第260話 陽菜の視点 だから大好き

 「ちょ! これ何キロ?! 100キロは出ているんじゃない?!」

 「いや、50キロだッ! バイクは体感的に速く感じるからな!!」


 私は今、和馬と一緒に私の志望校である学々高等学校へ向かっている。


 サイドカー付きのバイクで。


 「お前は操縦しないで暇だろ?! 単語カードで復習でもしてろよ!」

 「そんな余裕ないわ! 事故りそうで怖い!」

 「事故るかッ!!」


 なぜかと言うと、私が受験生で今日が受験日当日だからだ。色々とあって遅刻確定の状況だったのだけれど、偶々居合わせた配達中の和馬が私を高校まで送ってくれるらしい。


 ありがたいことこの上ないわ。処女捧げたいくらい。


 「なんか全然知らない道通っているんですけど! 和馬は学々高校の場所知っているの?!」

 「ああ! この辺の土地勘はあるし、交通量も把握してるから裏道で行ってる!」


 「頼もしいわね!」

 「惚れたか?!」


 「ええ! 一億と二千年前からね!」

 「はっ倒すぞ?!」

 「なんでッ?!」


 なんで惚れたか聞いたのよ.....。


 ちなみにこのバイクは西園寺家が所有するバイクで、なんでも和馬が野菜を配達するためのバイクなんだとか。


 私はそのバイクのサイドカーに乗っているのだけれど、本来は野菜を置くために改造されているので人が座るには少しばかり居心地が悪い。贅沢を言っては駄目ね。


 そんな私たちは走行中ということからお互い大声を出して会話をしている。風切り音で聞こえないんだもの。


 「っていうか、あんたノーヘルじゃない?!」

 「お前が被ってるヤツしかねーからな」


 ちょうど赤信号に差し掛かった所で走行速度が落ちたことにより、大声を出す必要が無くなった私たちの声量は自然と落ち着いたものとなる。


 急いでいるときの赤信号は本当に長く感じるわ。


 「あ、あんた、事故したらどうするのよ.....」

 「だから事故らないように運転には気をつけるって」


 「かもしれない運転って知ってる?」

 「う、うるさい」


 「道路交通法違反じゃない。見つかったらどうするのよ」

 「.......減点程度で受験時間まで間に合うならかまわない」


 くっ! そこまで言われたらもう何も言えないわ! お股も濡れたわ!


 ああー、サイドカーじゃなくて和馬の後ろのシートに乗れば良かったー。


 「も、もう知らないんだからッ!」

 「おおー、貴重なツンデレだ.......」

 「ツンデレじゃないわよッ!!」


 再び信号が青になったことでバイクは発進した。元々田舎道ということから行交う自動車や歩道を歩く通行人は少ない。偶に時代錯誤なノーヘルの和馬を見て凝視する人が居るくらい。


 「今更だけどあんたバイトはいいの?!」

 「さっき達也さんに連絡したら『この不良め~』って笑われた!」

 「そ、そう」

 「だから今日だけバイトサボってノーヘルツーリングするんだ!」


 私がサイドカーに乗る際、配達する野菜は載っかっていなかった。きっと配達は既に終わっていたのだろう。


 「時間はどうだ?! もっと速度出した方がいいか?!」

 「これ以上出されたら私が死ぬ! 時間は平気よ! このまま行けば普通に間に合うわ!」

 「わかった!」


 そんなこんなで走行すること数分、またも赤信号で進行が阻まれた。私はパトロール中のパトカーや白バイが気になってしょうがない。


 もし見つかったら、ここまでしてくれた和馬に申し訳ないと感じてしまう。


 「もし、警察が居ても」

 「へ?」

 「とりあえずお前を届けてから捕まるから平気だぞ」

 「.......。」

 「だから心配すんな。陽菜は受験だけに集中していればいいから」


 ノーヘルだけが懸念される違反で、その違反は私を想ってのこと。その優しい気遣いが胸を締め付ける。


 普段、何度も好きと言っても振り返らない意中の相手。冷たくあしらってくれればいいのに、そうしない。


 曖昧な彼がこんなにも愛おしいと思ってしまう私は変な子なのかな。


 あ、そうだ。


 「よいしょっと!」

 「ちょ?! なんでこっちに来るんだよ?!」

 「サイドカーは居心地悪いわ」


 赤信号で停車していることを良いことに、私は荷物をサイドカーに置いて後部シートに移った。


 そして和馬に抱き着く。ぎゅっとね。


 「ふふふ。二人乗りって言ったらこれでしょ!」

 「あ、危ないって」

 「ノーヘルのあんたに言われたくないわ」


 ああー、最高! なにこれ、一生このままでいいわ。


 私、自分の胸には自信が無いのだけれど、こうして密着できるのなら大きさとか関係無いわよね。ノーブラで来れば良かったわ。


 そんなことを考えていたらいつの間にか信号は青になっていて走行が再開された。


 「和馬はズルいわよね」

 「ええ?! なんて言った?!」


 風切り音のおかげで私の愚痴こえは彼に届かない。


 私の身を包んでいる白いベンチコートも和馬から預かったものだ。曰く、走行中はクソ寒いから着ていろ、と。ベンチコートを着ていても足が露出していては寒くてしょうがない。


 それに和馬の匂いがするわ。とっても落ち着く匂い。......いや、興奮する匂いね。


 「って、和馬?! あんためっちゃ震えているじゃない?!」

 「い、今更だな」

 「てっきり私に抱き着かれて小刻みにアクメをキメているのかと」

 「お、お前は俺のことをなんだと思っているんだ......」


 変態キングオブ童貞。そんなこと口が裂けても言えないけど。


 っていうか、寒いなら私にベンチコート渡さなきゃいいのに。でも正直、あったかいし、良い匂いだし、ずっと着ていたいわね。


 「寒いならあんたがコレ着なさいよ!」

 「いいって。お前の身体の方が大切だろ。受験控えてんのわかってんのか」

 「で、でもッ!」

 「ああー! もううるさいな! それにお前が後ろから抱き着いてくるからポカポカするしこれでいいんだよ!」


 あ、そうなのね。じゃあもっと密着するように抱きつこ。


 まさか寒さに感謝する日が来るとは......。最高ね。


 「なんか夫に身を案じてもらっている妊婦さんの気分」

 「俺、まだ童貞なんですけど」

 「いつか奪うから」

 「ちょっと風切り音で何言ってるかわかんない」


 都合の良い耳ね。


 こうして私たちは目的地までイチャラブしながら向かったのであった。



*****



 「やっと着いたー」

 「ありがと! ここまで来れたらもう平気よ!」


 電車と違って待ち時間が無く、ほぼノンストップで来たので意外と早く到着できた。


 高校周辺に着いた私は支度を始めた。ハーフヘルメットを外したら前髪が凄いことになっていたわ。まだ時間には少しばかりの猶予があるから鏡見て直さないと。


 っていうか、このヘルメット変ね。なんかカブみたいに葉っぱが生えているんですけど。


 ちなみに、和馬がノーヘルだから校門真ん前まではいけないので、少し手前で止めてもらったのだ。


 「おう。じゃあ頑張れよ」

 「ええ、わかってるわ―――」

 「お、そこに居るのは高橋じゃないか」

 「「っ?!」」


 誰かと思って振り返ったらスーツ姿の男性が居た。誰だろ。‟高橋”って言ってたから和馬の知り合いかしら?


 「どうした? 今日は学校休みだぞ」

 「バイトです。先生こそ、こんな所でどうしたんですか?」


 「いや、試験日だろ? そこら辺に立って受験生に道案内をしていたんだ。今は戻っているところだが」

 「なるほど」


 「それよりちゃんと数学の宿題やっているのか?」

 「ああ、初日に全部終わらせました」


 「山田に見せるなよ?」

 「条件次第ですね」

 「お前.....」


 ‟数学の宿題”?


 そう言ってその男性はちょっとした看板を私たちに見せた。書かれていた文字は、“学々高等学校⇒”とあった。道案内ってことはこの学校の関係者? いや職員ってことよね。


 「‟先生”?」

 「っ?!」


 和馬があからさまにしまったという顔をする。


 ..................ふむ。和馬とこの職員のさっきのやり取りで大体わかったわ。


 っていうか確信したわ。


 「その子は......うちの受験生か?」

 「あ、はい」

 「なら早く行きなさい」


 志望校の先生に催促されては行くしかないわね。


 「え、えーっと、陽菜、頑張れよ」

 「和馬、ダメ元で聞くけどあんた高校どこ?」

 「............‟育々学園”」


 うっわ。私にバレてることもうわかってるくせにまだそんなことを.....。


 まぁ、そういうとこも好きなんだけど。


 「じゃあ私行ってくるわ」

 「おう、気をつけて―――」


 と、和馬が言いかけるが、今までのお礼を含めて私は自分より背丈が高い和馬の胸倉を掴んで引き寄せた。


 それでも届かないから私は背伸びして彼の顔に接近する。


 目的はたった一つ。


 「ん」

 「っ?!」


 この時が一番好き。ずっとシてたいって思ってしまう。


 でもそんな悠長なことは高校受験が待ってくれないし、和馬も許してくれない。


 だから私は数秒だけで我慢して彼を解放する。


 「お、お、おおおま―――」

 「騙した仕返しよ?」

 「うっ」


 そして数歩下がった私は舌なめずりして、片手でピースを彼にお見舞いする。


 「絶対合格するから覚悟しなさいよ! 和―――」

 「?」


 ‟和馬”と呼ぶより今は


 「ッ!!」

 「っ?!」


 よし! 合格できるように頑張るわよー!!


 こうして私、中村 陽菜は意中の相手とイチャラブ学園生活を送れるように全力で受験に挑むのであった!



***********

和馬おまけの視点~short ver.~

***********



 「す、すごいもん見た」

 「う、うるさいですね」


 そうじゃん、担任教師すぐそこに居るじゃん。


 先程まで騒がしくしていたポニ娘は受験するためにすぐそこの高校へと走っていった。


 陽菜にキスされるのはいつ以来だろう。ああー、ぷにぷにで柔らかかったぁ。


 これで堕ちない俺は本当に童貞なんだろうか。びっくりしちゃうよ。


 「はは。顔赤いぞ?」

 「きっと寒さによるものでしょう。バイク走らせてましたし」

 「ああ、さっきノーヘルだったもんな」


 マジかよ、見られてたのかよ。


 「通報しますか?」

 「証拠が無い」


 「あったらするんですね......」

 「まぁな。でもきっと必要なことだったのだろう?」


 「......さぁ?」

 「なら受験生を送ったパトカーみたいなもんだ」


 ああ、この人が担任教師で良かったぁ。


 「お前も意外と隅に置けないな」

 「独身教師がなんか言ってる」

 「なっ?! お、俺だって好きでこの歳まで―――」

 「はいはい」


 さてさて、ポニ娘はちゃんと試験に受かるんでしょうか。


 わからないけど、高校2年生になった俺の学生生活が騒がしくなるのは容易に想像できてしまいます。



――――――――――――



切り良く260話から新章いきたかった!!


ども! おてんと です。


次回閑話を挟みます。それで第十章はお終いですね。許してください。


閑話を担う女性の視点は............秘密です。


ですがとなります。


ちなみにこの日、2月14日(陽菜の受験後)の話となります。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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