第225話 里芋と母娘は紙一重
「里芋ですか?」
「そ。外暗くて悪いけど小屋には明かりがあるし、そこでやってくれない?」
「千沙は自分に、仕事より遊びの付き添いを期待しています」
「私は和馬君に偶には仕事をしてもらいたいです」
「......。」
バイト野郎は早朝バイトを終えてから学校に通っていたが、今は中村家に戻ってきて千沙と遊ぼうとしていた。
しかし、ただ飯はさせないと言わんばかりに葵さんから仕事を任されてしまった。
「里芋って以前掘ったアレですよね」
「うん。まだ野菜保管庫にしまってあるから、商品にするために色々とやって欲しいことがあるんだ」
「なるほど」
時間は17時半過ぎ。中村家へ到着後、葵さんに里芋を綺麗にしてほしいと言われたら従うしかない。
俺はテキトーに着替えて葵さんについて行った。場所は屋内の作業場、広さ9畳くらいの小屋の中に俺たちは居る。
「まずは掘ったまま貯蔵された里芋を分解して」
「ほうほう」
「“親芋”から分解した“子芋”の方の毛を手で軽く
「ふむふむ」
掘ったままの里芋とはそのまんまの意味で土から収穫した際のままことである。
その里芋は真ん中に“親芋”と言われる食卓に出る一般的な里芋のサイズと比べて二回り程大きい物と、その親芋の半分下にデコボコくっついた“子芋”の集合体だ。
俺たちは普段この“子芋”の方を食べているのだ。
見た目キモい野菜ランキングで上位を争うだろう。親も子も毛が生えていているしな。
「親芋はまた来年使うから別に分けといて」
「了解です」
この集合体を分解して、毛を毟って、専用の機械で洗って、乾かして.........というのが一連の過程だ。
単純作業である。
「何か質問ある?」
「葵さんとエッチ......じゃなくて仕事したいです」
「質問を聞いたのにセクハラされたんですけど!」
「はは。
「え、あ、うん」
「親芋の毛は毟らずにそのままでいいってことですか?」
「来年植えるときには毛を毟るからいいよ。時間そんな無いし」
“子芋”を食べるのだから毛を毟るのは当然の事。“親芋”も食べられないことも無いのだが、葵さんが言ったようにまた来年子を産むために残さなければならない。
「なんか里芋って人間みたいですよね?」
「え?」
「いやほら、親芋が“母親”、子芋は“娘”とするなら人間が母を食べず、娘を食べるじゃないですか」
「ねぇそれ“食べる”って18禁的な意味だよね?!」
うむ。その“タべる”だね。
「母親はタべられるけど、やっぱり若い方が良いって言って娘をタべるんですよ」
「親芋を食べないのは別に若さで決めている訳じゃないから!」
「ええ。もちろん母親もヤれます。でも娘を煮るなり焼くなりしてヤった方が気持ち良いからです」
「言っちゃったよ! ギリギリ“タべる”でいけたのに“ヤる”って言っちゃったよ!」
今日も葵さんのツッコミは群を抜いている。疲れないのだろうか。誰のせいかと言われればバイト野郎以外に該当する奴なんていないが。
「なんで秒ですぐエッチな方へ走っちゃうの?!」
「
「誰も母娘丼なんて言ってないよ?!」
ふむ。でも母芋から娘芋を無理やり離して娘をタべるなんて行為、男子高校生の耳に入ったら母娘丼の想像はなんなくできる。
無論、母を食べずして娘だけをタべることは母娘丼と言わない。
「娘がタべられている場面を見ては母が黙っていません。娘を許し―――」
「『娘を許して! 代わりに私が相手するから!』って言いたいの?!」
「.........ええ。ですが、捕食者らは味変感覚で母にも手を出しますが―――」
「『やっぱ娘さんが一番ですね? おら! いつまで寝てんだ! 続きするぞ!』って抵抗なんて碌にできない娘を再びタべるんだ!」
ノリノリじゃん。俺ら以心伝心完璧ですよ。
「だから母娘丼になるんです。で、最後に娘が『お母さん助けて!』って叫びますが、決め台詞のように―――」
「『お前がママになるんだよ!』って?! 和馬君ってほんっと変態だよね?!」
「......。」
バイト野郎はここまで見事なブーメランを見たことがない。ブーメラン刺さってますよ? 大丈夫ですか?
「なんで里芋の仕事頼んだのにセクハラされてるんだろ、私......」
いや出だしは俺だったけど、後半ほとんどあんたが口走ってただろ。今回ばかしはバイト野郎はセクハラと言えるようなセクハラをしてないぞ。
セルフセクハラじゃないか。
「あの、仕事するんで帰ってくれません?」
「あれれ?! なんで被害者の私が引かれてるのかな?!」
「母娘丼なら真由美さんに許可を貰ってください。相手しますから」
「そんなことする娘なんていないよ!!」
さては葵さん......。受験勉強で溜まってるな? ナニがとは言わないけど、強いて言えばエッチな成分がね。
「じゃあ私は帰るから! 仕事頼んだよ!」
葵さんがぷんすか怒りながら外に出ようと出口へ向かった。
「はい。色々とありがとうございました」
「最低ッ!」
どいひー。ただお礼言っただけなのにね。
怒ったままの葵さんがドアノブを握った。
「夕飯の支度が出来たら呼ぶから! それまでは―――」
『ガッ!!』
「ちゃんと仕事.......して.........おいて......よね」
次第に声は勢いを失っていき、それと同時に葵さんの顔は真っ青だ。
何があったんだろう。バイト野郎が居る位置からじゃよく見えない。
でも音でわかった。身に覚えのある音だったからね。つい数日前にもバイト野郎もやったし。
「......葵さん、もしかして」
「和馬君」
俺は葵さんの所まで足を運んだ。
案の定、ドアが開かれた先には千沙が倒れていた。
まーじか。スパンみじけーよ。
「.....ドアノブ握ってくれない?」
加害者の続く言葉はまさかの罪のなすり付け。
ヤです。なにバイト野郎の指紋で上塗りしようとしてんですか。
「千沙! 大丈夫か!」
俺は馬鹿を無視して倒れた千沙の所まで駆けつけた。
「ごめんね! ほんとごめんね!」
「謝っている場合ですか! 早く真由美さんたちを呼んできてください!」
「う、うん! 行ってくる!」
「俺は人工呼吸をします!」
「やっぱ駄目! それ聞いたら行けなくなった!」
「応急処置ですよ?! 俺はイきたいんです!」
「倒れた妹にナニする気なの?!」
「神が俺に与えてくれたまたとないチャンスなんです!」
「いやいやいやいや! 妹を生オナホになんてさせないから!」
JKの口から生オナホとかパワーワード出てきたんですけど。
「じゃあ胸骨圧迫を開始します。千沙、服引ん剝くぞ」
「引ん剝く必要無いから! ちょっとふざけてないで―――」
「う、うぅ」
「「っ?!」」
馬鹿二人が騒がしくしていたからか、千沙から唸り声が聞こえた。
「大丈夫か?! お兄ちゃんがわかるかッ?!」
「安静にして! 無理に起きようとしないでッ!!」
必死になって千沙に大声で呼びかける馬鹿二人。
「い.....さん......」
「「いさん?」」
なんだ?! なんつってるんだ?! 全然聞き取れない!!
俺たちは千沙の口元に耳を近づけた。千沙はそんな俺たちを認識してか、続け様に口にする。
「兄......さん?」
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