第143話 おい、なんでここにいる

 「ふぁあ。今日もバイト疲れたぁー」


 先程、葵さんとのカボチャ騒動を終えて、現在19時20分、自宅に着いたところだ。俺はあくびをしながら風呂に入る支度をする。


 「さっさと風呂入って飯食って寝るかぁ」


 明日のバイトに備えて寝よう。平日は学校があって、土日はバイトなんだ。バイト野郎に丸ごと一日休みは無い。そんな生活が始まってしまったんだ。


 「文句言ってもしょうがない。自分で決めたことなんだしな」


 俺は独り言をして、風呂に入ろうとする。さて、今日一日頑張ったご褒美として入浴剤でも入れようかな。俺、あのシュワシュワ感が好きなんだよなー。


 『ピンポーン』

 「げ。まさか、また桃花か?!」


 風呂に入ろうとしたタイミングでインターホンが鳴った。ワンチャン桃花ちゃん説あるわ。早く出よう。また何言われるかわからない。


 「いやいつもなら鳴った直後言うはず...誰だろ」

 『ガチャッ』


 俺はちゃんと確認せず、ドアを開けてしまったことに後悔する。だってこの扉の先には―――


 「こんばんは、兄さん。可愛い可愛い妹が遊びに来ましたよ?」


 私服姿の可愛いちさが居たんだから。


 「......。」


 俺は無かったことにしたかったので、そっ閉じをすることにした。


 「ちょっ! なんで無言で閉めるんですか?!」

 「なんでお前ここに居んの?!」


 「土日は学校無いんですよ?! 週一くらいこっちに帰ってきてもいいじゃないんですか!」

 「俺んちじゃなくて実家に帰れよ!」


 「実家でゲームでしても結局、祖父母の家でゲームしてるのと変わりませんからね! ソロじゃつまんないですよ!!」

 「ゲーム前提かよ! こら! 手を離せ! 足を挟むな!」


 「痛い痛い痛い痛いッ! 乙女の四肢をなんだと思ってるんです?!」

 「し、四肢って....。俺はお前にかまってやるほど体力残ってねーんだ!」


 なんてこった。まさかここまでして俺の邪魔をしてくるヤツだとは思ってなかったぞ。アレは夏休みだけじゃないのかよ。


 「た、助けてください! 犯されそうです! 兄が妹である私を犯そ―――ふごッ?!」

 「やめろッ!! 桃花がばらまくのは“下種野郎”で済むけど“近親相姦”は洒落にならん!」


 とんでもないこと言い出した千沙の口を俺は手で塞いで家の中に強引に入れた。


 なんで俺んちに来る子は皆、あられもないこと言い出すのかね。おかげでご近所さんの俺を見る目がまるでゴミでも見るかのような目になったよ。


 「はぁ......ったく。言っとくが、お茶出すから飲んだら帰れよ」

 「私、ココアが良いです」

 「......。」

 「いはいれふ痛いですふへらないへくらはい抓らないでください!」


 兄の言うことを微塵も聞いてくれない妹の頬を抓った。手を離したら千沙は勝手にリビングに行った。


 「ここが兄さんの.....」

 「あんま面白い物は無いぞ」

 「そうみたいですね。殺風景です。というか兄さん、小汚いですね?」

 「これから風呂入るとこ」


 俺は千沙が来るまでは風呂に入ろうとしてたしな。とりあえず今日のバイトでたくさん汗をかいたから、一刻も早く風呂に入りたい。


 「早く入ってきてください。汚いです」

 「お前なぁ......。はぁ....そうする。詳しくは後でな」

 「あ、言ってみたかったことがあるんです」

 「?」

 「『先にシャワー浴びてこいよ』.......って」


 え、なに、俺これから犯されんの? なにそれ、願ったり叶ったりなんですけど。


 「ヤらしてくれんの?!」

 「っ?! ヤりませんよ! 気持ち悪い...。言ってみたかっただけです」

 「......。」


 自分で恥ずかしいこと言ったくせに、千沙の顔は真っ赤だ。


 そういうのマジで要らない。ああー、俺もイってみたい。きっとマイハンドとは全然違うんだろうな。


 俺はすぐに風呂に入って今日一日の疲れをとる。あー、やっぱ日本人は風呂だよね。俺一人しか家に居ないけど、今日みたいに疲れた日には夏でも風呂を沸かして入ってしまう。お湯がもったいないけどしょうがないじゃないか。


 風呂に浸かるという文化がいけないんだ。


 と、不意に浴室ドアが『ドンドン』と叩かれた。


 「兄さん! なに呑気に浸かってるんですか?!」


 そんな湯舟に浸かる幸せの時間なんて束の間だった。この子は“我慢”って言葉を知らないのかな。


 「...いーじゃん、風呂くらい。お前がアポなしで押しかけて来たのが悪いんだろ」

 「私、明日には帰らないといけないんですよ?!」

 「知るか」

 「そんなぁ.....。横暴すぎます」


 横暴なのはお前だ。


 俺はもう少しゆっくりしたい気持ちを抑え、風呂から上がることにした。理由はなんであれ、わざわざ俺んちまで来たんだ。面倒だけど、少しくらいゲームの相手をしよう。なに、そのうち帰んだろ。


 ドライヤーで髪を乾かし終えてからリビングに向かったら、千沙がちょこんと座ってテレビを視ていた。しかも勝手にココアを淹れて。


 「そういえば、なんで俺んちがわかったんだ?」

 「あ、兄さん。それはですね。以前、兄さんのスマホのエロ動画とかバックアップしたじゃないですか」


 よく臆面もなく「エロ動画」って言えるね。


 女の子だからって差別するのはいけないと思うけど、それでも少しは恥じらいを持った方が良いんじゃないだろうか。


 「その際にこっそりアマゾネスのアプリを開いて、自宅の住所を見たんですよ」

 「うっわ。勝手に開くなよ」


 「まぁ他にも知る方法はありますが、同時に兄さんの注文履歴も見たかったので」

 「プライバシーの侵害で訴えたい」


 「あ、あんなエッチな物まで買うなんて。思ってもいませんでした」

 「自重してくれ。そんなの知ってもお互い気持ち良くないだろ」


 「『気持ち良くない』と言えば、なんで電マなんか買った―――」

 「あっーーーー! もう言うな! ささっと遊ぶぞ!」

 「ふふ。仕方ないですね!」


 お前に使ってやろうか、こら。ちなみに、のために電マを購入したが、未だ開封されずに箱の中だ。理由は言わずもがな。.....ぐすん。


 「あんま良さそうなゲームは無いですね?」

 「最近、忙しくて買ってなかったからなぁ。あ、そうだ。昔、親父とやっていたモン〇ン3rdやらね? PS〇なら2台ある」

 「懐かしいですね! 私大好きでした!」


 こうして俺らは最近流行りのゲームをせず、昔夢中になったゲームをすることした。たまーに昔のゲームをすると楽しいよね。複数人なら尚のこと。


 でもさ、


 「あー。やっぱり兄さんの家に来て良かったぁ。ふっるいゲーム楽しみです!」

 「....そだね」


 俺はどちらかというとふっるいゲームが楽しみというより、お前がいつ帰ってくれるのか心配でしょうがないよ。

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