第142話 カボチャの軽トラはお姫様を運ぶ

 「あ、そういえば夏休み明けから別のバイト先で試しに働いてくれるんだよね?」

 「あー、ありましたね。美人が働く農家で」

 「そ、その言い方はちょっと...」


 今日は晴れ。9月になったからって暑さがダダ下がりするわけじゃないが、これから徐々に秋にかけて涼しくなっていくはずだ。日中はよくわからないけど、夜は涼しい印象の秋だしね。


 そんでもって、今日は夏休み明け最初のアルバイトだ。今は野菜の収穫を葵さんと行っているところである。


 「冗談ですよ。葵さんも充分美人です」

 「っ?! そ、そういうことじゃなくて! あっちでは失礼のないようにね! !!」


 “高橋君”...。呼び方戻ってるし。距離あいちゃったよ。葵さんとは花火大会以降、一度も会っていなかったから呼び方を忘れたのかな。


 「葵さん、風邪治ったのはなによりですけど、花火大会のときみたいにまた“和馬君”って呼んでくださいよ」

 「うっ。あ、アレは酔ってた的な...みたいなものだから言わないッ!」

 「えー」


 風邪のせい? なに言ってんだこの先輩は。


 つーか、可愛いかよ! あー、なんでそんなに後輩をイジメるんですか? おっぱい突きますよ?


 「カボチャはもうちょっと果梗ヘタがコルクみたいなやつを採って」

 「あ、これでも駄目ですか?」


 バイト野郎、適切な収穫ができてないと指摘された。


 俺たちは今、カボチャ畑でカボチャの収穫をしている最中だ。そのカボチャは木から実がなるわけでもないので、当然畑の上にできる。そのため、一つ一つにかなりの重さがあるカボチャを拾い上げる作業は結構腰にくる。


 カボチャって普段、スーパーで買う時なんかは丸々一個を買わないからね。カットされたヤツとは違って、当たり前だけど重さが全然違う。


 「そうだねー完全にって訳じゃないけど、果梗ヘタの所に緑色がない物って感じかな」

 「難しいですね」

 「ふふ。流石の高橋君でも“経験”に勝る“分析力”はあるまい」

 「はは。買いかぶり過ぎですよ」


 おっ、これは久しぶりに葵さんの先輩風が吹くぞー。でも正直、そんな必死になって“先輩”を形作っている様子の葵さんは超可愛いから全然嫌いじゃない。


 「参考になるようなカボチャを採ってくれませんか?」

 「し、仕方ないなぁー」

 「お願いします! 先輩!」

 「えへへへ」


 反応が面白すぎる。なにこれチョロいな。


 「えーっとね。これくらいなら採っていいよ」

 「こっちはどうですか?」

 「それはまだ時期じゃないかなー」


 そう言って葵さんは前かがみになってカボチャをまた一つ、収穫していく。


 その際、


 「お、おおー」

 「?」

 「な、なんでもないです」


 葵さんが真正面でカボチャを収穫すると前かがみになるから胸元が見えてしまう。きっと暑くて首元のボタンを外したんだろう。


 で、デカい。それに揺れる。


 普段からこんなおっぱいカボチャを2個も付けてて苦しくないのかな。言ってくれれば24時間365日下から支え続けるのに。


 「どう? 参考になった?」

 「え、あ、いや、まだです!!」

 「ま、まだ? め、珍しいね」


 俺は“谷間ウォッチ”したいから葵さんに収穫を続けてもらう。いや、これ合法だわ。完璧に合法だよね。仕事だもん。しょうがない、しょうがない。ぐへへ。


 「あとね、あんまり参考になるかわからないけど、果梗ヘタがコルクみたいに変色していると軟らかいから刃が入りやすいの」

 「ほうほう」

 「そ。だからまだ身が熟してないカボチャは緑色の果梗ヘタは硬いんだよね」


 話なんかそっちのけで俺は谷間に集中だ。俺は葵さんのおっぱいカボチャをみたいんです。


 もっと言うなら硬いかどうか調べたいから乳首ヘタがコルクになてるか知りたい。きっとカボチャと違って綺麗なピンク色なんだろう。


 「でね、あんまり傷つくかもしれないからしてほしくないんだけどカボチャの皮に爪を当てて、痕がつかないくらい硬いと収穫時だよ」

 「ふむふむ」


 谷間ウォッチしててお金稼げるとか最高か。俺、ここで働いてて本当に良かったぁ。


 あ! 今、谷間に汗が流れたッ! くっそ。あー、生まれ変わったら汗になりたい。


 「でね、今は関係無いけど、収穫したカボチャはすぐには売らないの―――」

 「......。」


 「......ちょっと! 高橋君!!」

 「ひゃいっ!」


 「どこ見てたの?!」

 「あ、いや、これは」


 なんとあまりにもバイト野郎がガン見してたから葵さんにバレてしまった。いや、すみません。何度も息子には言い聞かせてるんですけど言うこと聞かなくて。


 「先輩がッ! 教えている最中なのにッ! どこを見てたのッ!」

 「おっぱ―――カボチャです」

 「そこまで言ったら確信犯だよ!! カボチャで頭叩き割るよ?!」


 や、野菜を鈍器にしないでください。


 どうしよう。葵さんがめっちゃ怒ってる......。っていうか、見るだけなら減るもんじゃないし、別に良くね?


 わかってる。こういう考えをするから糞野郎なんですよね。


 「全ッ然、反省してないよね?! なんなの?!」

 「本当にすみません......」

 「正座ッ!」

 「......はい」


 俺は葵さんに言われるがまま、畑の上で正座するというカオスな状況に。


 「私は暑いから胸元のボタンを外したの!」

 「......はい、ありがとうございます」


 「なんでそこでお礼するの?! 高橋君に見せるために開けたんじゃないってことだよッ!」

 「......はい、仰る通りです」


 「花火大会の件ではお世話になったし、見直した途端にコレだよ!」

 「......これからは気を付けたいと思います」


 「そうしてッ!! なーんか私が収穫する度にそそくさと私の真正面に立ってさ。バレないとでも思ったのかな?!」

 「......ほんと馬鹿なことをしました」


 でも後悔はしてません。なんて、とてもじゃないが言えない。言ったらマジでカボチャでどつかれる。


 「どーせ、私の胸見て『例えるならカボチャかな』って思ってたんでしょ?」

 「そ、そんなまさか」


 お、おー。付き合いはそんなに長くないけど、まさか心が読まれるとは......。感服です。でもここは反省の色を示さねば。


 「どーだか。......なんでそんなに見たがるのか私にはわからないよ」

 「それは葵さんがとっても魅力的だからです.....」

 「っ?! ふ、ふーん。......で?」


 『で?』と言われましても。


 俺は正座のまま機嫌を直してくれるよう、葵さんにあれこれ言ってみることにした。


 「不甲斐ない自分のために、こんなに優しく教えてくれる先輩はそういないですよ!」

 「へ、へー。一応自覚してるんだね」

 「それはもう! 葵さんは“頼れる先輩”の上に美人なんですから、目のやり場に困ってしまいます!」


 葵さんが見てわかるくらい照れてる。おっ、これはアレか。葵さんをベタ褒めしたらなんかこの危機を乗り越えられそう。


 「っ?! そ、そうかなー」

 「そうですよ! よっ! 絶世の美女!」

 「えへへ。ほ、他の人と変わらないと思うけどぉ」

 「そんなことないですよ! 葵さんに比べたらジャガイモみたいなもんです―――あ」

 「......。」


 葵さんの冷めた視線がバイト野郎を突き刺す。


 「えーっとですね。これは器の大きさを例えたものでして、決して胸の大きさ―――」

 「やっぱ反省してないよねッ?!」


 おっと、これでまた振り出しに戻っちゃったよ。


 「大体、高橋君は―――」

 「......。」


 しばし説教が続くこと小一時間。もちろん、この説教の分の時給は1000円だ。葵さんに怒られながら「今日も田舎は平和だな」と実感するバイト野郎だった。

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