閑話 葵の視点 第8回 中村家家族会議
「じゃあゆっくり休んできてねぇ」
「はい。またよろしくお願いします」
今日は曇り。昨日、高橋君の休日の件について千沙と陽菜の口論から一夜が明けた。天気は彼がバイトをお休みするからか、晴れていない。そう思うのは私が彼を晴れ男だと勝手に思い込んでるからだ。まぁ、夏だから相変わらず蒸し暑いけど。
昨晩は荒れたなぁ。千沙ならまだしも、まさか陽菜もあんなにダダをこねるなんて。ふふ、ちょっと姉として妬けちゃうよ、高橋君。
今は朝で、今日から三日間、彼はいない。...少し寂しいかな。千沙が高校に入って親戚の家から通い始めた時みたいに、中村家にぽっかり穴が開いたような虚しさを感じる。
「...本当に行くんですか?」
「いや、たかが三日間留守にするだけだろ」
「高橋君、忘れ物はないね? あったら燃やしとくよ?」
「いや、三日後また来るんで置いといてくださいよ」
彼を送るため、朝から中村家のみんなが南の家の玄関前にいる。千沙も寂しいのかな。表情がどこか暗い気がする。父さんは相変わらずふざけてるし。
「ふぁあ......私もそろそろ部活行くわね」
「あ、じゃあ途中まで一緒だな」
「行ってきまーす」
「それでは、ありがとうございました」
眠たそうな顔して陽菜が、高橋君と同時に中村家を後にする。ふふ、まだいつも家を出る時間じゃないのに。素直じゃないなぁ。
「行っちゃったわねぇ」
「彼も成長したな...」
「兄さん......」
「い、いや、だから三日後また来るんだよ? なんで高橋君が旅立った感出すの......」
千沙や陽菜ならまだしもまさか両親にも影響を及ぼすとは......。高橋君はいつの間にか
「さて、陽菜も部活行っちゃったみたいだし、中村家会議は今夜しましょうねぇ」
「え、なんか議題あったっけ?」
「あぁー。そういえば、高橋君のことで会議する予定だったよね」
「兄さんのおかげで仕事のペースが乱されてますし、これは調整が必要です」
「「「......。」」」
千沙、そういうのは日頃働いている人が言わないと...。
「じゃあ、第8回中村家家族会議を始めようか」
「なに仕切ってるのかしらぁ。あなたは黙ってて」
「あ、はい」
うちのヒエラルキーはいつだって母さんが頂点である。
晩御飯を終え、家族全員で会議を開くことにする。もちろん、部活から帰ってきた陽菜や、ひきこもってた千沙もいる。昨日までいた高橋君が居ないだけ。
「まず、議題は泣き虫さんこと高橋君のことよぉ。千沙、お願い」
「三つあります。順に片付けましょう。まず一つが仕事のペースが過去のデータと比較しても大幅に上がっています」
こういった時の千沙は頼もしすぎてつい、こちらが敬語を使ってしまいそうになる。
さすが“中村家の頭脳”。
「別にいいことじゃない」
陽菜がなにが問題なの?と言わんばかりに疑問を口にする。大問題だよ。
「仕事のペースが早いことは一見良いことに思えますが、これは私たち農家にとってリスクも伴います」
「?」
「仕事が終われば次の仕事へ。その連鎖は次に植える作物の苗の量を考えないと収穫時期が思ったより縮まってしまいます」
そう。高橋君が草むしりなど単純な作業や、野菜の収穫の手伝いをしてくれるだけでその分、全体的な仕事はなくなっていくことと同じである。
「この量が少なすぎると私たちの仕事及び、兄さんの仕事がなくなります」
「なっ?!」
陽菜が千沙の一言に驚く。
これは私の“筋肉ウォッチ”にも深く関係するので、彼にはできるだけ長く働いて、汗をかいてもらわなければ着替えてもらえないし、身体も鍛えてもらえない。すごーく重要なことだ。
「つまり、このままいくと兄さんはクビです」
「千沙、ふざけないの」
「あ、はい」
働きすぎてクビって彼、可哀想過ぎない?
「今は夏で野菜の成長も早く、帳尻合わせは多少できますが、これが冬になるとそうはいきません」
「た、たしかに...」
「ええ。冬は野菜の成長が遅いので、量を考えないと売る数と売っていられる時期が定まりません。収穫量を今までのままにしては兄さんを雇っている分、こちらの経済的な面で損をします」
この問題はなにも植える野菜の苗や、種を増やせばいいわけじゃない。
「じゃあもっとたくさん
「もちろん、単純に増やしただけでは意味がありません」
「え」
「さっきも言ったように、寒ければ寒いほど野菜の成長は遅くなります。多く植えすぎてはその分、
畑は広いけど有限だ。どこまでがこの野菜で、次は何を育てるか、いつまで採れるかを考えなければ安定した収入が得られない。
幸い、うちにはまだ
「これは面ど...長くなりそうなのであとに回します」
「...二つ目は彼に
「あぁーたしかに。彼、何事も丁寧だしいいんじゃない? 俺は良いと思うな」
「そうね。和馬もそろそろ直売店の方の手伝いをしても良いと思うわ」
夏の今では前日に収穫した野菜は、直売店を開く日に売り物を作っている。収穫してそのまま店に出すわけじゃない。虫がついてないか、傷んでいるところはないか、状態を確認して一つにまとめ、重さを統一することで初めて商品となる。
高橋君に前日どれだけ仕事を頑張ってもらっても、それは前日までの作業時間が短くなるだけで、結局は商品にする数は決まっているので
正直、彼に手伝ってほしいけど、
「わ、私は反対かなぁ」
「「「え」」」
「奇遇ですね、姉さん。私も反対です」
「「「「えッ?!」」」」
母さんと父さん、陽菜は「意外」と言わんばかりに、少し驚いて私を見る。私は千沙に驚いた。
別に私は彼と仕事したくないわけじゃない。
「葵姉が反対なんて言うとは思ってなかった」
「またなんでだ?」
理由なんてちっぽけなプライドからきてます。でもそんなこと言えません。
「た、高橋君、じっとしている仕事がすごいストレスだって言ってたから」
嘘です。そんなこと言ってません。高橋君、教えれば教えるほど仕事を次々こなしていくし、これだといつか私のこと頼ってくれなさそうだから嫌なだけです。
ちなみに直売日の朝の仕事は基本、室内で野菜を品定めするからどうしても椅子に座りっぱななしだ。彼は普通に耐えられると思うけど。
「え、和馬ってそうなの?」
「泣き虫さん
ごめんね、高橋君、みんな。ただの身勝手な私の我儘です。だって
やっぱりいつまでも頼れる先輩でいたいし。
「それで...なんで千沙も反対なんだ?」
「ああ、兄さん、朝がとっても弱いんですよ」
「は?」
「知っての通り、普段の兄さんは頭がかなり切れます。気が利きますし、びっくりするくらい回転も速いんですよね」
た、たしかに。こちらが作業するにあたって注意事項を言う前に、彼はすでにそれに気づいていることが多くて、自分で解決してしまう。
もうずるいよね、それ。反則だと思う。全然私を頼ってくれないじゃん。
「そうかもしれないけど、仕事ならちゃんと切り替えできるんじゃないかしらぁ」
「無理ですね。中にはそういった人間も一定数いるんですよ、お母さん」
へぇそうなんだ。彼、朝強いイメージあるけど、意外と可愛いところがあるんだね。
「そういえば、和馬が以前『朝は頭働いてなくてテキトーに返事した』とか言ってたわね」
「ええ。今まで、午前中の仕事は単純作業だったからいいものの、これが直売店の商品を扱うとなると、ミスを度々されたらとてもじゃありませんが任せられませんよ」
きょ、今日の千沙は普段にも増して説得力がすごい。私の下手な嘘より、千沙の力説の方が力強いんだね。みんな納得顔だよ。
でもね千沙、薄々みんな気づいてると思うけど、
「まぁそんな完璧な人なんていないってことですよ」
きっと彼が、朝が弱い原因になってるのは、
「はぁ......なんででしょうね。もっと役に立ってもらいたいものです」
「「「「......。」」」」
毎晩、千沙がゲームで寝る時間を奪っているからだと思うよ。
―――――――――――――
上げて、おとす。これが千沙です。
ども! おてんと です。これからは偶にこういった形で最後にコメしようかなと思います。気まぐれです。
“なろう”みたいにちょっと書いてみたかっただけです。これいいのかな?
許してください。
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