第三章 不意打ちって知ってますか?
第10話 リア充は日本語で爆散しろの意味
「千沙さんってどんな人なんだろうな」
現在時刻14:30。バイト終わりまであと2時間半ほどある。
このバイトを始めてからまだ1カ月経ち、今は5月中旬。そもそもこのバイト平日リアル高校生の俺には土日しかバイトをやる日がない。というのは、“明るいうちにやる仕事”が多いためである。
学校終わるのが16時だとしたら、帰宅時は17時過ぎになるのでとてもじゃないがろくに働けない。必然的に土日返上である。ちなみに高校は徒歩+電車で1時間の場所にある高校に通っている。
1カ月経つというのに千沙さんには相変わらず会えない。週二回、1カ月経って計8回あったのに。まるで避けられているかのような気分だ。大体、タイミングが悪くて外出してて会えないのだろうか。
「暑すぎて辛たん」
今俺がしている仕事は野菜の残渣を燃やす作業だ。一人でね。慣れたもんさ。
ちなみに今日は日曜日で直売日でもある。つまり忙しいのだ。特にピーク時の1時から2時まで特にお客さんの数も多く、そのため普段は真由美さんと雇い主で店番をするのだが、その時だけ葵さんが手伝っているらしい。
「5月ってこんな暑かったかなあ? うっわ汗かいてるじゃん、俺。臭って葵さんに嫌われたりでもしたら堪ったもんじゃない」
「ちょっと近くにいる私じゃなくて、なんでここにいない葵姉のこと気にしてんのよ」
「あ、ごめん」
見るからに機嫌悪そうにポニーテールを左右に揺らしている女の子。そう彼女はポニーテール娘こと陽菜ちゃんは不満を漏らす。
「というか汗の臭いより、残渣燃やして出た煙の臭いのほうが強いんじゃない?」
「たしかに煙たいよな、燻製の気分だわ」
ちなみに出会って30分で人生相談を初対面でするこの猛者、陽菜ちゃんはそれ以降、俺に対して「敬語使うの変じゃない? いやたしかに私のほうが職場では上司だけど」とかぬかすので、素のままで接している。楽だしな。
ついこの間まで思春期真っ最中の悩みを抱えてたくせに。いや、俺も今真っ只中なんだけど。
「今日は日曜日で普通に部活あるんじゃないか? なんというかこの前あんな話していたから、部活を優先するとか決意してたじゃないか」
彼女はバドミントン部だ。その部活は毎週土曜と日曜にちゃんとあって、前回のような休みは珍しいくらいだそうだ。
なのになぜ、ポニ娘さんはここに居るんだろう。
「べ、別に? 私のしたいことをするって言ったじゃない? 今日は家業を手伝う気分なのよ。第一、最近部活でラケット降りすぎたから、手に豆ができて痛いもの。今日はお休みよ」
おい。前回、「部活を頑張りたい!」とか言ってただろ。そんなもんかお前のバドミントンへの愛は。
「ま、どっちでもいいけど。あっ、火が消えそう。燃すやつ乗せなきゃ」
この野菜の残渣を燃やす作業、一応、消防署に許可をもらわないと燃やしちゃいけないらしい。正確には火を扱うことに関してだが。
なんでも昔は許可とか関係なくこの辺の農家の皆さんはバンバン燃していたらしい。でもある日、どっかの農家が火加減を考えずに大規模に燃していたら、案の定ここから少し離れたところにある住宅地域の人たちが通報した。当たり前だわな。
近くで燃やしているところを見られたなら“作業”として見られ通報されないが、遠くで燃えてたら状況が把握できない。見に行って確かめるより、電話でポチっと通報のほうが早いのである。
ちなみに通報されたのは俺の雇い主である。
この仕事に取り掛かる前に雇い主はこう言ってた。
「いや~あの火はすごかったよ。芸術性を感じたし、なんかの儀式に使うような燃え方だった」
何言ってるかいまいちわからないが、しいて言うなら、それは通報される儀式です。放火魔じみたことを言う雇い主をほっといて作業しているうちに、その雇い主はいつの間にかどっか行っていた。
良いのか、高校生と中学生に任せっきりで。まぁそんな大々的に燃やしていないが。
燃やす仕事もそろそろ終わりそう。今燃えている火が消え、一応、持ってきた背負動力散布機で水をかけて仕事完了だな。まだ時間余ってるし、次の仕事なんだろ。
ちなみにこの背負動力散布機という機械はその名の通り、タンクに入った水を背負いながら散布する機械である。
今日は水だが普段は草を枯らすのに使う除草剤や草の成長を抑制する抑制剤などいわゆる農薬を撒くために使うらしい。
「なあ、千沙さんってどんな人なの?」
「またその話ぃ? ここに素敵なレディがいるのよ? 普通、他の女性の話するかしら?」
「別に付き合ってないんだし、そんなこと気にしてんですか? 先輩?」
「わ、わかってるわよ、そんなこと! 誰があんたなんか眼鏡、彼氏に選ぶってんのよ! いないわよ、そんな奴!」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないか。気にしてるんだぞ!」
「そういえばあんたちゃんと高校デビューできたの? 彼女いないの?」
「お、おまっ! 気にしていることバンバン言いやがって!」
「あ、居ないんだ。ほっ....じゃなくて、くすくす(笑)」
こいつ!! 俺だけじゃなく、眼鏡まで馬鹿にしやがって!
「そういうお前はどうなんだよ?」
「え、わ、私? 私はいいの――」
「まさかいないわけないよなぁ? あれだけ言ったんだ。彼氏がいて、自分は学生生活満喫してますくらい言えるよな?」
ははーん。人のこと散々馬鹿にするだけしといてコレだよ。謝ってもらおうか。
「はっ! 人のこと言えなかったな!」
「..................るわよ」
「は?」
「いるわよ! あんたと違って彼氏くらいいるわよ!」
え、ええー。いんの? まじ? いやいや嘘の可能性もある。なに証拠写真見せろとかゆすれば本当かどうかわかる。
「な、なら証拠写真くらいあるよな? カップルなんだし」
「ちょっと待ってなさい」
そう言いポニ娘はポケットから女の子らしいスマホケースのスマホを取り出した。スマホケースにはキャラクターがデザインされていた。たしか今流行りのご当地キャラクター、
「ほ、ほら! これが証拠よ!」
「なっ!」
証拠の写真には4人映っていて、陽菜と他の女子中学生、そして二人の男子。あ、これいわゆるダブルカップルの写真か。4人ともお揃いのTシャツでなんつうかキラキラ輝いていた。
どっちの男が彼氏なんだろう。右かな左かな。.....どっちにしろ、負けた。
「....そうか、そうなんですか。彼氏いるから俺のこと馬鹿にできるのか」
「い、いや、まぁごめん。これ冗―――」
「謝るな! お前にはその資格があった。それだけだ。...リア充目め」
「.........。」
さいですか。あーはいはい。高校生にもなって彼女のかの字も知らない俺と、中学生でもう交際経験がある彼女じゃ格が違いすぎたんだ。
燃やす野菜の残渣もない火が俺の心の
..................あ、消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます