第十一章 先輩と後輩って知ってますか?
第261話 俺のモノは俺のモノ。だから陽菜のじゃない
「和馬、和馬!」
「はいはい、陽菜さんなんですか?」
「志望校に受かったわ!」
「くそぉぉおおおおぉおぉぉおおお!!」
「なんでッ?!」
いえ、なんとなく。
天気は晴れ。陽菜のおめでたい報告に相応しい天気でもある。そんな今日は平日で、放課後の今は高橋家にてバカ騒ぎしている。俺が帰宅した後すぐに陽菜が遊びに来たのだ。
そうか、陽菜、お前合格しちまったのか......。
「ちょっと! 春から美少女と同じ学校に通えるのよ?!」
「なんで一緒に登校する前提なんだよ」
「え、しないの?!」
「しません」
中村家とは家が近いし、最寄り駅も同じだから一緒に行けるけど、変にお前みたいな可愛い子と居たら彼女作りに支障をきたすかもしれないじゃん。
陽菜が通う高校は俺と同じく学々高等学校。俺が先輩、陽菜が後輩である。
「とりあえず落ち着け。座りなさい」
「あ、はい」
ちなみに午後5時過ぎということから陽菜は合格通知書を片手に制服姿でうちに駆けつけてきたのだ。マジ可愛いのなんの。
良かったら制服くれない? 言い値でいいからさ。もう要らないでしょ。中学校卒業してから使うのは男だけだよ。主に性処理としてだけど。
「あのね? 私みたいな可愛い子と一緒に登校できるなんて普通あり得ないのよ?」
「自分でそれ言う?」
「それにあんたみたいな男が私の近くに居れば他の男子が寄り付かないじゃない」
「俺を蚊取り線香みたいに言うな」
「ね? 付き合いましょ?」
「趣旨変わってんぞ」
めっちゃぐいぐい来るじゃん。どうしたの? 発情期? 人参あるけど使う?
正直、めっちゃ揺らいだ。特にお前の受験日のときのキスでコロッといきそうだった。お互い“諸々”は初めてが良いって目標もあったよ? でもそれが霞むくらい心臓が高鳴ったもん。
どれくらいかって言うと、パイルバンカーの衝撃を亀の頭に思いっきりくらったレベルだよ。
......死ぬなソレ。いや、不能か。
「前から思ってたんだけど、私のどこに不満があるのかしら? 言ったら直すし、尽くすわ」
「む―――」
「二文字目言ったら盛るから」
「ごめんなさい」
何を盛るの? 二つの意味があるよね、それ。
控えめな胸を盛るのか、俺に一服盛るのか。
どっちもやめた方が良いと思います。ええ、はい。
「......私に交際経験があるから?」
「え? ああ、そういえばそういうことを言ったっけな」
「で?」
「うーん。そりゃあ最初はお互い初心なのが理想だけど。もう高校生活も残すとこあと2年しかないからそんな贅沢言ってられないかも」
「じゃあ私でいいじゃない!」
「ええー」
「もうなんなのよッ! 引き千切ってホルマリン漬けにするわよ?!」
やめてください。
っていうか、ナニを? さっきから目的語を端折っているせいで遠回しにちゃんと伝わってくるんですけど。なんで18禁用語ってそういう効果あるのかね。
「まぁ、真面目な話、どっちにしろお断りします」
「なんで?!」
考えてみ? お前の姉、次女の千沙も俺のことラブなんだぞ?
俺を好いている姉妹のうち一人を選んで付き合うとか、どんな顔して中村家にバイトしに行けばいいの?
「色々とあるんだよ」
「好きな女子でも居るの?!」
「可愛ければ誰でも好きになると思う」
「う、うおぅ。ちょ、ちょっと引いたわ」
引くな。いやまぁ、無理もないか。
俺は軽く咳払いして話を続ける。その際、陽菜を落ち着かせるため、キッチンに行って温かいお茶を淹れる準備も行う。
「なんというかさ、俺って女の子を外見でしか判断していないんだよ」
「それも“愛の一種”じゃない」
「“愛の一種”......」
「なによ?」
よくそんな小っ恥ずかしいこと言えるよね。マジ尊敬しちゃう。
俺が彼女探しでここまで深く考えてしまうのは以前千沙と会話したことが原因だ。
女性に外見にしか魅力を感じない俺はきっと誰かと付き合っても長続きしない。彼女作ってイチャラブしたいって気持ちはあるんだけど、具体的な方法がわからない。
「付き合ってから好きになるかもよ?」
「なーんかそれは違うんだよなー。なんて言えばいいのかな」
「ほんっと面倒くさいわね」
ぐうの音も出ないね。
せっかく恋をするなら、できれば中身も含めて愛しぬける彼氏になりたい……的な?
うっわ、内心でも俺超恥ずかしいこと口走ってんな。
「なんか失敗が怖い......というか恋を絶対に成功させたい、みたいな?」
「一度きりの恋ってこと? なにそれ、おっも。あんたの玉袋みたいね」
ねぇ、その言い方は俺の玉袋見たことある言い方じゃない?
たしかに客観的に見れば俺の玉袋はレジ袋にカボチャを二つ詰め込んだように垂れ下がってパンパンの状態だよ。
ごめんね? 農家の娘を前にカボチャで粗末な表現して。
「俺は一体何がしたいんだろ......」
「私が聞きたいわ」
「話は聞いたわ! お母さんに任せなさい!」
「っ?!」
「あ、お義母様」
「久しぶりね。陽菜ちゃん」
なんか隣の部屋からいつ帰って来たかわからないババアが出てきたんですけど。いつから家に居たん? 少なくとも俺が家に帰ってきた後じゃないよな。玄関のドアを開け閉めした音が聞こえなかったもん。
「“話は聞いたわ”っていつから......」
「陽菜ちゃん、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
ああ、最初からね。息子からここまで殺意を抱かせる母親なんてそう居ないよ。
「和馬と同じ高校なのよね? これからもこのバカ息子をよろしく」
「ええ。任せてください」
「ついでに股にぶら下がっている息子もお願いね」
「もちのろんです」
ろんのがいです。
お母さんの手にあるその箱は何?
それ隠してた俺の未開封コンドーム箱じゃねーか。
なに陽菜は平気な顔で話しながらそれを自然に受け取ってんの? なんで安全ピンを片手に持っているの? 穴あけんなよ?
「せっかくだからお祝いでもしたいよね。ケーキ入刀とか」
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
「そんなまだ......。赤飯で留めておきましょう」
駄目だ、こいつら厄介な化学反応起こして全然手に負えない。
「まぁ、冗談はさておいて。できれば合格祝いに何かプレゼントをしたいわー。陽菜ちゃんは何か欲しいものある?」
「母子手帳ですね」
「あの、まだ童貞なんですけど」
“冗談はさておいて”ってそこのババアが言っていただろーが。
「で、本題に入るけど。和馬、あんたのその悩み、解決策があるわ」
「「おおー!」」
まさか母親からヒントを得られるなんて。伊達に人生の先輩じゃないな。日頃の駄目っぷりが霞むよ。
「あんたは日頃、女性のどの部分を見ているの?」
「え? 胸とか尻とか、露出している部分とかかな」
「あ、あの、今更なんですけど、おたくの息子さんは一体どんな育ち方をしたのでしょうか?」
遠距離口撃するのやめろ。地味に痛いだろ。正直に言っただけじゃん。
「それ! それがいけないの!」
「と、言いますと?」
お母さんはごほんと咳払いして、俺に指差す。
「常に日頃から外見だけを見ているから、中身を見ようとしないから迷っちゃうって言いたいのよ」
「っ?!」
「ああー、たしかに顔は“心情を物語っている”って言いますしね。そう言われると和馬は見ていないのかも」
た、たしかに!
「つまり、これの解決方法は......」
「「方法は?!」」
お母さんは指パッチンをしてキメ顔で宣言する。
「セクハラをやめなさい」
「「......。」」
なんか一周回って、そもそもを言われた感じ。
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