閑話 千沙の視点 第9回中村家家族会議
「ふぁあ......今日も家族会議ですかぁ」
「あらもうそんな時間かしら」
現在21時04分。今日は昨日片付かなかった議題を考えるため連日で家族会議を開きます。面倒ですね。
「そういえば会議あったわね。早く始めましょ」
「珍しくやる気ですね、陽菜...って足どうしたんですか? まさか筋肉痛ですか?!」
「き、筋肉痛ごときで湿布貼らないわよ...」
「わ、私は貼りますが...」
湿布の臭いは苦手なんですよね。でも貼るのと貼らないとでは、次の日の筋肉痛の緩和具合が違ってくるのでしっかりと貼りますが。
あ、そうだ、今度兄さんになんかこじつけて湿布貼ってもらいましょう。名案ですね。
ふふ、また兄さんが喜ぶことを思いつくとは。兄想いの良い妹ですね、私は。
「買い物の帰り道で足首を挫いたんだって」
「あははは」
「だ、大丈夫なんですかそれ」
「まぁ陽菜は偶に部活で軽くケガすることあるし今回も平気そうだけど。.....一応病院行く?」
「軽傷よ、軽傷。こんなの、数日したら治るわよ」
「無理しないでくださいね」
なんと妹の陽菜は買い物に行って怪我をしてしまったらしいです。たしか桃花ちゃんと買い物に行ったんでしたっけ。今朝、お母さんからそんなことを聞きましたね。
「そういえばどうやって帰ってきたんだ?」
「たしかに気になるますね」
お父さんはお茶が入った湯飲みを手にしながら陽菜に問いかけました。たしかにお父さんたちは買い物に行っていて、家には私と姉さんしかいなかったはずです。
私は東の家で警備してましたし、姉さんは南の家の留守をしていましたから、怪我した陽菜が自力で帰ってくることは難しいですよ。バスもタクシーも時間帯的にないですし、桃花ちゃんの肩を貸してもらったんですかね。
「か、和馬に運んでもらったのよ」
「ブフォッ!!」
「ちょっ、パパ汚いッ!」
陽菜の爆弾発言にお父さんが飲んでいたお茶を吹き出しました。私も驚きです。兄さんがここまで陽菜を担いできたってことですよね。
「ゴホッゴホッ....なんで、高橋君が?」
「駅でたまたま会ったから一緒に帰っている途中にね」
「あーなるほど」
いや、全然「なるほど」じゃないですよ?
「あなた、全然『なるほど』じゃないわよ」
「え」
いくら陽菜が可愛いからってまさかこんな暑い中、
「そうですよ、お父さん。....陽菜、兄さんに頼らずとも私たちを頼ればいいじゃないですか」
「え」
「そうだよ、陽菜。せっかく免許とったんだから、こういう時に姉を利用してくれてもいいんだからね?」
陽菜が「何言ってんだこいつら」みたいな顔で私と姉さんを見ます。まぁたしかに私の膂力では陽菜の補助はできませんし、車は運転できますが免許ないですからね。
あと姉さん、さすがの私でも免許交付日の姉が運転する車には乗りたくないですね。あの運転技術で受かったことが未だ信じられませんよ。
「っていうことは、さっき兄さんうちに来たんですか」
「私たちもすれ違いになっちゃったわぁ。泣き虫さんに今度お礼しなきゃねぇ」
「ったく、妹に挨拶もなしとは。兄の自覚が足りませんね」
「....。」
母さんが呆れ顔で私を見ます。なんですか、その目。私なにか変なことでも言いましたか?
「ま、まぁ陽菜も今日は無理せずもう寝ていいんだよ?」
「そうだぞ。しっかり休まないと早く治らないからな」
「ううん。家族会議でしょ? それに和馬のことだし」
さすがの陽菜でも唯一のアルバイトで来る人のことは把握したいらしいですね。
「じゃあ第9回中村家家族会議を始めようか」
「なにまた仕切ってるのかしらぁ。あなたは黙ってて」
「あ、はい」
うちのヒエラルキーはいつだってお母さんが頂点ですね。
「千沙」
「今回の議題は昨日の晩に片付かなかった討論の続きです。覚えていると思うのでそのまま続きを―――」
「千沙、悪いけど説明してくれ」
お父さんは覚えてないんですね。貴方、バイトでくる人のことなのに興味を持たないとかすごいですよ。話がちっとも進みません。
「では念のため、確認します。議題は兄さんこと高橋 和馬さんの今後についてです」
「あーそういえばそうだったね」
「全部で三つあります。まず一つ目が兄さんの参入により、仕事量の調節を考えないと、兄さんを雇っている分、効率面、収入面でこちらが損をします。極端な言い方ですが」
そう、兄さんはまだ農家の仕事に慣れていないとはいえ、一人加わっただけで仕事に多大な影響を与えるとは思っていませんでした。それは良いことばかりではなく、現状のままの仕事量では収入面において損をしますからね。
「次に、兄さんに直売店の準備を手伝ってもらうかどうかです。....まぁこれについては手伝わせないという方向で言いですね?」
「「「「....。」」」」
「....沈黙は肯定とみなします。三つ目に移りましょう」
当たり前です。兄さんに直売店の仕事なんてさせません。
一つ目の議題解決により、仕事は少なからず増えます。まぁそれは生活に関わることなので仕方ないですが、朝から頭使うような仕事なんて絶対させませんから。
もし兄さんにその仕事を任せたら、「千沙、悪いけど、直売店に専念したいから夜は遊べない」とか言い出しますよ! 私を半殺しにする気ですか?! 却下です、却下。
「では三つ目ですが....」
「消耗品のことでしょ? 千沙姉」
「?!」
なんとあの陽菜が三つ目の議題を自ら導き出すとは。驚きです。
さすが、“中村家の家政婦”ですね。
正直、お母さんや姉さんが仕事で忙しくしているときは大体陽菜がしますし、今では家事全般担う家庭的なJCですよ。
陽菜がドヤ顔で続けます。
「和馬の作業着は全部で4着。この暑さだから午前中で1着使って、午後に着替えてもう1着使う。つまり1日2着使うことになるわ」
「それがどうしたの? そんな議題するような事じゃなくない?」
「パパは馬鹿ねッ!!」
「っ?!」
そうです。この議題は一見、4着あれば二日間で、着て洗って干してのローテーションで済みますが、この夏では使用頻度と仕事内容でどうしても兄さんのツナギ服を酷使してしまいます。
「数のことかしらぁ? たしかに服が少ないからどうしても汚れが日に日に増すわねぇ」
「あ、ああ、そういうこと。じゃあ買ってあげればいいでしょ」
両親が「そんな問題視するか?」と言わんばかりにテキトーです。大問題ですよ。
「......もっと早く気づいて買ってあげれば良かったんですけどね」
「「え」」
「ふ、二人とも気づかなかったの?」
私の代わりに姉さんが続きを言ってくれるようです。
「高橋君、1着自前なんだよ?」
「っ?!」
「え、そうだっけ」
これは大問題ですよ。アルバイトの人が自前で仕事着を用意することって。お母さんは事の重要性に気づいたみたいですね。お父さんは安定の馬鹿です。
長い目で見て、ちゃんとしたものを買うなら最低でも5000円以上の生地の厚いツナギ服ですよ。それを自前でって......馬鹿ですかね? 姉さんやお母さんに言えばいいものの。
「そ、そういえば泣き虫さんには3着だけ最初に買ったのを渡したわねぇ」
「そうか?」
「そうだよ。たぶん高橋君のことだから夏休みに入る前に一日最低でも2着必要だと判断したから自前で買ったんだと思う」
「和馬、私たちにそういったこと頼みづらかったんでしょ」
「ええ。大方、『夏休みの間は中村家にお世話になるし、自分で買うか』と考えたのでしょう」
プライベートに使わず、ここでの仕事のために自前で作業着を買った兄さん。そしてそれを私たちに何も言わずに。.....控えめに言って、す、素敵ですね。
「逆になんで3人は気づけたの?」
「彼、泣き虫さんは何も言っていないのよねぇ?」
お父さんとお母さんが疑問に思ったことを姉妹3人に聞いてきました。
「タグ付いてたの見えたし...。高橋君、取り忘れてたっぽい」
「どう見ても他の小汚いツナギ服と違って真新しい作業着持ってましたし」
「ニオイで」
三者三様の答えを言います。
....今、陽菜が聞き捨てならないこと言ったんですが。あ、ああ! 新品の服特有のニオイってことですね!....と、姉は切に願ってます。
た、たしかに人間の知的探求心や蓄積されたストレスとかで嗅いでしまうのは理解できますけど。兄さんのだから嗅いだわけじゃないですよね?
でも悲しいことにこういう時にかぎって思い出したくない思い出が甦ります。
「もうっ!
たしか私が高橋さんを兄さんにするときに陽菜への
「私はちゃーんと
私が使ったタオルを洗濯機に突っ込もうと夜中に持って行ったら、陽菜が兄さんの―――
「たとえば、生年月日、血液型、身長、体重、体臭、靴のサイズ。あと、趣味、住所、携帯のパスコードとか。それと他には......」
「「「「......。」」」」
―――使用済み作業着を
――――――――――――――
開き直って覚醒した、これがネオ・陽菜です。
ども! おてんと です。
まだ中村家会議の議題が片付かないので閑話をあと一回くらい追加します。
ふふ、お察しの通り、三日目の
それではハブ ア ナイス デー!
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