第129話 雨ニモマケズ

 「雨降ってるわねぇ」

 「これから台風がだんだん近づいてくるから、もっと雨風激しくなるよ」


 今日は雨。今朝から雨が降っているため、そこまで暑くない。じめっとはするけどね。今は朝ご飯を食べ終わって、今日のバイト野郎のスケジュール待ちである。


 「「はぁー....」」


 そんな雨が降っている外をリビングから眺めている真由美さんと葵さんはため息をついていた。


 「俺は今日一日、何をすればいいのでしょう?」


 普段、ただの雨のときは買ってもらったカッパを着て、野菜を収穫をするのだが、今日はこれから天候がどんどん悪くなるので、さすがに外では作業しないだろう。


 それに台風で直売店は臨時休業だ。野菜の収穫は必要ない。


 「はは。舐めてるのかい、カッパ着て仕事だよ」

 「なに言ってるのよ。これからもっと酷くなるのに仕事なんか頼めないわぁ」

 「まぁ本音を言えば他にも対策したいことはあるけど、昨日で大体できたからね。学校の課題とか無いの? たまには自分を優先してね」

 「あ、私、課題あったわ。和馬、手伝いなさい」

 「陽菜、受験勉強兼ねてそれくらい自力でしなさい。それに兄さんは私とゲームしますからどっちにしろ無理です」


 皆、言ってることばらばらじゃん。バイト野郎にとっては中村家の皆は“雇う側”なんだから統一くらいしてほしいものだ。


 思いやりを感じさせない雇い主、陽菜、千沙の3人はどういう神経しているのかな。


 「あ、じゃあ千沙、なんか物置小屋で作業とか無いの? あそこなら雨風しのげるし」

 「なんでお父さんはそこまでして兄さんを働かせたいのですか......」


 正直、俺はどっちでもいいです。これから天候が荒れてくるのでできれば外での作業は嫌ですね。千沙と物置小屋そうこの中で仕事するなら別にかまわないけど。


 「高橋君だってバイトするためにここにいるんだよ? 稼ぎたいと思っているはず」

 「性欲だけじゃなくて金銭欲まで兼ね備えているとは......。さすがです、兄さん」


 千沙、お願いだからご両親がいる前でそういう発言はやめてほしい。“性欲”って否定できないけど、言われる身にもなって?


 「泣き虫さんはそんなお金に執着心なんてないわぁ」

 「真由美さん......」

 「もう一つのほうはわからないけどぉ」

 「......。」


 「き、昨日の前科アレがあるからね。金銭欲はともかく、もう信用できないよ」

 「.....葵さんだって楽しんでたくせに」

 「筋肉に触れなかったから楽しんでないよ! 嘘言わないでくれない?! クビにするよ!!」

 「嘘です。許してください」


 まさかバイト先の長女にそんな権限があるとは。バイト野郎びっくりです。てかなんだ、「筋肉に触れなかった」って。油断も隙もねえな。


 「あ、葵姉に何したって言うの.....」

 「別に」

 「『別に』って......。た、高橋君が転んだ私の下になってくれたんだよ」

 「に、兄さんが足を引っかけたってことですか?」


 「んなことしねーよ。“ラッキースケベ”だ」

 「ここに両親わたしたちが居てもに正直なのねぇ」

 「よし、たしか雨風が激しいときって痕跡が残りにくいんだったよね。、外に出よっか」

 「ごめんなさい。事故です。許してください」


 「アレを事故と言い張るの.....」

 「うっ。でも、もしかしたら怪我をしてたのかもしれませんよ」

 「そ、そうだけどさ」

 「なんですか、俺のおかげでケガは免れたんですよ? ちょっとくらいご褒美があっても良いじゃないですか!」

 「だからって開き直らないでよ!!」


 正直、お互い怪我なんてしてないし、したとしても足首を捻るくらいだっただろう。完全に俺へのご褒美ラッキースケベでしたね。


 「と、とりあえず、泣き虫さんは今日お休みよ。何かあったら大変だし、家で大人しくしてなさい」

 「了解です」

 「せっかく暇な時間ができたんだ。天気は荒れてくると思うけど、俺と真由美は買い物でも行こうかな」

 「外出なんかして大丈夫なんですか......」


 「がいるからねぇ」

 「ですって、兄さん。自覚あるんですか?」

 「....すみません」

 「いや千沙だよ? 俺はだんだん娘が心配になってきた....」


 俺も一瞬「千沙のことだろ」って言いたかったけど、今日ばかりは仕事もしないでお世話になるので千沙を責められない。


 それからすぐ真由美さんと雇い主は買い出しに行き、南の家に残ったのは俺と葵さんと陽菜、そして千沙の4人だ。さて、今日一日何をしようか。


 「じゃあ和馬、私の勉強に付き合いなさい!」

 「まぁ、暇だし別にいいけど。で、何の教科から?」

 「そうね......。ま、まずは、“保健”の科目からかしら」


 受験にそんな科目ねーよ。この淫魔が。


 「以前、『勉強に躓いたら兄さんと頼りなさい』って言いましたけど、躓くところなんて“保健”にありませんよ」

 「そ、そうかしら? 一応、和馬とというかなんというか......」

 「あんなの、アダルトビデオを見ていれば知識は十分に身に付きます」

 「あだッ?! え?! 何言ってるの千沙姉?!」


 お前は妹になんつうこと言ってんだ。実の妹にAV勧める姉とか聞いたことねーよ。


 「ち、千沙。高橋君もいるんだから、女の子がそういうこと言わないの」

 「なんですか、自分だけお高くとまって。姉さんもこの前私が貸したAV、嬉々として受け取ったじゃないですか」

 「ききききき嬉々として受け取ってないよ?! 渋々だよ!!」

 「う、受け取ったことに関して否定はしないんですね......」


 なにそれ。葵さんも見てんの? 清楚なフリしてとんだ“むっつり”さんですね。俺がビデオにそってでもしましょうか? もちろん、お代はその身体で。


 「わ、私ちょっと外に行ってくるね!」

 「こ、こんな雨の中ですか」

 「家で大人しくしてた方が良いですよ、姉さん」

 「なによ、畑?」


 「そ! ちょっと心配だから見てくる!」

 「あ、じゃあ俺も行きますよ。この天気じゃあ心配ですし」

 「えー。勉強はー」

 「まぁ、兄さんがいれば何かあったときの肉壁にもなりますしね」


 千沙はお兄ちゃんをなんだと思ってるのかな。日に日に悪化して、もう人として扱ってくれないのかね。


 それに先程、真由美さんたちが買い物に出て行ってからさほど天気は荒れてないが、これから酷くなるのはほぼ確定なんだ。


 「うーん。雨降ってるけどいいの?」

 「以前、カッパを頂いたので平気です」

 「で、でも危険かもしれないよ?」

 「葵さんが諦めてくれれば、俺も外に出なくて済むんですが......」

 「そ、そこまで言う。......じゃあお願いします」


 こうして俺と葵さんは台風が近づいてきているのにも関わらず、外に出ることにした。そんなに気になることでもあるのかね。いくら作物が心配でもリスクを少しくらい考えないといけませんよ。


 まぁそんな口出しはできないので大人しくついて行くしかできないバイト野郎だ。


 なに、もし何かあっても葵さんの身の安全はなんとかしよう。日頃お世話になっている人だしね。


 「行ってきまーす」

 「んじゃ行ってくる」

 「気を付けてね」

 「あ、お風呂沸かしときますよ」


 お、千沙にしては気が利くじゃん。これは槍でも降ってくるのかな。


 「ふふ。私ってなんて“良い妹”なんでしょう」


 ......なんかお兄ちゃん、台風だからか、嫌な予感がしてきたよ。



――――――――――――――



ども! おてんと です。


あとちょっとで“夏休み編”が終わる......たぶん。もう少し待っててください、桃花様、美咲様。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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