ハロウィン特別回!! コスってプレゼント? 略して――
『ガラガラガラガラ』
「高橋、お邪魔しまーす」
「「「トリックオアトリート(です)!!」」」
「うおッ?! びっくりした」
中村家の玄関の戸を開けたら、吸血鬼と魔女っ娘とフランケンシュタインが襲ってきた。
天気は晴れ。と言っても、日曜日の今は夜で10月31日である。
毎年この日は大都会で大騒ぎだ。あんな無法地帯と化すイベントなんてバイト野郎にとっては縁が無い話だと思っていたが、今夜はそうはいかないらしい。
そう、ハロウィンだ。
「すごく似合ってるよ」
「でしょ? 頑張った甲斐があったわ」
「ふふ。手作りですよ?」
「予め連絡したのに和馬君は何か仮装してこなかったの?」
「無茶言わないでください。30分前まで仕事してたんですよ」
バイト野郎はつい先ほどまでアルバイトをしていたので、事前にハロウィンパーティーを開催すると言われていても仮装なんてできないのだ。
「あの、真由美さんたちは?」
「今晩は近所の人とご飯食べてくるらしいよ」
「ママが若い子たちだけで楽しんでって気を遣ってくれたのよ」
「ちなみにお父さんにはこのことを知らせていないので気にしないでください」
たしかに、家の中をここまで改装しては流石にあの雇い主でも黙っていないだろう。
いつもの中村家の内装ではないのだ。壁にはハロウィンの飾りつけ、テーブルには豪華な料理がこれでもかってくらい盛り付けられいた。
伊達にバイト野郎にいつもより仕事を多く押し付けた訳ではないようだ。手が込んでるね。
葵さんと陽菜は15時には帰宅したからな。
「で、どうよ?」
陽菜が仮装した姿で片足を軸にしてくるりと回転して俺に魅せつけてきた。
同時に、陽菜特有の甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐる。
「何が?」
「何って。感想それだけかしら? こんな美少女が仮装したのよ? 『似合ってる』だけで済ませる気?」
ポニ娘はご機嫌斜めである。それもそのはず、彼女の手の込んだ衣装は誰がどう見てもあの“フランケンシュタイン”だからだ。
バイト野郎が素直に褒められないのは、このクオリティーは“リアリティー”を追求したというよりは“可愛さ”を圧倒的に追求したものだからだ。
「......似合ってるよ」
「なんでこっちを見て言わないのよ?」
「いや、本当に可愛いからもう許して」
「どういうこと?!」
だってお前、フランケンシュタインのジャケットの中、包帯で晒しを巻いているじゃん。厚く何重も巻いていても直視できないよ。
もしかしたら“二つの突起”が見えちゃうかもしれないじゃん。そしたら俺の突起物も出ちゃうよ。
「あ、もしかしてこのネジのクオリティーかしら? 安心なさい。カチューシャだからグロ系じゃないわ」
「え、あ、うん」
「貫通しているわけないじゃない。そんな痛いことしないわよ」
痛いで済む話なのだろうか。即死な気がする。
どっちかと言うと俺のネジを美少女の側頭部に貫通させたい。いや、貫通させたら元も子もない。口から喉奥までネジを突っ込みたい。
「あ! そうだ、今朝の“アオイクイズ”の罰ゲームをここで与えよう!」
「え゛」
なんか長女がとんでもないこと言ってきた。
葵さんの言う“アオイクイズ”は午前中の仕事のときにやったもので、バイト野郎は不正解して負けてしまったのだ。
故に罰ゲームを受けなければならない。
その際、葵さんは罰ゲームとして“30分の人間半裸ブリッジ椅子”を提案した。その名の通り、安定のキチガイさである。
「今からブリッジですか......」
「いーや! 安心して! ハロウィンで楽しめるように変更するから!」
おおー! なんとお優しい!
葵さんが少し離れたところからある物を持ってきて俺に渡してきた。
「はい!」
「? えーっと、これは......」
「トイレットペーパーだよ!」
「これで何しろと?」
「コスプレしてきて!」
「...........んん?」
「もちろん裸で!」
「......。」
ミイラになれってか。
結局あんたが楽しんでんじゃねーか。そんなに紙越しでもバイト野郎の筋肉見たいってか。この変態がッ。
「あ、葵姉、それはさすがに......」
「まぁ、兄さんだけ仮装してないのも変ですしね」
「“変”って言うか、紙だけは“変態”じゃないか」
こんなもん何重に巻いたって薄くて切れちゃいそうだわ。しかもシングル。せめてダブル寄越さんかい。
「いいから! 文句言わないって約束したじゃん!」
「......もしボロンしても文句言わないでくださいよ」
「そ、ソコは余分に巻いといて!!」
俺が大人しく従ったのは今後のアオイクイズで、葵さんが負けた場合に文句を言わせないようにするためだ。意趣返しが楽しみだね。
そんでもって今度の罰ゲームはとびきりヤラシイのにしてやる。
俺はトイレを借りて、何が楽しいのか独り坦々と全身にトイレットペーパーをくるくると巻き付けている。
「くそう、くそう」
冗談でもボロンはいけない。
ソコはもう何十回と巻かなければならないのだ。俺は文句を言いながらトイレットペーパーを無駄遣いしまくった。
「お待たせしました」
「「「っ?!」」」
三体のモンスター娘が驚愕する。
そりゃあそうだ。自分で言うのもなんだけど、目の間には全裸の上にトイレットペーパーしか巻き付けていないガチムチミイラが居るもんな。
おかげで動きにくいったらありゃしない。
「「「......。」」」
そんでもって俺の股間を凝視してくるんでけど。ちゃんとたくさん巻いたからナニは出てこないと思うし、平気だよ。
というか、形が浮き出ないように巻きすぎてオムツみたいになっちゃったよ。
「あの、あまりじろじろ見られると恥ずかしいのですが」
「ご、ごめんなさい! 罰与えといて言うのもアレだけど、本当にやるとは思ってなくて!」
「え、ええ。まぁでも、立派にミイラ男よ? 似合ってるわ」
「兄さん、ちゃんとソコがはみ出ないよう気をつけてくださいね」
よし、決めた。長女は後で絶対犯そう。
千沙はそんなミイラ男の前にやってきてコスプレした姿を魅せつけてきた。
「兄さん、私はどうですか?」
「可愛い。天使か?」
「ふふ。ハロウィンで天使はコスプレしませんよ」
千沙は魔女っ娘だ。そんな魔女っ娘を褒めていたら隣で陽菜が膨れっ面である。千沙は純粋に“可愛い”で、お前のは“エロカワ”なんだよ。でも、ありがとう。
なお、男児的には千沙のコスプレに物足りないと感じてしまうのは、彼女の胸元の露出の少なさが原因だろう。
陽菜と同じく片足を軸にくるりと回った千沙がダブルピースで宣言する。
「魔女っ娘☆千沙ちゃんです!」
「よく恥ずかし気もなく言えるな。とてもじゃないが同い年とは思えないよ」
「はは。魔女っ娘は女の子の永遠の憧れですから」
俺は葵さんと陽菜に目をやると、二人はぶんぶんと頭を横に振った。どうやら“永遠の憧れ”は千沙だけらしい。
しかし千沙の魔女っ娘姿もクオリティーが高い。肩幅以上あるとんがり帽子が特徴で、魔女の黒いコートの中には千沙にしては珍しい露出多めのミニスカである。
「本当は兄さんに魔法使いのコスプレをしてほしかったのですが......」
「やめろ。自虐じゃないが夢に出ちゃうぞ」
「いえ、ほら、このまま卒業できずに30歳を迎えたら魔法使いになれますし」
「すごいね。ハロウィンじゃなくても年がら年中仮装してるよ」
というか、それ仮装って言わない。ただのオナ歴30年の悲しいモンスターだ。
「わ、私はどうかな?」
「......今思ったんですけど、なんでマントで隠してるんですか?」
「え」
無論、葵さんもちゃんと仮装しているのだが、マントで首から下を隠しているのだ。
ぱっと見、頭のコスチュームで判断するならば吸血鬼である。
「吸血鬼ですよね?」
「う、うん」
「さすがに仮装姿見ないとなんとも......」
「そ、それがなんか恥ずかしくなっちゃって」
このミイラ野郎を前にして?
「姉さん、こういうのは引き延ばすほど余計恥ずかしくなるものですよ?」
「ええ。早く見せて、パーティーを開きましょ。お腹ペコペコだわ」
「うーん。そうだね。和馬君、笑わないでよ?」
「そんな変な衣装なんですか? まぁ、無理にとは言いませんが」
葵さんは決心したのか、片手で大袈裟にバサッとマントを広げた。
「っ?!」
「う、うぅ。トリックオアトリートぉ」
ばいんばいん。
何が? なんて野暮なことは言わない。上目遣いで恥ずかしそうに吸血鬼が潤んだ瞳で俺を睨んでくる。
まさか胸だけを隠す黒色のチューブトップでコスしてくるとは。
普段、
「あ、あんま見ないでよ」
「そんなの無理で―――」
『ブシュゥゥゥウウウ!!』
「ぐはぁぁぁあああ!!!」
「急にどうしたの?!」
ここでバイト野郎、勢いよく鼻血を噴出。理由は言わずもがな。
「ちょ、汚いですよ!」
「あ、トイレットペーパーが?!」
「か、和馬君! 早く止血しないと血で破れちゃうよ?!」
誰のせいだと思ってんだ。
「吸血鬼ですよね? 自分のココに鼻血を付けるのでしゃぶってくれませんか?」
「なにとんでもないセクハラしてんの?!」
「お金払うんで吸ってください」
「そういうことするために仮装したんじゃないけど!」
俺は左腕の
「お、おおー。予期せぬノースリーブミイラ男」
「言ってる場合じゃないわよ!」
「姉さん、マント借りますよ?! このままじゃ、血で破けるのも時間の問題です!」
「え、ちょ、きゃッ?!」
ぷるんぷるん。
千沙がマントを無理矢理剥いだので、またしても二つのカボチャをしまったチューブトップ山脈に地震が起こる。
『ブシッ!』
「くっ!」
当然、鼻血第二波も押し寄せてくる。ミイラ野郎は透かさずもう片方の腕の
「和馬! このティッシュも使いなさい! ―――きゃッ!」
「痛ッ?!」
「っ?!」
ミイラ野郎のためにティッシュを持ってきてくれたフランケンシュタイン娘は、俺から剥がれた
その際、ドミノ倒しのようにマントを抱えた魔女っ娘も倒れてくる。
「だ、大丈夫ですか?!」
「ご、ごめんなさい和馬!」
「あ、ああ、大丈―――っ?!」
――
『ビリッ』
「「っ?!」」
俺に乗っかったまま二人が驚く。
フランケンシュタイン娘の包帯晒しと魔女っ娘の生太ももという小ダメージと中ダメージの連続コンボに、さすがの多重オムツでも限界が来てしまったようだ。
『ビリビリ!』
「......魔法のステッキが出て来ちゃいそうだ」
「変態ッ! ミイラ男がなに変身しようとしてるんですか!!」
「“おっき”したら紙が破れるに決まってるじゃない!! ってか、先っちょなんか滲んでるわよ?!」
「わわわわ! どうしよ! どうしよ!」
ミイラ野郎、もう完全に露出狂と
プリ〇ュアもびっくりである。とてもじゃないが、日曜日の朝には放送できそうにない。
『ビリビリビリビリビリ!』
「でも手を離したら鼻血が......」
「じゃ、じゃあ私が下を押さえるわ!!」
「なに言ってるんですか?! ばっちいですよ! 私が押えます!」
「い、いや、ここは責任を持って私が......」
ハロウィンパーティーがいつまで経っても始まらない中村家は今宵も騒がしい。
トリックオアトリート。意味は直訳して「悪戯か、お菓子か」。
ミイラ野郎にとってはWで味わえて最高なハロウィンとなったのであった。
―――――――――――――――――――
トリックオアトリィィィトォォォ!
ども! おてんと です。
ハロウィンですが、私はこれと言って特に予定は無いですね。......ぐすん。
次回は月曜日ですね。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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