閑話 陽菜の視点 分岐点
「......相談したいんだけど聞いてくれない?」
私は彼に部活と家業のこと相談してみた。
「あんた高校生でしょ? 家業がない一般家庭でも何かしら迷うことなかった?」
「もちろんありましたよ? 面白いことに、似たような境遇の経験もあります。それでもってどこの家族も似たような対応を自分たちにします」
「似たような対応?」
「ええ、どこも一緒です。だから自分がしたいことを優先しましたよ」
ふーん、こいつやりたいこと優先したんだ。一般家庭なんだし普通そういうもんよね。親のこととか考えないのかしら? 家業とまで言わなくても家族のため、安心させるためとか思わないの?
「だから、似たような対応ってなによ?」
「いえ、ですから、自由にさせるですよ」
「自由?」
「千沙さんの言う通り、家業のお手伝いやろうと部活頑張ろうとどっちでもいいんです。ただただ、選択した自分が後悔していけない、葵さんたちが望んでいるのはそこだけだと思います」
そんなの詭弁よ! だって現にみんな言わないだけで苦労してるじゃない!
「葵姉だけじゃない、母さんや父さんも優しいからそう思っているだけじゃない。本当は日頃あんなに忙しいから少しでも手伝って欲しいかもしれない―――」
私の言葉を遮って彼は言う。
「いいですか。持論ですが優しさは伝播するものです。人は誰しも他人から優しさを貰わないと自分から優しさは出せません。素でやっているような人なんて極僅かですよ」
え、なによ、急に。優しさ? なら私が家業をすればその優しさになるでしょ!
「つまりですね、葵さんも両親からそのような選択肢を与えられて自分で選んだはずです。その両親だって同じように家族から優しさを貰い、子に与えるんですよ。その行為が間違っていないからずっと続いて貴方に、陽菜ちゃんに渡すんです」
葵姉が? ママが? パパが? いや、そうじゃない。
「でも人の役に立つことも立派でしょう? それに自分勝手しすぎて嫌われたりするかもしれないじゃん!」
思わず本音を言ってしまった。軽いお悩み相談で終わらせようとしたのに。
「他人の顔色をうかがい、気遣うことは大切です。ですが与えられた選ばなきゃいけない選択肢を自分自身で決めず、遠慮で決めるのは貴方を1番に考えた家族に失礼ですよ?」
..........なにそれ、そんなのただの―――。
「…
「
「今の私はそれで良いの?
「ええ、良いですよ。いづれ、貴方がその優しさを知れば次の人に貴方が
なんで彼は肯定するのだろう。高校生になったからそんな達観したようなセリフを言うの? なんか高校生って大人みたい。
「........なんか親というか先生みたいなこと言うわね、あんた。ほんと高校生? おじさんの間違いじゃないかしら」
「少なくとも貴方より1つ上です」
「生意気.........あっでも私の方が農家としては先輩だからね!」
「うっ。そう言われると痛いですね」
ほんと生意気....。そんなことに気づけて、覚えて、行動できるなんて....憧れちゃうじゃない。
「はぁ、なんかバカみたい。こんなことで悩んでいるなんて。そうよ、他人なんかどうでもいい! 私は私のやりたいことをするだけ! 自分勝手に生きてやるんだから! せっかく皆に優しくしてもらってるんだから、甘えなきゃ!」
はは、私は恵まれている。末っ子だから甘やかされてるって思ってたけど..............そう順番なんだ。
なら甘えなきゃ! ママや葵姉、千沙姉、ついでにパパも後悔させてやるんだから!
「ふふ、相談に乗ってくれてありがと!」
なんか肩の荷が下りてとっても気分がいいわ! これ私の
「ほら早く! 置いて行くわよ!」
目的地なんてすぐ傍なのについ嬉しくて走っちゃった。彼が呆れ顔でついてくる。
家族の皆、私にこれからを選ばせようとしてくれたのは感謝するけど、彼みたいに真正面から向き合ってくれるほうが助かるわ。
キャベツ畑のことと言い、ぱっとしない普通の眼鏡男子だと思ってたけど見直したわ。ちょ、ちょっとだけよ!
ほんとありがと! これからもなにかあったら頼むわよ!
そんな素直に言える性格でもない私だからそっと心に留めておく。
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