第151話 猫の前でも猫を被る猫みたいな人
「早朝バイトがあったからか、時間に余裕があるな」
今日は晴れ。と言っても先程、西園寺家で早朝バイトをしてきた。俺は7時で上がったので、帰ってきたから登校時間まで少しの間退屈でしょうがない。
「飯も食ったし、シャワーも浴びたし、二度目するような眠気もこないし」
さて、何しようか。部活をやっている訳でもないのでバイト野郎に朝練など無い。
「仕方ない。少し早いけど学校に行くか」
俺はそう決意し、軽く支度してから学校に向かった。
「あ、生徒会長」
「ん? バイト君じゃないか」
最寄り駅付近まで行ったら会長さんが頭上少しの所に居る猫に構ってた。猫は白と黒の毛皮の野良猫っぽい。
「こんなところで何してるんですか?」
「見ての通り猫と戯れてる」
「.....。」
さっきこの人んちで会ったときに、会長さんは「生徒会長は生徒の模範」って言ってなかったっけ? なんでここで時間を潰してんの?
「あのですね。生徒会長として責務とか自覚とか無いんですか?」
「微塵も」
即答。
「生徒と戯れるより、猫の方が楽しい」
中々「生徒と戯れる」って聞かないな。もうこの人が言う生徒が下等生物に思えてしょうがない。
「はぁ。じゃ、失礼します」
「いや、君も少しこの猫と遊んだほうが良い」
「は?」
「猫嫌い?」
何言ってんの? いや、猫は嫌いじゃないけどさ。
「まだ時間はあるじゃないか。遅刻間際を狙えばまだ電車に余裕はある」
「いや、生徒会長がギリギリを狙ってどうするんですか」
「猫って可愛いよね」
返答になってないし。嫌なら付き合う必要は無いのだが、会長の言う通り、時間にはまだ余裕がある。少しくらい良いだろう。
それに会長が夢中になっている猫に興味があるし。
「人懐っこいですね」
「誰かに餌付けでもされてたんじゃないかな?」
「たしかに。野良猫の割には太っている気がします」
俺は上に居座る猫にそっと手を差し伸べた。最初は俺のイカ臭い手をクンクンして、その後猫自ら頭に俺の手を乗せた。“イカ臭い手”は余計か。朝シコってねーし。
あ! 時間があれば自家発電しとけば良かった! やっぱ、“早寝早起き一ヌき”でしょ。
「ま、放課後に猫缶与えてるんだし、これくらい愛想良くないとね」
「なんでさっき『誰かに餌付けされてる』とか自分で言ってたんですか.....」
「この太り方はワタシのだけじゃないよ」
「ああー、そう言われるとたしかに」
「でしょ。こんなにお腹が垂れ下がっちゃってさ。醜いメス豚って感じ」
「猫捕まえてメス豚って........」
なんか会長と会話ができるって新鮮。いつもこれくらいだと助かるんだけどな。
「でも.....可愛い」
「.....そうですね」
少し溜めて可愛いと微笑んで言う会長はとっても綺麗だ。普段の中身がアレだから美人という魅力に気づけなかったよ。
「ゴロゴロ鳴ってる」
「ワタシの愛撫が気持ち良いんだろう」
どうしても俺が「愛撫」って聞くとエッチな方を想像しちゃう。いや、もうそのワードは世間一般的にそっち系で用いられることが多い気がする。
「猫は気楽で良いよね」
「こんなことしてる会長が何を言うんですか」
「はは。ぐうの音も出ないよ」
か、会長がそんなこと言うなんて思わなかった.....。
「寝ることが仕事なんて羨ましい」
「野良猫だって必死に生きてるんですよ」
「そうかな? 人間に媚びれば餌をくれるんだ。食いっぱぐれないだろう?」
「それでも、温室育ちの人間とは違って外敵がいます。他の動物、病気、害虫とか」
「ふーん」
視線が猫にばっかいっていた会長が今度は俺の方を見て相槌を打つ。バイト野郎が偉そうに語ってるが、たぶん猫も大変なんだろう。この猫からはそんな様子は見受けられないが。
「そう考えると、作物も同じ感じですね」
「......。」
「まだ5か月くらいしかバイトしてませんが、野菜も害獣、害虫、病気に気を付けなければなりませんし。あとは天候もか」
バイトのせいかな。つい、こんな思考をしてしまう。
でも、人がきちんと管理がしなければ完成度の高い農作物なんて存在しない気がする。
「それを言うなら人間もだ」
「?」
「他人の顔色を窺い、“社会”という枷に一生縛られ、逃れられない老衰や病気等で死ぬ」
「.....。」
「温室育ちとは言え、他者とのコミュニケーションが取れるとは言え、猫と同じに思えてこないかい?」
「そうかも.....しれませんね」
テキトーに同意してみましたけど、すみません、ちょっと何言ってるかよくわかりません。
「そろそろ学校に行きま―――」
「詰まる所、ワタシはそれらの面倒ごとなんか気にせず、ぐうたらしている猫になりたい」
「へ?」
そりゃあ俺だって猫になりたいわ。ただそこに居座っていれば、ローアングルで世の女性のスカートの中を拝み放題だぞ。
加えて、舐めようがタッチしようが通報されないし、むしろあっちからお触りしてくれるんだ。ズルいよなぁ。
「『猫を被る』という言葉がある。猫の毛皮を剥いで被れば、ワタシも猫になれるかな」
「サイコパスか。そんな物理的な意味じゃないですよ」
「ツッコミがなってないな。そこは『この猫一匹の毛皮なんかじゃ、人一人分纏えない』って言わなきゃ」
「“この猫”が対象だったんですか。愛でといてそれはもうマジでサイコパスとしか感想が出ません」
ヤベー奴じゃん、このJK。こんな愛らしい生き物見てその発想は怖いわ。
「さて、そろそろ学校に行こうか」
「そうですね」
スマホの時間を見ると、ちょうどいい時間帯だった。
「何を言ってるんだい。君はもう少し遅れて来なよ」
「?」
「バイト君と一緒に登校したら変な噂が立つかもしれないじゃないか」
保身か。まぁ、生徒会長だもんな。でも俺は遅刻する気なんて毛頭ない。だってここは田舎だぞ? 次の電車がいつ来ると思ってんだ。
「あ、じゃあ電車は別の車両に乗りますよ。あっちの駅に着いても話しかけません」
「......ふーん」
会長はその言葉を最後に、未だ寝転がっている猫をぽんぽんと軽く撫でて、すぐそこの駅へ向かった。
「ほんっと変わった人だなぁ」
俺も会長の後を追うように改札口を通って電車に乗る。乗った車両にはちらほら俺と同じ制服の高校生が居た。皆この時間帯なのね。
というか、会長と別の車両に乗らないといけないのに、会長が乗る車両を聞いてないや。
「他にも車両はあるし、そう同じ所には―――」
「バイト君」
「あ、会長」
―――――――――――――――――
ども! おてんと です。
会長が出てくると一人称表記『ワタシ』という設定なのに、ちょくちょく『私』とタイプミスをしてしまいます。許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます