第14話 全然イかないときに限ってイかせたがる奴
「こんにちは~」
今日もバイト野郎アルバイトをしに中村家の門をくぐる。天気は曇り、天気予報ではもしかしたら雨降るかもしれないと予報していた。
くっそ、週に2日しかないせっかく葵さんに会える土日なのに! まぁむしろ俺が働き始めてから土日を避けて雨が降っているようで、実はバイト野郎は晴れ男じゃないんだろうかと思い始めてたんだよな。
そうか、今日で記録更新は終わりか。そりゃ天気に文句を言ってもしょうがない。無論雨降ったら仕事は終わりである。
俺は中村家の中庭で辺りを見渡す。人の気配がなく静か。たしか今日は日曜日で直売店を開く日だったか? まだ葵さんが帰ってきてない辺り、繁盛してんだなぁ。
「あ、来たわね、和馬。今日は
こいつまた居んのか。
「おう、さんきゅーな先輩。ところでお前最近、土日部活行ってんのか? なんか毎週いる気がするんだけど」
「ギクッ!」
「もしかしてまた豆とかできたん?」
土日行ってなくても平日あるならそこで豆を作ってたのかもしれない。豆ってそんな高頻度でできるものなのか、よく知らんな。中学の時、毎晩、木刀を素振りしてたけど、たいしてできんかったし。個人差だよな、やっぱ。
「そ、そうよ、血豆が痛いから部活は控えているのよ」
「まじか、気を付けろよ。顔じゃなくても女の子なんだから傷は避けなきゃな」
「え、ええ、心配ありがと」
どうやらいつの間にか豆が血豆に昇格したらしい。がんばってんな中学生。
「あーーー!! やっぱいた!!」
「「っ!?」」
び、びっくりしたぁ。なに急に。振り返ると開けっ放しの門から一人の女の子が大声を出した。
「陽菜、あんた最近、土日部活来てないでしょ!? メールも返事ないし、なんで来ないの!?」
「え、桃花!? なんでここに....」
「訊いてんのこっち!」
「え、いや、別にぃ?」
そう言って急に大声を出したかと思えば、今度は陽菜を尋問しだした女の子は桃花ちゃんと呼ぶらしい。
黒髪セミロングで右の髪を耳元ら辺をピンで止めているのが特徴的で、身長は陽菜ちゃんより少し高いくらい、胸も陽菜の比じゃないくらいデカい。てかこの子、可愛い。陽菜の同級生かな。
「なによ、別にって? 平日はいるのに土日来ないとか、バド部のみんな、あんたに彼氏できたんじゃないかって言ってたわよ」
「か、かかかかか彼氏じゃないわよ! 居たらあんたとかに相談するでしょ!」
「そうだよね、あんた見た目良くても中身ツンツンだもんね」
「誰がツンツンよ!」
はは、こいつのためにわざわざ桃花ちゃん様子を見に来たのか、いい友達をもったね。っていうか。
「こいつ、血豆できてるんだよ? あ、こんにちは」
「こんにちは。すみません、挨拶が遅れました。いやぁてっきり私、お兄さんが彼氏かと思いましたよ」
「んなわけないでしょ!? 誰がこんな奴彼氏にするのよ!」
「だよねぇ」
ポニ娘はともかく、初対面で気軽に傷つけるじゃねーよ。気にしてんだぞ。眼鏡か、眼鏡がいけないのかな。ぐすん。
それにお互い作業着だぞ。世界中のどこに自宅デートで作業着きてるカップルがいるって言うんだ。正気の沙汰じゃないぞ、それ。
「お兄さん、どっかで見たことあるような気がします」
俺は知らんな。まぁ、俺も同じ地元の中学で先輩でもあるから、ありえない話ではない。
「っていうか、なに、血豆って」
「げっ」
「『げ』、じゃないわよ。あんた血豆できてんの?」
「かもしれない」
なんだ、かもしれないって。
「「..................。」」
黙る二人。そして、
「ちょっと見せなさい!」
「い、いやよ!」
「なんでよ!」
「う、うつしちゃうかもしれないから!」
「大丈夫、それもう血豆じゃないから! それなにか違う病気だから!」
「いやぁぁぁああああ!」
急に取っ組み合いを始めた中学生二人。両者互角といったところ。
「ちょっ! お兄さんも手伝って!」
「触んないで! 和馬、あんた触ったら通報するから! 嫌がる女子中学生を無理矢理縛ったとか言うから!」
「大丈夫よ、お兄さん! 私が証人になるから! むしろ J C に触れられるいい機会だと思って!」
ギャラリーを巻き込まないでほしい。
あと桃花ちゃんそういうこと言わないでもらおうか。余計できないじゃないか。 J C って君が言っちゃアウトだよ。
「うぅ、和馬ぁ! 逆にこいつを取り押さえて! ご褒美にパパに時給を最低賃金まで上げるよう言ってあげる!」
「なっ!?」
「ほら! もう3桁の時給は嫌でしょ? さぁ! はやく!」
おお! 正直、血豆はどうでもういいし、俺的には時給を上げてくれた方がメリットが高い。
「お、お兄さん、私を縛ったら、通報するから! 嫌がる J Cを縛り上げてヤラシイことしてきたって言うから!」
どっちにしろ通報は免れないバイト野郎。あと地味に罪が重くなっているんだけど。
「大丈夫! 出所したら時給が最低賃金よ!!」
なお、ポニ娘は証人にはなってくれず、全て事後のご褒美の模様。こちらはメリットが皆無になった。
なんだ、出所したら最低賃金に上がるって。
「はぁ、陽菜もう諦めろ」
「お兄さん、私右手と身体抑えるから! 陽菜の左手見て!!」
「いやよ! やめて!」
ってことは陽菜お前左利きなんだな。俺は陽菜のバタバタさせている左手を捕まえる。
日頃、部活で頑張っている陽菜の左手でも、やはり男である俺の膂力の前ではただの華奢な腕である。
つうか、もう反応で血豆ないことくらい普通に分かっちゃうんだけど。
「おまわりさーーーん!コイツで――フガッ!」
「口抑えとくから!早く!」
「お、おう」
ちゃんと証人になってくれよ、桃花ちゃん。
と多少強引に手を開かせたからか簡単に手のひらを見れた。……血豆どころか傷1つない手のひらを。
「ほーら、やっぱりないじゃない。陽菜の嘘つき!」
「うぅ、血豆あったもん、嘘じゃないもん」
血豆はまっく〇く〇すけかなんかかな。
「......ふーん、そういうこと」
そう言って桃花ちゃんは俺と陽菜を交互に見る。
「皆して何しているの?」
と、そこへ我らが女神、葵さんが直売店から帰ってきた。
そういうことってどういうことよ、桃花ちゃん。
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