閑話 陽菜の視点 下半身滅べ!!

 「ほんっと最低」

 「まだ言ってんのぉ、それぇ」


 私たちは和馬の家を出て、すぐ隣の桃花の親戚の家にお邪魔した。あ、あそこにいたら私、食べられちゃうかもしれないから。


 「だって、アレよ? なんであんなの視てんのよ....」

 「そ、それは男の子なんだし、当たり前だよ」

 「巨乳なんて、あんな胸、効率的じゃないわ」

 「あ、そっち。なに効率的って」


 わ、私だって見込みあるもん。ママの娘だし、葵姉を見ていると期待しちゃうわ。


 「ま、でも良かったんじゃない?」

 「? 何がよ」

 「“好み”を知れて」

 「っ?!」


 なっ?! そういう考えもあるわね。これはちょっと、これからあいつの家に通って、どんなのがあるか確認しなきゃ。


 確認したら、即パキッとするけど。


 「いやぁ、やっぱ巨乳好きかぁ。お兄さんも普通の男の子だね」

 「ま、まだ、そう決まったわけじゃないじゃない。守備範囲広いかもでしょ?」

 「それ言う? 陽菜も諦めないねー」

 「ふんっ! 不健全よ! 18歳未満禁止なのにあんなの持ってるなんて」

 「た、たぶん18禁は誰も守んないと思う」


 18歳未満禁止の商品なのに手を出すなんて、あの犯罪者め。


 「あ、でも、ほら。私もそれなりに大きいじゃん? お兄さん、狙ってたりし―――」

 「..................。」

 「う、嘘だよ。冗談だよ冗談。やだなぁ、陽菜ったらー」


 桃花も桃花でデカいから腹立つ。


 「それに今度他にも見つけたら、折ってやるわ」

 「“また”って。アレ折ってきたんだ。お兄さん可哀想」


 可哀想なのは、日頃こんな貧相な胸をくっつけている私よ。ちゃんとメリットだってあるんだから。


 まず水泳に水の抵抗が少ないのと、歩いているときちゃんと下の見晴らしがいいのと.............ぐすん。


 理解はするけど共感なんて絶対しないから。いや、理解もしたくないな。


 「陽菜これ知ってる? よく当たる占い師の話」

 「なにそれ。胡散臭そう」


 そう言って桃花が話題を変えて、私にスマホのSNSアプリで怪しいものを見せてくる。


 「そ・れ・が、意外とめっちゃ当たるらしいの。特に恋愛面で」

 「っ?!」


 すっごく興味あるんだけど。


 でもなぁ、これに食いつくと、桃花絶対、「なに陽菜ぁ好きな人でもいるのぉ」とかイジってきそうなんだよなぁ。


 「今度、友達誘って行こうかなぁ」

 「え、私じゃないの?!」


 「なんで? 陽菜も行きたいの?」

 「あ、いやっ」


 「だよねー。陽菜はそういうの興味ないもんねー」

 「し、仕方なく、行ってあげてもいいわよ?」

 「いや、いいよ? そんな渋々より、他の女子のほうが興味ありそうだし、その子と行くよ」


 こ、こいつ! なんかニヤニヤしてるし! でも一人でなんて勇気ないし、どーしよ。


 「ぷっ.......そうだ! 他の子たちはもう行ったんだった。ね? 陽菜一緒に行こ」

 「し、仕方ないわね!」


 なんとなくだけど、桃花、私で遊んでない? いやいや、親友なんだし、そんなことないわよね。私ったら疑うなんて最低よ。


 「陽菜そろそろ帰んなくて大丈夫?」

 「あっ」


 壁に掛けてあるアナログ時計を見ると、短針が19時に向きそうだった。

 

 「帰んなきゃ」

 「うん、じゃあね」


 私は桃花の部屋にでると桃花のおじいちゃんに会った。


 「おや、もう帰んのかい?」

 「はい、お邪魔しました」

 「また来んさい」


 この家のおじいちゃんとおばあちゃんは本当に優しい。良くしてくれている。だから桃花も良い子なのね。私は帰宅途中に和馬の言葉を思い出した。


 “優しさは伝播する”ということを。


 初対面なのに偉そうに語ってくれたけど、桃花の祖父母を見ていると本当にその通りだって実感する。


 ま、うちも良い家庭で、優しい人ばっかでほんっと私って果報者だなってつくづく思う。


 私は家の玄関に着く。そして、引き戸を開ける。


 その時に思い出した。

 「あ、勉強してないや」


 「お帰り、陽菜」


 そこにはニコニコして私の帰りを待っていた、葵姉とママが居た。


 私が大泣きするのに時間はかからなかった。

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