閑話 葵の視点 今頃二人共、シちゃってたりして

 「千沙、高橋君にちゃんと言えたかなぁ」

 「それくらい大丈夫でしょ」

 「おっ通販番組始まったぞ。今日は何かな」


 今日は曇り......だった。今は雨が降っている。予報だと一日中降るわけじゃなく、夕方にはもう止んでいるらしい。


 「おいおい、火事を防げる“アルティメット・セーフ・プラグ”だって!」

 「......あなた買わないわよ?」

 「いやいや、タコ足配線を防ぐんだぞ! 一穴だからな! 買わない手はない」

 「馬鹿なの? あなた、仕事はもういいから病院行ってきてぇ? 頭の方のね」


 さっき、千沙に今日は午後雨が止むまで高橋君には待機してもらえるように伝達をお願いをした。


 「でも、高橋君と千沙性格合わなさそうだよね」

 「あら、どうしてそう思うの?」

 『ピッ』

 「ちょっ、チャンネル変えないでよ」


 「だって高橋君と性格真逆じゃない?」

 「真逆?」

 「千沙に前言ってたでしょ。高橋君は“何事も丁寧で、やる気なケダモノ”って。あ、あと筋肉ケダモノとか」

 「そう言えばそうねぇ」


 千沙と真逆と言ってもいいほどじゃないだろうか。妹のこと悪く言うわけではないけど、千沙は物事をテキトーに取り組むし、面倒くさがりなところがある。き、筋肉はどうでもいいけど。


 「なぁにぃ? 葵、貴方、高橋君が千沙にとられるか心配してるのぉ?」

 「そっそそそんなわけないでしょ!」

 「じょ、冗談よぉ冗談」


 でもいいなぁ。私も千沙みたいに東の家あっちに部屋を作っていれば、偶然彼にバッタリあっても事故で済むし。勘だけど高橋君、部屋とか裸で過ごしていそう。いつでも筋肉拝めそう。


 って私、なに事故のせいにして彼の身体見ようとしているの?! これじゃあ変態だよぉ。


 .....父さんは暇なのか、冷蔵庫に行き、プリンを取り出して食べている。時計を見れば、おやつの時間の15時だ。そういうとこはきちんとしているよね......。


 「でもほら、意外と相性いいかもよぉ?」

 「え、どうして?」

 「泣き虫さんはほら、聞けばゲームとかバイクいじり好きらしいじゃない」

 「そうなの?」

 「以前、陽菜と話をしてたのを聞いたのよ」


 そうなんだ、知らなかった。千沙もゲーム好きだし、一日中やってることを胸張って言っていた。本当は姉としてそんな生活は叱るべきなんだけど。


 バイクいじりかぁ。以前、免許取ったから乗っているって言ってたっけ。たしか中古で買ったらしくて、でもそのせいか修理を度々しているらしい。それでバイクいじりが好きになったのかな。


 高橋君は原動付き自転車原付に乗っているんだよね。大きいバイクなら私も後ろに乗せてもらって、彼の胸板と腹筋を触れるのに.....。疲れているのかな私。最近こんなことばっか考えている気がする。


 「ふふ」

 「?」

 「葵も二人が気になるのぉ?」

 「なっななわけないでしょ!」

 「今頃シちゃってるかもねぇ」

 「え、なにを?」

 「エッチよぉ?」

 「えっええエッチ?!」

 「二人共若いんだし、泣き虫さんのことだからあり得るかもよぉ」

 「そそそそんなことするわけないでしょ!」

 「避妊はしてほしいわぁ。あっでも孫の顔も見てみたいかも」

 「母さん!!」

 「おほほ。冗談よ、冗談」


 うぅ。年齢=彼氏いない歴の娘の前で言うことかな普通。ち、千沙に先追い越されたら3日は部屋にこもれる自信あるよ、私。


 うーん、どうしようかな。私も出会いを求めて進学しようか迷うなぁ。今年の夏が高校生最後の夏だし、母さんや父さんはどっちでもいいって言ってるけど、考えちゃうよやっぱり。


 ちなみに私の偏差値的に志望校の農業大学校は現時点で合格レベル。場所を選ばなければもうたいして受験勉強せずに進学できるはずなんだけど、そのせいか変な余裕がある。


 「そう言えば母さんがよく言う“泣き虫さん”って高橋君のことだよね?」

 「そうよぉ」

 「どうして?」

 「ふふ、さぁねぇ」

 「えー教えてくれないの?」

 「秘密よぉ。それにきっと今しか小馬鹿にできないわぁ」

 「?」

 「そのうちきっとうちを助けてくれるになってくれると思うわぁ」

 「せ、正社員?」


 よくわからないけど、母さんの目が本気なのはわかる。まぁたしかに彼は変態だけど、仕事は丁寧だしきっちりこなしてくれるので非常に助かっている。


 「それはそうと葵、貴方」

 「?」

 「なんで彼のに興味があるのかしらぁ?」

 「ぶっ!!」


 私は飲んでいたアイスコーヒーを吐きそうになった。いや、少し吹いちゃったよ。


 「あののことと言い、ラム肉のことと言い、母さんちょっと心配よぉ」

 「ゴホッ.....ゴホッ」


 ば、バレちゃったよ、よりによって母さんに。


 「で、どうなの?」

 「べ、別に! なんでもないから! ダンベルは漬物石の代わりに良いかなって!」

 「.....そう」

 「そうそう!」


 なに言ってるの私! どこの家にダンベルを漬物石代わりにする家が在るって言うの?!


 「で、本当は?」

 「もう! しつこいよ母さん!」

 「秘密なのねぇ」

 「ひ、人のこと言えないでしょ.....」


 母さんだってさっき“泣き虫さん”のこと秘密にしてたじゃん。


 「私たちってやっぱり親子ねぇ」

 「.....そうだね。親子だよ、私たちは」


 そんなどうでもいいことを話しているうちに空は晴れていた。もう雨は止んだみたい。さて、少しだけだけど、高橋君呼んで仕事を再開しようかな。


 私は玄関に行き、仕事再開を彼に伝えようと東の家に向かう。どうか彼がツナギ服を脱いで半裸でいますように、と願いながら中庭を歩く最低な私だった。

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