第227話 千沙の視点 妹に違和感はつきものです

 「と、賭け事に勝てたのは良かったんですが」

 「普段、俺たち家事しないしね。いつもと変わんないよ」

 「「「......。」」」


 現在19時32分。私が目を覚ましてから30分程が経ちますね。


 無論、ちゃんと記憶も戻りました。美少女JK千沙ちゃんです。


 「葵姉の話では千沙姉記憶戻ったって言ってたじゃない」

 「嘘じゃないよ?! ね! 和馬君!」

 「え、ああ、はい。陽菜、たしかにあのときは以前の千沙だった」

 「また戻っちゃったのかしらぁ」

 「俺はそれで全然かまわないぞ」


 この父、耕しちゃ駄目ですかね?


 私が記憶を取り戻したなんて誰も知りませんし、私からバラす訳ありません。しばらくは付き合ってもらいましょう。


 「千沙、お兄ちゃんがわかるか?」

 「は、はい。わた―――ち、千沙のお兄ちゃん」

 「わたち?」

 「な、何でもありません」


 一人称に慣れなければ! SAN値がガンガン削られますよこれぇぇぇええ!


 「ち、千沙は一体何を.......」

 「ああ、お前の姉がやらかしたんだ」

 「ちょ! 私のせい?!」

 「二人共悪いわよぉ」

 「はぁ。まぁ無事みたいだし、とりあえずご飯にしましょう」

 「ああーお腹減ったぁ」


 バレないように適当に演技しておきましょう。



*****



 「さ! お兄ちゃん遊びましょう!」

 「あ、うん」


 私たちは夕食をとってからリビングで寛ぎます。もちろん姉さんと陽菜は受験勉強なのでここには居ません。お父さんも入浴中でいません。お母さんは夕飯で使った食器を洗っているので同じくここには居ません。


 「何する?」

 「ス〇ブラでもしましょう!」

 「え」


 あ。もしかして昔の千沙ちゃん、ゲーム機で遊ばない子でした?


 「お、おおおおま、お前やっぱ―――」

 「し、ししCMでやってたじゃないですか! うちに無いんですか?!」

 「え、あ、そういうことか」

 「はい! あれやりたいです! 欲しいです!」


 思わず逆ギレしてしまいました。でもこれで即バレ回避できましたよ。ギリセーフです。


 ああーでもそう考えると兄さんとできることが限られますね。


 「お、お兄ちゃんは逆に何したいですか?」

 「俺? 俺は.......まぁなんかいつもみたいにトランプとかオセロとかかな」


 うっわ。絶対テレビゲームの方が楽しいのに。昔の私は汚れてないですね~。


 同じオセロなら絶対オセ〇ニアが良いです。これじゃあ回復パ同士の戦いじゃないですか。


 「毎日同じことしてたら飽きます! もっと他に無いんですか?!」

 「お、怒るなよ。そうだなぁー。もう暗いから外でかけっこなんてできないし.....」

 「う、うぉえ」

 「急にどうした?!」


 い、いえ、ちょっと吐き気がしただけです。まさかこの歳でお外でかけっこなんて.........普通に黒歴史ですよ。


 「な、ならスマホのアプリで遊びたいです!」

 「どうしてもゲームしたいってか? らしくないぞ」

 「ギク」

 「?」

 「し、CMで色んな宣伝しているじゃないですか! 千沙もアレがしたいです!」


 まさか昔の私はスマホすら触っていないと言うのでしょうか。正気の沙汰じゃありませんよ。


 「そ、そう? 俺のスマホなんかで良ければ好きに使っていいけど」

 「モン〇トしましょう! 簡単ですし、あれなら初心者でも楽しめます!」

 「う、うん」


 本当はもっと違うゲームをしたいのですが仕方ありません。最初はこれくらいで我慢しましょう。


 「ほれ」


 兄さんが股を開いて手招きします。


 さ、最低です。妹でナニする気ですか。そこにストライクショットすればいいんですか?


 「えっと.....それはなんですか?」

 「いやいつもテレビとかゲームするとき俺の前に座るじゃん」

 「あ、ああ、そうでしたね」


 兄さんと密着した状態で遊んでたんですか?! 犯罪ですよ! お母さんたちが居たのになんで止めなかったんですか!


 バレたくないですし、従うしかないですね。それにこれはこれで最高です。


 私は兄の股ら辺に座り、スマホを手にします。一台のスマホで二人で遊ぶ。くふふ。


 ああー!! 兄さんが近い近い近い近い近い近い!!


 「やり方知ってる?」


 馬鹿にしてんですか。そんなこと言えないのが今のデメリットですね。


 「引っ張って離せばいいんですよね?」

 「そ。お手本見せるね。初めてでしょ」

 「要りません! さっそく遊びましょう!」

 「はは。せっかちだなぁ」


 この状況、思ったよりも良いですね。中身が小学生だから私が兄さんにべったりしても変に疑われないですし、邪魔されません。


 「お、上手いな」

 「ふふ。当然です!」

 「じゃあちょっと難しいクエストに挑戦するか」

 「どんとこいです!」

 「ちょっと待ってて。今モンスター編成するから」


 兄さんがスマホを片手に超絶クエストに挑戦するため、色々と下準備をしてくれています。


 「これと、これと、あとこれかな」

 「ボスの運〇作ったんですか?」


 「え? いや、まだだけど」

 「ならこの〇極クイバタ連れて行きましょう」


 「.....。」

 「あ、義勇当たったんですか?! ズルいです! コラボ限定キャラって全然当たらないんですよねー」


 兄さんとゲームしているからか、つい熱が入ってしまいます。ま、一人称とかお兄ちゃん呼びに気を付けていれば平気でしょう。


 私たちは時間を忘れてしばらスマホゲームを楽しみます。



*****



 「千沙、もうその辺にしなさいな。泣き虫さんは明日学校よぉ」

 「ええー」

 「ごめんな? また明日やろう」

 「本当に二人は仲良いよなぁ」


 時刻は22時を回ります。私が小学生だからか、寝る時間じゃないのにもう遊ばせてくれないなんて.........。デメリットですね、これは。


 兄さんがスマホを懐にしまいます。今日はこれでお開きですか.....。


 「それでは今日のところは失礼します」

 「「おやすみなさい」」

 「うぅ。まだ遊びたいですが、仕方ないですね」


 席を立った兄さんはそのまま玄関に向かいました。東の家にある寝床に向かうのでしょう。


 あ、ワンチャン今の私でしたら添い寝できるかもしれません。


 私はそのまま兄さんを送りに玄関までついて行きます。


 「わざわざここまで来なくてもいいよ。おやすみ」

 「あの.....千沙もお兄ちゃんの部屋に行っていいですか?」

 「え」


 兄さんの目が点になります。もちろん、リビングでテレビを視ている二人には聞こえない程度の声量です。


 「だ、駄目だよ。我慢しなさい」

 「.....そうですか」

 「なんだ、寂しいのか?」


 変に近すぎるとバレるかもしれませんね。今日のところは諦めましょう。


 「べ、別に。おやすみなさいです」

 「うん............ん」

 「?」

 「ほら、いつもの」

 「え」


 急に何をやっているのでしょうこの人は。兄さんは私の目の前で目を瞑って顔を少し近づけてきます。


 引っぱたけばいいんですかね?


 「いや、だからほら」

 「と、言いますと?」

 「え、今日はシてくれないの?」

 「な、何をですか?」


 今一要領を掴めません。何がしたいんですか。


 「何ってお前.....いつもシてるだよ」

 「なっ?!」


 小学生になんてことしてんですかぁぁぁぁあぁあああぁあぁあああ!!!


 「ん? どうした?」

 「い、いつもしてましたっけ?」

 「はは。変なこと聞くな。千沙からやってきたくせに」


 まさかの私から?!!


 そ、そこまで兄とイチャついていたなんて.....昔の私はアグレッシブですね。


 「もしかして.....」

 「い、いえ、シますよ! もちろんシます!」

 「おう」


 “おう”じゃないですよ!


 心の準備がぁ。以前、兄さんとは事故でキスしたことありますけど、今度は自分からだなんてハードル高すぎます!


 「ほらほら、早くぅー」

 「くっ。ええいままよ!」

 「っ?!」


 私は勢いと意地で兄さんにキスしました。


 バレないためです。そう、バレないため.....。


 「お、おまっ、なんでッ?!」

 「え? こ、これが日常なんですよね?」

 「あ、いやまぁ、そうだけど」


 なにテンパってんですか。こっちまで恥ずかしくなります。


 「お、おやすみ」

 「お、おやすみなさい」


 こうして私は無事バレることなく兄さんと別れました。これで明日も一緒に遊べるでしょう。我儘も言いたい放題です。


 ........バレてませんよね?

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