第13話 塗るなら白がいいのは男の性(さが)

 「今日は少し涼しいな」


 今日は晴れ。6月に入り、普通なら夏に近づき、暑さをどんどん増すはずなんだが、今日は珍しく涼しい。晴れってるのにな、変なの。


 スマホのお天気アプリで見ると20度となっている。そこまで涼しくない気温のはずなんだが...........あっこれか。


 そう思い、俺は腕を見る。原因は“甲掛け”である。これはTシャツだと夏は快感なんだが、防御面で腕の露出に問題がある。そのため腕全体にこれを被せて守るんだが、この“甲掛け”、夏仕様に冷感機能まである。おかげで涼しいのなんの。


 ちなみに今日のお仕事内容は“ペンキ塗り”である。西の家、“タクゾー”の屋根のトタンにペンキを塗る作業をしているのだ。


 「落ちないように気を付けてね?」

 「落ちても助けないから、できるだけ怪我が少なく済むように落下するのよ?」


 心配してくれてるのは同じだけど、この言い方の差。もちろん前者は我らが女神こと葵さんで、後者はリア充のポニーテール娘こと陽菜ちゃん。陽菜ちゃんは俺が落ちること前提で言うのな。


 「大丈夫です、。高いとこは苦手ですがこれくらいなら平気です。それに落ちてもこの高さなら華麗に受け身をとって見せます」

 「ちょっと私も心配してるんですけど!」

 「あ、さーせん」

 「テキトー!?」


 俺、実は高所恐怖症なんだけど、まぁ地面から3、4メートルくらいだし何とかなりそうな気がする。


 「なんかあいつ、最近私に冷たい気がするんだけど......」

 「そう? いつもの感じじゃない?」


 うっせ、リア充。この前のこと気にしてんだぞ。バイト野郎は向こう2週間程、ポニ娘を雑に扱う所存。っていうか君、最近、土日部活行ってんの? バイト野郎は両日ポニ娘をよく見るんですが、サボりすぎじゃありません?


 「ちょっと寂しいじゃない」

 「はは、気のせいだよ」


 あちらで何か言っているがこっちまで聞こえない。なに、世間話でもしているんだろう。


 しっかし梅雨の時期なのにこれから晴れが数日続くという予報のせいか、ペンキ塗りさせられるとはバイト野郎、不意打ちを食らった気分である。いつもバイトはじめに仕事内容を言われるんだが、雇い主から言われたことがこれ。


 「うーん、なにしよ、正直これと言ってが無いんだよな。あっ今のなし、危険というかね。いやぁ、危ない危ない。雇用主として言っちゃいけないセリフだね」


 危ないのは何させらるのかわからない俺の方。おかげで最近、バイトの前日、寝付けが悪い理由わかったわ。あれ、恐怖心からなのな。てっきり葵さんとか陽菜ちゃんに会える楽しみからくるものだと思ってたけど錯覚でしたね。


 「あっペンキ塗りをしてもらおう。あれなら高いとこで作業するだけだから安心だね」


 その高いとこが危ねーんだよ。なぜそこまでバイト野郎を危険な目にあわせたいのか、つい疑問に思って訊いてしまった。


 「なぜいつも怪我をする可能性の高い仕事ばかりするのでしょうか?」

 「え、それは娘に近づく野じゅ....ゴッホン! 予めいろいろと危険な仕事を体験すれば注意力とか身につくじゃん? 君のためさ」


 俺のためというより娘のためですね、はい。よくあそこまで言って180度転回できるよな。野獣は否定しないが、怪我しそうなのは避けたい。


 ま、そんな感じで俺は昨日から、つまり土曜日と日曜日の両方を使い、ペンキ塗りをする。なんでもこの作業はただペンキを塗るだけじゃく、まず以前のペンキや錆で表面がザラザラしているところ、掃除も含めてブラシや濡らした雑巾で綺麗にするのである。


 そのため二日に分けて作業をするのだが、今日は二日目、つまり、日曜日でこの屋根一面を塗らなくてはいけないのである。まぁそんな業者レベルまでやるわけじゃないのでそこまで気負う必要はないのだが。


 「終わったらお茶しようね、それまで頑張って」

 「ささっと終わらせなさいよ? 先輩二人を待たせるとか、市中引き回しもんだから」

 「もう、またそういうこと言って。陽菜だって早くとお茶したいくせに、素直じゃないんだから」

 「わ、私は別にそんなこと思ってないし!! おやつの時間過ぎちゃうから急かしてるだけよ!」


 早く終わらせよう、天使が待ってる。つっても塗るのも最低限ムラなく塗らないと仕上がり具合に後悔するから手は抜けない。


 ちなみに塗っている色は暗い赤、ワインレッドといったとこである。雇い主曰く「屋根で怪我しても血が目立たない」らしい。どっちかというと屋根から落下して、地面にバイト野郎のワインレッドが飛び散ると思うんだが。


 また「冗談、冗談、たまたまだよ」と付け加えていたが、もはや素直に信じれるほどバイト野郎は神経図太くない。


 「ね、ねぇ、もしあれだったら少し手伝ってあげてもいいのだけれど」

 「おっ、陽菜がデレた」

 「デレてないわよ!」


 まだ時間まで余裕があるから大丈夫である。危ないのは今、屋根の端を塗っているので急な斜面じゃなくても落ちそうで怖いということ。葵さんたちにかっこ悪いとこ見せられない。


 「ありがと。でも、もうここで終わるし平気。そんなにおやつしたいなら先いいぞ? なんか待たせて悪いし」

 「おやつはどうでもいいの!」


 どっちだよ。さっきおやつの時間が過ぎちゃうって文句言ってたじゃないか。なんなの? バイト野郎、よくわかんないよ。


 と俺は斜面がそんな急じゃないからって油断した。近くに置いていたペンキを入れていたバケツを落としてしまった。いや、バケツはぎりキャッチできたが、中身のペンキが下に―――


 「うわっ!」

 「きゃっ!」


 葵さんと陽菜ちゃんにかけてしまった。俺としたことが、なんて失態を!


 「すみません! 大丈夫ですか!」

 「うん、平気、そっちも大丈夫? 高橋君、落ちそうじゃない?」

 「うへぇ、最悪........」


 目とか口に入ってなくて良かったぁ。彼女たちは全身ところどころワインレッド色のペンキがかかってしまいドロドロである。なんか殺人か大怪我しましたみたいな格好みたい。ちなみに私服ではなく、汚れたのが作業着なのでほっとしたことは黙っておく。


 「ごめんね。作業して忙しいのに、私たち邪魔しちゃったみたいで。大人しく待ってます」

 「ああああああ! 私のスマホ! とんクイーン!!」

 「ほ、ほら、陽菜、あっち行こ? 今度買ってあげるから」

 

 かけといてほんと悪いが、葵さんて本当に根っからのお姉さんですね。


 はぁ、どうせぶっかけてしまうならワインレッドじゃなくてが良かった。いや、美少女に白濁液とか、もう犯罪だけどさ。


 まぁその場合、お茶会に前かがみの姿勢で参加は避けられないんだが。

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