第262話 葵の視点 なんか違う・・・
「よぉーし、今日もお仕事頑張るぞー!」
「はは、元気ですね」
「だって受験終わったばっかでなんか新鮮なんだもん!」
「では一緒に頑張りましょう」
天気は曇り。土曜日の今日は晴れやかな気分とは違って曇りである。まだ2月の下旬ということもあるから日中の今でも少し肌寒い。
でもそんな天気が気にならないくらい絶好調の私、中村 葵です。
私は大きく伸びをした。
「んんー! 身体が軽くなった感じ~」
「はは。遊びに行かないで家業とはさすがです。将来良いお嫁さんになれますよ」
「前も言ったけど、和馬君は眼中に無いからね?」
「一言もそんなこと言っていませんが」
ご、ごめんなさい。でもいつも言うじゃん。二言目にはセクハラプロポーズするじゃん。
その証拠と言わんばかりに、先程から私が肩を回したり、万歳をしたりして身体を動かしているんだけど、和馬君の視線が私の胸に..................いっていない?
「え?! 嘘?!」
「?」
「あ、いや、なんでもありません」
「はぁ」
いつもなら私のこの行動に対して舐め回すような視線を向けてくるのに、その視線を全然感じなかった。..................どういうこと?
彼、変態だよね?
というか、見られることをわかって私もするとか私の方が変態みたいじゃん!
違うからね?! 別に他意は無いからね?!
私は内心で自問自答を繰り返しながら畑に向かった。
「で、今日のお仕事はなんですか?」
「菜花の収穫だよ」
そう、私と和馬君が来たこの畑では菜花を育てている。菜花はもちろん食用で、花が咲く前の蕾状態の菜花を彼と収穫する予定だ。
彼にとっては初めての収穫なので先輩としてちゃんと教えないと。
先輩として!!
「では、菜花の収穫の仕方を教えます!」
「よろしくお願いします!」
「ふふ。先生と呼びなさい」
「葵先生!」
「すごく良い!」
とまぁ、年甲斐もなく馬鹿をしています。
..........うーん。なんか今日の和馬君変じゃない?
いつもなら私を先生扱いしてって言ったら、「保健体育の実習の指導をお願いします!」とか、「ハイレグハイヒール教師とかまさにメスじゃないですか!」とかいいそうなんだけど......。
私は一体何を考えているのだろう。
「菜花はね、食用として売りたいから花が咲いていない状態のヤツを、えーっと、このくらいの長さをできるだけ意識して鎌か鋏で切り取って」
「ほうほう」
私はそう言って試しに15センチ程の長さで収穫して、その菜花の2、3本彼に渡した。
「でもまったく咲いていない菜花だけだと収穫量が少なくなるから―――」
「花が1、2個くらい咲いていても勿体ないから収穫の対象とするんですね?」
「そうだよッ!! 先生の説明の最中に入ってこないでよ?!」
「そ、そこまで怒りますか..........」
これはさすがに和馬君がいけないと思います!
うん、今日の彼は変かと思ったけど普通みたい。私の勘違いだね。絶好調で先輩風邪魔してきたし。
「とまぁ、そんな感じで収穫をしてね?」
「はい。まずはこの一列を目標に収穫をします」
「うん。私も向かい側から収穫するから頑張ろ」
こうして私たちは菜花の収穫を始めたであった。
*****
「「.......。」」
収穫を続けること30程近く経つ。
おかしい。やっぱり今日の和馬君はおかしいよ!
何がおかしいかって?
「あ、鋏落としちゃった」
「はは。刃物は危ないんで気をつけてくださいよ」
コレッ!!
このなんとも言えない地味な紳士感!
そしてなにより違和感がぱないのが―――
「ああ~鋏どこだろ~」
「足下じゃないんですか? そんな見失うような物ではないと思いますけど」
コレッ!!
私が中腰の状態はいっつも私の胸を見てくるのに、今日は一切見てこないの!
変な言い方だけど、彼って私の胸が大好きだから揺れたり動いたりすると険しい目で見物してくるのに今日はそんな視線セクハラが一度も無い!
いや、変な言い方になっちゃったけど!!
「和馬君、しりとりでもしよ」
「いいですよ。りんご」
「ごま」
来い! お得意の‟ま〇こ”来い!! セクハラ来い!
「まん―――」
「っ?!」
来た! しりとり2ターン目でセクハラが―――
「―――とひひ」
「ヒヒッ!!」
「ど、どうしたんですか?」
「な、なんでもありません」
や、やっぱりおかしいよ。和馬君の皮を被った別の誰かのように思えてきた。
いやまだ2ターン目でからね? もう少し回数を重ねればきっと来るはず。
「私ね。ひじょうぐち」
「ち、ち、ち―――」
来るか?! ち〇こ?! ち〇び?! どっちでもいいけど、さすがにセクハラだよね?!
「チューリップ」
「ぷッ?!」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あはは」
「まぁ、‟ぷ”ってすぐ思いつきませんよね」
いえ、あなたがセクハラ以外の単語を連発するなんて思いもしませんでした。
こうして私は和馬君のセクハラ発言を誘うような単語を考えてしりとりをしばらく続けるのであった。
和馬君、一体どうしたって言うの..........。
*****
「収穫終わったー!」
「結構な量採れましたね?」
「ね」
菜花の収穫が終わったことに達成感でいっぱいの私たちは収穫した菜花を軽トラの荷台に運んでいる。
結局あのしりとりで和馬君の18禁ワードは一切出なかった。だから今日の私は一度も彼のセクハラを浴びていない。
いやまぁ、それは良いことなんだけど。
「ふー。もう受験勉強やらこの仕事やらで肩が凝っちゃったよ」
「自分が揉みましょうか?」
「へ、変態」
「あの、会話的に普通“肩”が対象じゃありません?」
た、たしかに。てっきり胸とかおっぱいとか言ってくるかと思い込んでいました。
「和馬君、最近何かあった?」
「そのセリフ、そっくりそのまま返したいんですけど」
「わ、私は別に良いの!」
思い返せば和馬君のセクハラを誘発したくて今日の私は変なことしたかも。
「なんというか、自分を見つめ直そうと思いまして」
「“見つめ直す”?」
「ええ。ご存じの通り、自分は交際経験が無いのですが、交際経験に至るまで何が必要なんだろう、と考えているんです」
ほうほう。意味がわかりませんね。
「自分は葵さんが好きです」
「っ?!」
急に何ッ?!
「でもそれはきっと容姿でしか判断していないことで、中身がアレだということを度外視しています」
「な、なるほど」
なるほどって言っちゃったけど、それ私のこと軽くディスっているよね。
私は彼の急な告白に一瞬赤面したものの、彼の二言目で冷静さを取り戻した。
ということは、彼は私の容姿以外の魅力を探そうとしてたってこと? だから今日は変にセクハラもエッチな視線も無かったの。
「外見で好きになることは駄目なことなの?」
「いえ、そういう訳じゃないと思うんですが、ほら、馬が合うと付き合いが長くなるじゃないですか」
「まぁ......ね。なに、付き合う前からずっと付き合いたいと考えているってこと?」
「普通じゃありません?」
「付き合ってみないとわからないことじゃない?」
「たしかにそうですけど、もし即別れたり、即愛想尽かされたら悲しくないですか?」
「ああー、かも」
「自分は一体何を基準にして葵さんの性格を好きになればいいんでしょう......」
いや、そんなこと本人に言われても......。別に好かれたい訳でもないし。
「じゃあシンプルに“一緒に居て楽しい”と思える人がいいんじゃない? 例えば私たち姉妹の中でその条件を満たす人を絞ってよ」
「陽菜、千沙、葵さんですね」
「ふふ、ありがと。じゃあ今度は“二人っきりになりたい”と思える人は?」
「千沙や葵さんですね」
陽菜消えた。
まぁ、千沙とはよく二人でゲームして遊んでいるもんね。私が残ってたけど触れないでおこう。
「学生生活とか、日常の中で“一緒に生活を送りたい”と思える人は?」
「葵さんですね」
ちょっと地味に告白みたいになっちゃってない?
ちなみにこの三つの質問は私なりに“空間”、“独占欲”、“時間”を意図しての内容である。思いつきでの質問なので深く考えていない。
つまり彼は私と居る空間が楽しいし、二人っきりにもなりたいし、ずっと居たいと思っている。すっごく恥ずかしい言い方になったけど。
改めてそう考えたら私は彼を意識して、また顔を赤くしてしまった。
「なるほど、つまり自分は葵さんが好きなんですか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! さっきのはただの一つの基準だから!」
「もぉー。じゃあどんな判断をすればいいんですかー」
なんか咄嗟に反発しちゃった。なんで私は彼が出した答えを否定したいんだろ。
そんなこんなで彼の恋愛相談を乗る交際経験0の中村家長女、葵は今日も今日とて先輩面をするために背伸びをするであった。
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