第224話 相も変わらず2時になる電話コールPhone
『プルプルプル♪―――ピ』
「.....はい、もしもし2時に起こされて不機嫌な高橋です」
『おはこんばんは! 和馬、3時間後にバイトだ!』
「.....。」
マジでボイコットしたい。
なんだ“おはこんばんは”って。おはようとこんばんはの合体か。ふざけやがって。
天気は.........わかんねぇな。午前2時だから外は真っ暗だし。天気予報視てねーし。もうめんどくせーし。
「あのですね健さん、毎回言ってますけど、当日の3時間前はやめてください」
『んなこと言ったって、夜中につい目覚めちまったんだからしょうがねーだろ』
「ですから、そのちょっくらトイレに行くかぁ感覚で電話してこないでください」
『うちで働きたくないって言いてぇのか?!』
「会話が成り立ちませんね。陽子さんに代わってください」
『あいつぁ今寝てる。起こす訳にはいかないだろう』
いや、電話先の
「はぁ....永眠してくださいよ」
『あ! こら! お前なんつうこと言ってんだ?!』
「あ、すみません。つい心の声が....」
『くそ! 俺はお前のためと思って仕事頼んでるんだぞ!』
どこがだよ。俺のこと想ってるんならまず2時に電話すんな。
「5時ですね? 時間が惜しいんで寝ます」
『生意気な奴め! 永眠しろッ!』
永眠しろとか言ってくるバイト先に、無理してまで勤める必要性はバイト野郎にないんだぞ。
むしろそっちが
「ああー、はいはい。あまり興奮すると血圧上がりますよ。おやすみなさい」
『くそ! そのまま永眠しろッ! 童貞のまま永眠しろ―――ブツッ!』
半ば強引に切ってしまった。
どんだけ永眠させたいんだよ。しかも童貞のままって......。なんて恐ろしいこと口走ってんだあのクソ爺。
*****
『ピピピピピピピピ!』
「んあ?」
4時半に設定したスマホのアラーム機能がバイト野郎を起こす。
そうか。つい2、3時間ほど前に健さんからバイト依頼の電話が来てたんだ。
くっそ。いっつもいっつも夜中に叩き起こしやがって。
「ふぁあ~」
大きく欠伸をしてバイト野郎の一日が始まる。
「......あ、ここ中村家じゃん」
そうだ。東の家を使わせてもらっていたんだ。土曜日からずっとお世話になりぱなっしだな、俺。
「どーしよ」
バイト野郎が早朝バイトあるからって皆を叩き起こしていい理由にはならない。幸い作業着は自室にある。
東の家には俺しか居ないし、もうこのまま行くか。
まぁ、4時半の今じゃお腹空いてないから飯抜きだな。
「朝ご飯は結構ですって書置きでもしておくか? いや気づかないかも。起こしちゃうかもしれないけど陽菜にメールでもしておこう」
ごめんね、陽菜。
*****
「おはざまーす、高橋でーす」
「おう! 和馬! ちゃんと来たな!」
「達也さん、おたくのお父さんにもうちょっと言い聞かせてくれませんか?」
「ははは」
はははじゃねーよ。
バイト野郎は中村家で軽く支度をした後、西園寺家へ向かった。早朝バイトが終わったらこのまま自宅へ行って学校に向かう予定である。
真由美さんたちには事前に連絡もせずに悪いが、恨むなら西園寺家を恨んで欲しい。
「寒いですねー」
「ほれ」
「なんです? これ」
俺は達也さんから上に羽織るような白のベンチコートを受け取った。
「羽織ってみ」
「はぁ」
言われて俺はこのベンチコートを羽織ることにした。フード部分は緑色である。
緑色と白色をみるとどうしてもネギとか白菜とか大根を想像してしまうのは俺が農業でバイトしているからだろうか。
「お、サイズちょうどいいな」
「あの、いくら寒くてもこれじゃあ動きづらいですよ」
2色ベンチコートの裾は膝まである。これじゃあ野菜の収穫をする際に動きづらいし、ここまで長いと汚してしまいそうだ。
「ふっ。今日は和馬に配達をしてもらう!」
「な、なんですと?!」
どうやらこれを着て配達することが今日のバイトらしい。
正直、配達バイトには憧れていたので楽しみだった。
「んで、本来ならば配達する用の野菜を収穫してから出発してほしいが、今日は初めてだし、いきなり行ってこい」
「ってことは野菜は既にあるんですね?」
「おう! 和馬に行ってもらうのは3軒だ。詳細はこの紙に書いてある」
「了解しました!」
渡された紙には住所や簡易的な地図が記載されている。まぁ地元なんだし、ぱっと見でわかるような所だから苦労はしないだろう。
3軒回のうち2軒は飲食店で、残りは切り干し大根にしたいと言う方が居るので全部で3軒となる。
「おっと、ちゃんとヘルメット被れよ。ほら」
「あ、はい」
そして例のごとく“カブ”デザインのヘルメットを装着。
不満があるとすればこのダサいヘルメットと、“ヤサイおんじ君”とか意味わかんない塗装が施されたバイクだけである。
達也さんから一通り説明を聞いた後、バイト野郎は出発した。
*****
「あと一軒かぁ」
びっくりするほど順調に配達をこなしていくバイト野郎である。
サイドカーには最初30本近くあった大根も今ではもう半分以下である。キャベツももう5個しかない。配達する量と残りが一致しているため、残った全部を最後の一軒に持って行ってお終いだ。
ちなみに先程まで配っていた2軒は、達也さんに言われた通り店の裏に置いてきた。きっと時間帯的におそらくまだ活動していないのだろう。起こす訳にもいかないし。
「盗まれないといいけど」
そこだけが心配である。まぁ、早朝に店の裏に行って野菜を盗むとか考えにくいしな。
「お、ここが最後の所か」
そんなこと考えていたらいつの間にか最後の目的地に到着していた。
最後の一軒は飲食店と聞いていたんだけど、ここ、弁当屋じゃん。
「米倉.......LX」
とてもじゃないが弁当屋の看板には思えない。なんだ“LX”って。
つうか、米倉って桃花ちゃんの苗字も米倉だよね。まぁ、さすがにあの子の料理技術でそれは無いだろうからきっと別の米倉さんなんだろう。
親が放っておいていいレベルじゃないよアレ。
「あれ? 中が明るい。もしかしてもう活動しているのかな?」
今までのように店の裏に行って野菜を置かなくていいなら、一言挨拶して渡そう。
「おはようございます。野菜の配達でーす」
「え? あ、ああ、おはよう。野菜の配達?」
「はい。西園寺家の野菜です。自分はバイトで今日が配達初めてになります」
「ああ! いつもは達也君か健さんだからびっくりしちゃったよ」
「初めまして、高橋 和馬です」
「米倉
中に入ったらここの店主であろう40代半ばの男性と会った。米倉信也さんは私服姿にエプロンとマスクをしていたので、料理の下
「事前に達也さんから聞いてなかったんですか?」
「いや、まったく」
「....さいですか」
そういう大切なことはちゃんと言おうよ。
開店前の早朝なのにヤバい恰好の奴が来店してきたって思われるじゃん。アホみたいなヘルメット外すの忘れてたし。
「西園寺家でバイトってこと?」
「そうですね」
「農業に興味でもあるのかな? 珍しいね」
「よく言われます。まぁ、なんというかやりがいは感じますよ」
「だろーね」
米倉さんは俺を頭上からつま先まで軽く眺めてそう言った。.......恰好は関係無いですよ?
こんなカブヘルメットと2色ベンチコートなんかできれば身に着けたくなかったんですから。
「しっかし寒いねぇー」
「この時間帯は特に冷え込みますよね」
「本当だよ。身体がついていけない」
「こんなに朝早くから店の準備ですか?」
お弁当屋ってこんなに早く準備に取り掛からないといけないもんなの?
「ああ。うちは駅から近いでしょ? だから事前に昼食用にここで買っていくお客さんが多いんだ」
「なるほど。出勤の時間帯に合わせてってことですか」
「そ。6時に開店」
「あ、そろそろですね」
都会に働きに行く社会人にとってはありがたい時間帯だ。
俺も弁当ここで買おうかな。学校がある日は自分で弁当作んの面倒だし。
「ふぁあ~」
「眠そうですね?」
「娘が手伝ってくれたらもう少しゆっくり寝れるんだけどなぁ」
大丈夫。“娘”とかびっくり単語出てきたけど、世の米倉さんだったら娘の一人や二人は居るもんさ。
だから桃花ちゃんじゃない。大丈夫。
「良い匂い」
と不意に焼き魚の良い匂いがした。
奥で作ってるのかな? ああー、朝飯食ってないから腹減ったー。
「ああ、奥で妻が作ってるんだ」
「そうですか。ではお仕事の邪魔ですし、自分は失礼しま―――」
『ぐぅぅうううぅぅうぎゅるぎゅるぎゅるぐにゅうぅううぅ』
「―――すね」
「すごい音鳴ったけど大丈夫?!」
我ながらとんでもない音鳴ったな。腹下したかってくらい、軽く人間やめたような空腹の音だったわ。
「はは。実は朝ご飯食べてなかったので」
「あ、ああ。空腹とは思えない音だったけど、空腹なんだね」
「それでは失礼します」
「ちょっと待ってて」
え、帰りたいんですけど。
ああーでも、まだ6時ちょい前だから西園寺家に戻っても空腹は満たせないんだよな。
信也さんは俺に待ったをかけて奥の厨房に行ってしまった。俺は何をすればいいのかわからず、とりあえずただただそこに立ち尽くした。
「お待たせ。はい、これ」
「なんですか? 配達したお金なら月末に頂く予定ですけど」
「お弁当だよ。お弁当」
なんと?! 信也さんが持ってきてくれたこの包みに入った箱らしきものはお弁当箱なのか。
「い、いや、配達に来ただけですから。頂けませんよ」
「遠慮しないで。有り合わせのようなものだから大した物じゃない」
「そ、そんな」
「なんだ、もしかするとアレかい? 潔癖症かい? 人が手作りしたものは口に入れたくないとかかな?」
なんて意地悪なんだ。農業でバイトしている以上、潔癖症な訳ないことくらいわかっているはずなのに。
「頂きます」
「うん。今後もよろしくね」
「はい!」
それから俺はお弁当を頂いて米倉LXを後にした。
信也さん、俺の中で一番の優男ですよ。2時に起こされて
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