第192話 生命の誕生とキョウダイの誕生

 「えッ?! 妊娠したんですか?!」

 「そ。この前産婦人科に行ったらね」


 天気は晴れ。めでたいことを知った今日は最高に清々しい青空だ。日曜日の午前中、バイト野郎は西園寺家で働くのだが、バイト開始直前で凛さんから重大発表があった。


 「孫がぁ! 孫がついにぃ!!」

 「あんたいつまで泣いてるんだいッ! 孫がぁああ!」

 「母親おふくろ、うつってるうつってる。子ができたぞぉぉぉおおお!!!」


 あんたも伝播してんぞ。


 「おめでとうございます! いやぁーびっくりしたなぁ! 楽しみですね!!」

 「ありがとうな! 和馬とは会って2か月ちょっとだけど、できれば兄のような存在になってくれ!!」

 「それはいいね! よろしく、お兄ちゃん!」

 「自分なんかで良ければなりますよ!」


 マジかよ。そんなにバイト野郎のこと信用してくれてたのかよ。超嬉しいんですけど。


 「あ、それなら、もし生まれてくる子が男の子だったら“愛一郎”君になるんですよね?」

 「いや、それはちょっと........」

 「ああ、なんか息子を呼ぶ度に変態なお前がチラつきそうだからやめようと思う」


 さっき兄のような存在になってくれとか言ってたくせにね。なにこの言い様。


 「まぁ、妊娠から出産までどれほど大変かは兄弟が居ない自分じゃわかりませんが、仕事のことなら全力で手伝うんでお任せてください」

 「お、生意気言うようになったなぁー」

 「それは一人前の男の台詞セリフだ!」


 俺はコウ・ウ〇キか。


 「まぁまぁ。うちみたいな人数の少ない農家にとって彼はこれから頼りになるんだから。特に冬なんかはね」

 「そうそう。今までなら4人で回せたけど、冬は特に必要だからね。ありがたいことさ」


 女性陣二人は素直にバイト野郎を頼ってくれる模様。


 確かに微力かもしんないけど、一番は凛さんの身体のことを優先に考えなきゃいけないんだし、是非手伝わしていただきたいものだ。


 「和馬、頼りにしてるぞ!」

 「こちらこそよろしくお願いします!」


 ああー、女の子だったらどうしよう。とりあえず、成長したら16歳辺りで求婚しよう。


 なんか最近、可愛い子に囲まれた生活送ってんのに、カップルどころか童貞すら卒業できない自分の将来おさきが真っ暗な気がしてしょうがないんだよな。


 「ちなみに、もしお腹に居る子が女の子だったら?」

 「もちろん、求婚しま........あ」

 「和馬てめぇ!!」

 「ロリのコンなんてレベルじゃねーぞ!! ペドめ!」

 「見損なったよ和馬! 去勢するからチ〇コ出しな!」


 ヤだよ!! 絶対麻酔無しでガッとやるんでしょ?! いや、麻酔あろうが無かろうが出さんけど。


 「っていうか、凛さんのその聞き方は自分に言わせたようなもんじゃないですか!!」

 「凛は試したんだよ!」

 「まんまと引っかかりやがって!」

 「スコップでいいかい?! それとも鎌かい?!」


 一旦、去勢から離れろクソババア!! 冗談に決まってんだろ! 半分くらいだけどな!


 「皆して朝から騒がしいよ」

 「あ、会長」

 「おはよ、バイト君」

 「おはようございます」


 朝から近所迷惑な俺たちの所へ、何やら今から買い物でも行くかのような恰好の美咲さんが現れた。


 「何してるの?」

 「和馬はヘビー級のロリコンだってことが発覚したから制裁を加えるとこだ」

 「だから違いますって」


 「それはない。なんたってバイト君のチ〇ポは巨乳が好みだからね」

 「ああ、そういえば」

 「なんでそこで納得してるんですか」


 いや、助かったけど。


 会長はよく家族の前でも平気な顔してチ〇ポって言えるよね。それを指摘しない家族も家族だな。


 「あるとするならワタシや凛さんみたいな巨乳美人を狙うはず」

 「きゃぁずまぁぁぁあああ!!」

 「もうヤだぁ」


 この人は俺を助けるために家から出てきたんじゃないのかよ。NTRはアウトだよ。いや、ペドも充分アウトだけどさ。


 つか、事実でも自分で巨乳美人って言うな。恥ずかしくないんか。


 「で、美咲はこんな朝早くからどこいくのさ」

 「ああ、ベビー〇らスにね」


 あんた、母親じゃねーだろ。


 「み、美咲、それは流石に早すぎだ」

 「そう?」

 「気持ちは嬉しいけど、少し落ち着こう?」


 よく平常心保ててるなって思ってたけど、この人が一番浮足立ってたわ。


 「なんだ、せっかくバイト君を荷物持ちにしようかと思ってたのに」

 「自分はこれからバイトですよ」

 「お、美咲ちゃんからデートのお誘い?」

 「ヒューヒュー!!」

 「孫が二人目ッ!」

 「いや、あんた気が早すぎんでしょ」

 「全員処すからそこに並んで」


 俺も?


 こうして朝からバカ騒ぎした俺たちは少ししてから仕事を開始することとなった。







 「え、トマト畑片付けちゃんですか?」

 「おう。もう時期だしな」

 「維持するよりは次の仕事に専念しようってなってね」


 俺と達也さん、凛さんのいつものメンツで仕事をし始めた。内容はハウスの中のトマト畑の片付けである。


 「ほら、端の方からだんだん枯れて来てんだろ?」

 「ああー、たしかに」

 「ちなみに次の作物はキャベツだよ」


 お、キャベツか。中村家でもキャベツを栽培するらしいが、あっちは多品種少量生産だからな。その分、各作物を栽培している畑は小規模だ。


 当然、西園寺家の方がキャベツを集中的に栽培しているため、キャベツ畑の規模はデカい。


 「じゃあ、これから自分はキャベツ畑で働くんですか」

 「ああ。人数が必要だからな。頼むぞ」

 「キャベツの栽培って人数が必要なんだよねー。うちは少ないから頼りにしてる」


 二人にこんなにも頼られてるんだ。全力で頑張ろう。


 「ところで、凛さん。今は普通に仕事してますけど、来年から仕事をしませんよね?」

 「心配しすぎー」

 「ははははは! まぁ、こればかりは初めてのことだからな。念には念を入れるが、お腹が大きくなってきたら控えてもらおうと思ってる」


 あんま詳しくないから良くわからないけど、凛さんが言うには妊娠から10か月程で出産らしいから、その半分辺りの時期にはもう目に見えてわかるくらいお腹は膨むらしいとのこと。


 「二人目もちゃんと孕ますからな!」

 「もうっ、達也ったら! あっ君の前でやめてよ!」


 秒でイチャつきやがって。耕すぞ。


 でも、めでたいことだから許す。


 「じゃあ、今日の仕事はトマトの片付けですね?」

 「ああ。まずはこのピンを外してだな―――」


 こうして、ようやくバイト野郎と新婚夫婦はトマトを片付け始めたのだ。


 作業を開始すること1時間が経った頃、


 「あ、会長」

 「ん。ワタシも仕事を手伝おうかなって」


 トマト畑に会長こと美咲さんが現れた。


 「おいおい。どういう風の吹き回しだ?」

 「美咲ちゃんは優しいなぁ」

 「別に」


 ははーん。この照れ顔、さては会長、凛さんのことを案じて今後のためにも今から手伝いに来た訳か。


 「「「やっさすぃ~」」」


 俺たち三人はそんな優しい会長をからかった。


 「.....やっぱ帰る」

 「嘘ですよ! 手伝ってください!」

 「はははは! それでこそ俺の妹だ!」

 「私は果報者だぁ.....ひっぐ.....ううっ」


 泣くほど嬉しいんですか。


 こうして、素直ではない会長に手伝ってもらいながら、4人で仕事をどんどん進めていった。


 「珍しいこともあるもんだなぁ。明日は槍が降ってくるかも」

 「何か言ったかい?」


 「いえ、なんでも」

 「.....。」


 「っていうか、ここら辺は自分がやるんで他行ってくださいよ。手分けして仕事した方が効率良いですって」

 「君、昼飯抜きね」


 え、ええー。


 全くもって理不尽極まりないと感じたバイト野郎であった。

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