが作るご飯は不満かしら?」
「まさか。両親が居ない今晩を思う存分楽しめる機会なんてそう多く無いだろ? なら好きなようにすればいいんじゃない?」
「ふーん? まぁ、そう言われるとそうね。偶にはいいかも」
ということで、さっそく俺たち3人は部屋の隅にある固定電話が置かれているところまで向かった。
無論、親が居ないこの日に限ってデリバリーサービスを利用したなんてあの二人に知られたら怒られるだろう。が、バレなければいいのだ。
「何がいい? やっぱ王道にピザ?」
「そうねぇ。1枚買ったら1枚無料のピザ屋で注文しましょ」
「あ、1枚のピザの中に4種類の味を楽しめるピザがありますよ」
こうしてスマホを片手にインターネットでメニューを調べながらピザを宅配で依頼し、娘たちは親が居ない夜を全力で楽しむのであった。
しかしこの後に、その場に居なかった次女が頬を膨らませて抗議の眼差しを俺らに向けてきた。曰く、「なんで私無しで勝手に決めるんですか!」や「“ピザ”?! なんてもったいない......。寿司でしょう、す・しぃ!!」とお怒りだった。
そんな次女が誰よりもピザを一番多く食べるのだが、それに対して俺らが文句を言わなかったのは暗黙の了解である。
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