第233話 誰だって得たものは失いたくない
「桃花ちゃん、実はその猫は飼い主が居るんだ」
『はははは! 当たり前じゃん! ドレス着た野良猫ってなに!』
「.......。」
ですよねー。
現在、俺は西園寺家と中村家でのアルバイトを終えて今は自宅に居る。
午前中に会長とゴロゴロ君のことに関して話していたからこうして桃花ちゃんに電話しているのだ。
『っていうかなんで隣のうちに私が居るのに電話してきたの?』
「え、夜遅いし、急に悪いかなって」
『じゃあベランダ行こ! そこなら電話しなくて済むでしょ!』
「俺は良いけど、寒くない?」
『ロロ抱っこしてくから平気!―――ブツッ』
急に電話切るなよ。夜なのに元気だね。
.....“ロロ”ってなんだろう。新手のホッカ〇ロかな。
桃花ちゃんはいつも通りお隣の佐藤さんちに泊まっている。だからこうしてお互いベランダに出れば比較的近場で面と向かって話せるのだ。
「お兄さん久しぶり!」
「おう。俺が居なくて寂しかったか?」
「そこそこ!」
そこそこ。異性に「全然」と言われるより却って傷つくヤツ。
上下スウェット姿の巨乳JCは時間が時間だからか、もう入浴は済ませてどこか艶っぽい雰囲気を醸し出している。
ムラムラさせんな。後で自家発電が捗るじゃねーか。ありがとう。
「じゃじゃーん! 先日からうちの家族になった白黒の猫、ロロちゃんでーす!」
「にゃー」
「.....。」
桃花ちゃんが抱えていた猫は案の定、西園寺 美咲さんのペットことゴロゴロ君である。
“にゃー”じゃねーよ。お前、美咲さんつう飼い主が居るだろ。なにごく自然とここの飼い猫ですって主張してんだ。
「ロロってその猫だよね?」
「うん! 毛皮が
「.....良い名前だな」
「でしょ!」
一瞬、ゴロゴロ君の“ロ”から取ってそう名付けたのかと思った。
ビビったわぁ。本名から一部抜粋して改名するとか罪重すぎるからね。まぁ、そもそも本名知らないよな。
「その猫な。もっかい言うけど、別に飼い主が居るんだ」
「へぇー」
「“へぇー”ってお前.....」
「私だって別に強制している訳じゃないんだよ?」
「首輪してんじゃん」
「まぁね。でもロロを外に出しても逃げないでそこに腰を下ろすんだ」
「ほぉ」
「信じてないでしょ?!」
いやだって、会長の部屋を脱走したんだぜ? 人に飼われるのが嫌だからじゃないの?
そう疑問に思った俺に遺憾な巨乳JCは宣言してきた。
「証拠みせてあげる! 家出て!」
「は?」
「ロロを外に置くから逃げるかどうかその目で確かめなよ!」
すごいな。飼って数日なのにこのペットへの熱い思いは。
俺は彼女に従って今度は玄関から家を出た。もちろん桃花ちゃんもロロ抱えて出てくる。
「寒いから手放したくないけど、ロロ、この童貞さんに私たちの絆を見せてあげて」
「おい、誰が童貞だこら」
「え、違うの?」
「.....。」
「違わないならツッコまなくていいから。寒いんだから手間取らせないでよ」
ディスられた俺が追い打ち食らうなんてあんまりじゃないか。くそぅ、無理にでも千沙とヤれば良かった。
桃花ちゃんは抱えていたロロを下ろした。
「さ、お好きな所へおゆき」
「にゃー」
「......。」
そしてロロ(ゴロゴロ君)は自由の身となって歩き始めた。
俺の方へ。
「お。もしかして俺の所が好きなのか」
「にゃー」
「よしよし。本当に人懐っこいヤツだな」
俺はロロ(ゴロゴロ君)の頭を撫でた。
だがそんなアニマルセラピーは束の間で、今度は俺に尻を向けて再び歩き始めた。
桃花ちゃんの方へ。
「よしよし。偉いね」
「.....マジか」
「ほら! 言ったでしょ?! もうロロはうちの子なんですー!」
巨乳JCはドヤ顔である。
おいおい。会長のとこへ戻した方がいいか考えていたが、この事実知ったら果たしてそれが本当に猫のためになるかわからなくなったぞ。
「っていうかさ、こんな人懐っこい猫が脱走するってことは前の飼い主が嫌だったんじゃないの?」
「にゃー」
「ほら、不気味なことに人語理解して相槌打ってくるし」
いや、マジ不気味だよ。会話の前後で本当に理解してそうで怖いわ。
「猫が人語わかるわけねーだろ」
「そうかな? ねね、ロロはなんで脱走したの? タバコでじゅーってやられた?」
「にゃー」
だから相槌すんな! 桃花ちゃんもなにとんでもない虐待発言してんだ。
「前の飼い主が居るってお兄さん言ってたけど、なんで知ってるの?」
「知り合いなんだよ。そのゴロ―――ロロの飼い主のな」
「私が飼い主だよッ!」
「はいはい」
このクソ猫の身の安全や居心地を考えると桃花ちゃんの方が適任なんじゃないかと思ってしまう。
でも会長もゴロゴロ君が居なくて寂しそうだし、このまま黙っとくのも可笑しい。
かといって素直に会長に言えば真っ先に飼い猫を拷問するだろう。そういう人だからな。伊達に誰かさんの腹筋にダイコンバットしてない。
「逆にお前は前の飼い主の気持ちを考えないの? 変な言い方するけど、飼い主だってその猫を離れ離れになりたくないかもしれないじゃん?」
「お兄さんがそう言うならそれが飼い主の人の気持ちだね」
「誰だってペットが可愛くて可愛くてしょうがないんだ」
「ふーん? その人、ロロのこと探してるんだ」
「.....ああ」
「なに今の間?!」
くっ。素直な性格が邪魔をして返答に渋ってしまった。痛いとこ突かれたな。
「え、なに? ペットが行方不明で心配で探してるんだよね?」
「も、もちろんさ。心配で空いた時間はペット探しをしている」
「なんで私の目を見て言わないの?!」
桃花ちゃんがロロを抱えて俺に怒鳴り散らす。
「この猫、最初見つけたときドレス着てたんだよ?! どんな趣味しているかわからないけど、少なくともロロは嫌がってたね!」
「そ、そこに関しては俺もどうかと思う」
「そういった嫌がらせが逃げてきた原因でしょ?! ならいいじゃん! 匿ってもいいじゃん!」
「で、でもな」
「それに虐待された痕があるし」
「え、マジ?!」
「ほら、お腹のとこに一定間隔で地肌から突起が」
それ乳首な。先天的な突起だから気にすんな。
ビビったわ。あの会長なら動物虐待とか普通にあり得るし。
「はぁ。もうロロに決めてもらいたいよ」
「そうだな。ロロのことなんだからできれば自ら決めてほしいよ」
「ちなみにその飼い主さんはロロを飼ってどれくらい?」
「うーん、まだ2カ月くらいかな」
「.....そう」
2カ月経って人に飼われることに嫌気が差したのか、再び自由の身になりたから脱走したくせにまた人の世話になってるし。
考えてもしょうがないな。猫は気分屋だ。
「それでも.....」
「?」
「それでも、もし本当にロロが大切なら面と向かって気持ちを聞きたい」
「.....。」
桃花ちゃんなりに思うところがあるのかもしれない。
先程のようにロロを手放しても逃げることはなく、むしろ彼女の所へちゃんと戻ってきた手前、元の飼い主にも愛らしい猫を大切に想う気持ちがあるなら無下にはできない。きっとそう思ったのだろう。
「あ、飼い主って言ってけど、お前も知ってると思うぞ」
「え、まさかの共通の知人?」
「そうそう。聞いて驚け。中学校の頃、生徒会長をしていた西園寺 美咲さんだ」
「え゛」
「西園寺 美咲さんだ」
桃花ちゃんが口をぽかんと開けてあほ面を晒す。どうやら驚愕の事実らしい。
「んごッ?!」
「‟んご”?」
「あ、ごめ」
そんでもって驚いた拍子に抱えていたロロを落としてしまった。猫にはあるまじき行為、着地失敗である。勢いよく背中から落下したため、猫とは思えないリアクションを見せた。
.....お前、猫だよな?
「そ、そっか、西園寺先輩かぁ」
「うん。桃花ちゃんが1年生のときだよね。あっちは覚えてるかわかんないけど、きっと今回の件は平和的に解決できるよ」
「.....。」
桃花ちゃんから返事が無い。
先程の反応からして会長を知らないということはないだろうが、どこか不都合でもあるのだろうか。
大丈夫、ちゃんと責任もってこの俺が事前に話をしておくから。
「お兄さん」
「はいはい、なんですか桃花さん」
「やっぱ無理」
「は?!」
さっきまでやっぱちゃんと事情を話した方が良いみたいな雰囲気だったじゃん。
「ど、どうしたん―――」
「わ、私、あの人苦手」
「.....。」
まぁ、万人はそうだよな。僕もその一人だよ。
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