閑話 桃花の視点 首輪の無い猫は野良猫ですか?
「にゃー」
「え、なにこの猫」
私、米倉桃花は困惑している。
「野良猫? 首輪無いよね」
「にゃーお」
「それ返事?」
そんなことありえないけど。それくらい今の私は動揺しているのだ。
私の目の前に居るのは一匹の白黒の猫である。
今日は学校がお休みで、図書館で受験勉強と称してカフェで長時間寛いだ私だが、家に帰る途中でこの猫に遭遇してしまったのだ。
「うわ、こっち来た」
別に猫嫌いじゃない。むしろ大好きである。
ではなぜ驚いているのか。
尻尾が無いだとか、顔に傷があるとかじゃない。
「懐っこいなぁー」
「にゃー」
「......ねぇ。なんでドレス着てるの?」
目の前の猫は首輪は身に着けていないのにふりふりのドレスを着飾っていたからだ。
「ただいまー!」
「おかえり」
「外は寒かったろう?」
「うん、くそ寒かったぁ。.....ねぇ、しばらくの間猫飼ってもいい?」
「「?」」
私は学校から帰宅後、祖父母に先程の人懐っこい猫を飼っていいか聞いてみた。
「別にいいけど.....」
「世話はどうするんだい?」
「ちゃんとする!!」
私がそう言ったら二人は「いいよ」と許可をくれた。優しいお婆ちゃんとお爺ちゃんで良かった。
実家なら駄目って言われるよ、絶対。
「で、どんな猫だい?」
「この猫!」
先程、私はドレスを脱がした状態のこの猫を二人に見せた。
ドレスを剥いだ際、心なしかこの猫の表情が和らいだのは気のせいだろうか。
「野良猫ならやっぱり獣医さんに診てもらわないとねぇ」
「え、あ、うん」
元々飼い猫なんだから要らないよ、なんて言えない。
飼い猫を拾ってきましたとか論外だ。野良猫で通そう。
話は意外とスムーズに進んだ。急な話なのに二人はこれから何をしなければならないのかがわかっていたからだ。
それもそのはず、数年前までこの家では野良猫を一匹飼っていたのだ。その猫はもういないけど、首輪や未開封の猫砂などは残したままだ。思い出があるからか、中々処分できずに保管されている。
「桃花、明日検査してもらうから。今日のところは様子見しなさい」
「くれぐれも無理強いはせんように」
「はーい」
私は猫を連れて一先ず自室へ向かった。
「なんでドレス着てたの?」
「にゃー」
「首輪無かったけど、やっぱり飼い猫かな?」
「にゃー」
「でもうちに即居つくってことは完全に元居た場所に未練無いよね」
「うn......にゃー」
今、「うん」って言おうとしてなかった?
まぁ猫なんだしそんな訳ないか。
「うーん。やっぱり飼い主に返した方がいいかなぁ」
「にゃー」
「でも飼い主わかんないし。この猫から私にすり寄ってきたし」
「にゃー」
「ま、家から脱走してきたにせよ、追い出されたにせよ、うちに居たいからこうして私のベッドで寛いでいるんだよね?」
「にゃー」
そう。一々相槌を打つ摩訶不思議なこの猫は他人の家で落ち着かないなんてことは無く、平気で私のベッドで私の隣に居るのだ。
普通怖がったり警戒したりして隠れると思うんだけど、この猫はそんな危機感を持ち合わせていないらしい。
「今日は流石にキャットフード無いし、買いに行くのも面倒だからねこまんまでいい?」
「......。」
「あ、あれ?
どうやらねこまんまは好みじゃないみたいだ。
ちょっと図々しい猫である。
「わかった、わかった。スーパー行って猫缶でも買ってくるよ」
「にゃーお」
「......。」
人語わかんのかな。
私にはそう思えてしょうがない。
「あ、陽菜に写真撮って送ろ」
私はさっそくこの人懐っこい猫を何枚か写真に収めて、SNSで陽菜に送った。
緊張感が皆無なこの白黒猫は大きく口を開けて欠伸をしていた。
『パシャッ』
「可愛い~」
『パシャッ』
「.....。」
撮られるのが好きじゃないのかな?
なんか顔が笑ってないというか、無表情な感じである。さっき撫でたらゴロゴロと喉を鳴らしていたのに。
私は撮った写真を陽菜に送った。
『ピロン♪』
「返信早ぁー。どれどれ」
[あんた受験生よね?]
「.....。」
まぁ、そうなるよね。
「飼うことはつまり保護すること! 命を救うタイミングに受験は関係無いよ! っと」
私は言いながらそのメッセージを陽菜に送り返した。
[物は言いようね。責任持って飼いなさいよ]
「あんたは私のおかんか!!」
そんなことわかってる。
愛でる目的だけで猫を飼うのは無責任に繋がりやすい。猫と暮らしていくのに必要な環境、消耗品や検査に掛かる費用、ちゃんと躾けをするなど飼い主は覚悟しなければならない。
「ま、飼い猫攫ってきた私が言えたことじゃないけど」
「にゃー」
「ふふ。幸せにしてあげるー」
私は猫に頬擦りした。
ああー、ねこさいこー。
「あ、お兄さんにも報告しよ」
『ピロン♪』
「早っ。きっも(笑)」
いや、キモくはないけどつい条件反射で口に出てしまう。
[いいなぁ。俺もなんか飼いたい]
「はは。バイトで休日も忙しいお兄さんには難しいでしょ」
これからの冬休みとか長期間の休校はどうせ陽菜んちで住み込みバイトなんだろうし。
「お兄さんは何飼いたいの?っと」
『ピロン♪』
[従順なメス豚]
「......。」
もうこれ捕まるのも時間の問題でしょ。
「スクショ、スクショ」
『パシャッ』
今度のネタにしよう。
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