第149話 清掃員・山田君

 「おはよ、裕二ゆうじ

 「おう......はぁ」

 「どうした?」


 今日は晴れ。昨日は一日中雨が降っていたが、今日は嘘のようなクソ暑い晴れである。平日は学校なのでバイト野郎はここ、学々高校に居る。


 そんな暑い中でもいつも明るい山田はなぜか元気がない。どうしたんだろうか。


 「いやね。朝練行こうとしたら顧問に、『お前は今日から一週間清掃員だ』って言われて」

 「......。」

 「心当たりのない俺は理由を聴こうとしたら、『生徒会長命令だが、理由くらいわからないお前じゃないだろう』だって」

 「........どんまい。それは悪いことしたな」

 「?」


 アレか。生徒会長が俺と勘違いして奇跡的に前科のあるお前にとばっちりがいったアレか。


 まぁでも生徒兼清掃員だからマシだろ(笑)。


 「ま、言われて思い出した。俺、海でナンパしてたわ。失敗ならまだしも、し、それがマズかったんだろう」

 「はい、ざまぁ!! 一生清掃員してろ!!」

 「な、なんだよ急に」


 うざ。なーにが“釣れた”だよ。女の子と面白おかしく遊びやがって。きっと最後はベッドインしたんだろう。こいつ、イケメンだしな。そりゃあモテるわ。


 「んで今朝からトイレ掃除したんだよ。午後は校長室の掃除だし」

 「はは。どんまい」


 天罰だな。神様、ありがとう。願わくばこいつのチ〇コも引きちぎってくれ。


 「でさ、そん時釣った子と上手くいってさ。よかったら和馬も今度一緒に遊ばね?」


 天啓だな。神様、ありがとう。願わくば愚息に童貞の呪いを解いてくれ。


 「し、仕方ないなぁ。山田君はぁー」

 「ふぉっふぉっふぉ。暴れん坊・裕二様だ」

 「一生ついて行きます!!」


 セフレならアリかな? お互い色々な経験が初めてな異性との恋愛が第一優先なのは揺るがないけど、よく考えたら『身体の相性』って必須項目じゃない?


 だって俺が早漏だったり、エッチが下手だとパートナーに呆れられちゃうかもしれないじゃん。なら今のうちにこっそり経験積むのもアリなんじゃないだろうか。


 なお、処女厨はできるだけ維持していきたい所存である。うん、わかってる。我儘だよね。


 「さ! まずは直近で週末だ!!」

 「おおー!!」


 陽菜に頼もうかな。「付き合えないけど、セフレでもいいかな?」って。


 こんな俺、控えめに言ってクズである。いや、クズどころの話じゃない気がする。


 「ん? 待って、週末って?」

 「世間一般的に考えて土曜日だけど?」

 「......。」

 「なに、和馬なんか予定でもあんの?」


 土日ってバイトじゃん。土曜は夜19時までやって、次の日は9時出勤だよ。そんな時間から参加なんて遅いし、そんなことしたら身体が持たないぞ。ただでさえ肉体労働なんだから。


 「あーやっぱやめるわ」

 「んだよ。この童貞が」

 「ど、童貞ちゃうわ!」


 こういう時に土日固定シフトのバイトって喜べないよな。長時間働けて稼げるのは最高だけど、土日遊びに行けないなんて、バイトして稼ぐ意味あるのかな。


 「いや、自分から始めたことなんだ。責任持たなきゃな」

 「なんの話?」

 「こっちの話」


 ポジティブに考えよう。そう、例えば仮に裕二の誘いに乗って女の子と遊び行こうとするとして、果たしてその女の子は可愛いのだろうか。


 その子が守備範囲外の顔面偏差値だったら......ってことを考えたら、土日にバイトして葵さんとイチャイチャした方が100倍マシだ。


 「ちなみに、この人たちと遊び行く」


 そう言って裕二は俺に週末遊びに行くであろう女の子たちが映っている写真をスマホで見してきた。


 「なっ?!」

 「ふっ。可愛いだろ?」

 「......。」

 「お、おい。そんな血走った目で睨むなよ」


 くそぉぉぉぉおおおおおお!!!


 ズルいよぉ!!


 「ふふ。行きたくなったか?」

 「行きた―――」

 「ほんっと男子って頭の中ソレばっかだよね」

 「「っ?!」」


 急に後ろから女性が俺たちの会話に入り込んできた。びっくりしたぁ。


 って巨乳会長じゃん。じゃなくて、生徒会長だ。


 「せ、せせせせ生徒会長?!!」

 「おはよう、山田君、高橋君」

 「おはようございます。どうしたんですか?」


 「ああ。君に連絡先をね」

 「え?! 和馬、西園寺さんとそういう仲なの?!」

 「ふっ。バレちゃったかぁ」


 「処すよ? 私以外の西園寺家皆の連絡先だよ」

 「なんで?!」

 「色々とね。そういえば連絡先聞いてませんでした。でもそれなら次回の時でも良くないですか?」

 「早朝バイトを頼みたいらしい。急ぎではないらしいけど、早いとこ経験するのは損じゃないだろう?」


 なるほど、早朝バイトもたしかに仕事内容にあった。会長の言う通り、早めに体験しておくのも悪くないかもしれない。仕事していいなら働きたいな。


 会長さんはそう言って連絡先の書かれた紙を俺に渡した。


 「なんのバイト? 農家とは別のとこ?」


 疑問に思った裕二が俺に聞いてきた。


 「まぁ、少し違うけど大体同じ」

 「ってことは生徒会長も農家なの? なんか意外だな」

 「......清掃員は黙ってくれくれないかな」


 会長が蔑むような目で裕二を見る。怖っ。


 「ひっ?!」

 「...これだから農家は好きになれないんだ」


 自分の家が農家なのに? 好きじゃないのかね。そんなことを呟く会長さんは回れ右して帰ろうとする。用件は済んだみたいだ。だが、数歩進んだ所で何か思い出したかのようにこちらに振り向いた。


 「あ、そうそう、高橋君」

 「?」

 「君、チャック空いてるよ?」

 「っ?!」


 俺は慌てて自分のズボンを確認する。たしかに全開してたわ。お気に入りのピンク色のパンツが悪目立ちしてらっしゃる。


 俺らと会長の会話が気になってたのか、先ほどからクラスメイトたちからの視線もあったので恥ずかしさが倍増した。


 「ふふ。貸し一つだね」


 その言葉を最後に会長さんはこの場を去った。教えてくれたことに感謝の気持ちなんて抱けない。だってわざと会長は距離をあけて言ったんだもん。


 「裕二も気づてたならこっそり教えてくれよ」

 「野郎の股間なんか見ねーよ。俺も言われて初めて気づいたわ」

 「あー恥ずかしい」


 くっそ。何が「貸し一つだね」だ。どう見ても公開処刑じゃねーか。もっこり見られちゃったよ。


 「ていうか、童貞のくせに派手なパンツ穿いてんな」

 「ど、童貞関係ないだろッ!!」

 「童貞は否定しないのか......」

 「あ」


 裕二からの週末の誘い、断ったことに深く後悔するバイト野郎であった。

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